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NOCEBO ノセボ(2022)

今年劇場で観る映画1本目は、とても奇妙な映画「ビバリウム」を撮ったロルカン・フィネガン監督の新作「NOCEBO ノセボ」です。

ファッションデザイナーとして名を馳せるクリスティーンは、夫と幼い娘と3人で幸せに暮らしていました。ある日、仕事中にクリスティーンはダニに寄生された犬の幻影に襲われ、その後、彼女は筋肉の痙攣、記憶喪失や幻覚などを引き起こす原因不明の体調不良に悩まされることになる。

そんな彼女の前にダイアナと名乗るフィリピン人の乳母が突然現れ、伝統的な民間療法を用いてクリスティーンの治療にあたることで彼女の信頼を得る。やがてクリスティーンは民間療法にのめり込んでゆくのだが、それは一家を襲う想像を絶する悪夢の始まりだった… というお話です。

「ビバリウム」同様に独特の美的センスと語り口が巧妙で、なんとも言えない気持ち悪さに纏わりつかれるような触感。延々と不気味な展開が続くものの、いわゆる殺人鬼に人が襲われてギャーッみたいな怖さはない。

いくら記憶障害があっても、頼んだ覚えのない見知らぬ乳母を自宅に受け入れてしまうのは変じゃ無いかと思うけど、クリスティーンはそういう精神状態にあったということで、そこは納得しよう。受け入れなきゃ始まらないからね!

同様に夫の言うことより嘘を信じちゃうところも… 気にしないでおこう。まぁ、呪いで操られてるようなもんだから、何もかも仕方ないんだけど、展開がご都合主義的に見えてしまうのは気になった。(「ビバリウム」は、最後までわけわかんないまんま貫いたのが良かったのかな…)

とはいえ、この独特の嫌な感じを保ちつつ、巧みに話を運んでいくあたりは監督らしさが出ていていいかな。

ネタバレしちゃうと全然面白くなくなるので、何も事前情報なしでご覧ください。

【以下、ネタバレなので、観る前に読まないでね】

映画の中盤でクリスティーンが「昔は自分で縫ってたけど、今はデザインだけ。縫ってくれる人が他にいるから」と言った時点で、この映画の企みと結末が予測できてしまったのが残念だった。わざわざ言わなくても良かったんじゃないかな。ズルいことはしたくないという監督の善意か?

本作はホラー映画の形を借りて、先進国のファストファッション企業が賃金の安い国に工場を作って、劣悪な環境で仕事をさせている現実の問題を非難する意図がハッキリしている映画でした。エンドクレジットでも表明されているし。

この映画を観る観客に、あなたが着ている服や身の回りのものがどうやって作られているかわかっていますか?と問いかけることでゾッとして欲しいし、気付いて欲しいということなのでしょうか。(で、ダニは、他人の血を吸って生きている生き物の象徴として使われているのですね。)

それはそれで巧くやってるとは思うんだけど、それによって映画としての面白さは削がれているように感じました。

【追記】その後、2021年に「ビバリウム」を観たときの自分の感想文を見直してみたら、「ビバリウム」でも"社会の中で労働力を維持することで一生を終える?一般市民とそれを使う支配層?みたいな現代社会の仕組みを風刺したいのか"って書いてたので、「ノセボ」と同じでしたね!

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