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ザ・ホエール(2022)
ダーレン・アロノフスキー監督「ザ・ホエール」を観た。
恋人を亡くしたショックから過食を繰り返した主人公チャーリーは、体重272キロと重度の肥満症になり、家の中での移動もままならない。
そんな彼が自らの死期を悟り、離婚して以来長らく音信不通だった17歳の娘エリーとの関係を修復しようと決意する。
ところが家にやってきたエリーは、"幼い頃に父親に捨てられたトラウマ"から脱せず、学校でも家庭で多くのトラブルを抱え、心が荒みきっていた…
といったあらすじは公開されているのだが、実際に映画本編を観ると、チャーリーの背景どころか、その部屋にやってくる人物のそれぞれの背景も、そこに登場するエッセイや写真や聖書の意味も最初は何も説明されず、連続するチャーリーの日々の生活の途中に突然割り込むように物語は始まる。しかも、チャーリーの日常は決して美しくもない。(最初の入り方なんて、ホントにビックリした。)
映画の冒頭で、発作が起きて死にそうなときにチャーリーが読もうとする『白鯨』に関するエッセイ。彼は後生大事にこのエッセイを印刷した紙を身の回りに置いているのだが、その意味がわかるときに、彼が何を一番大切に考えていたのかがわかる。
最初は何も明かされず、物語が進むのだが、それらが徐々にわかってくることで、物語の構造全体が見えてくる。そしてそれが深い感動につながっていく作りは見事。
この恐るべき肥満症の男を演じるのが、あの「ハムナプトラ」等のブレンダン・フレイザー。カムバック作と言える本作でアカデミー賞の主演男優賞を獲ってしまうのだから凄い。脇を固めるホン・チャウも微妙な感情を絶妙な表情で演じて素晴らしい。
舞台劇が元になっている本作は肥満症で家から出られない主人公を中心とした室内劇であるが、そんな舞台の窮屈さをまるで感じさせない演出が巧い。また、ダーレン・アロノフスキー監督らしい露悪的な表現も、この主人公が置かれた境遇とマッチして良い効果を生んでいる。
【以下、ネタバレ】
結婚して娘をもうけたものの、教え子の男性と恋に落ちてしまい奥さんと娘を捨てた男が、人生の最後に娘に自信を取り戻させ、娘の幸せな未来を遺そうとする姿とラストの光が美しい。
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