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籠の中の乙女(2009)

ヨルゴス・ランティモス監督の2009年作品「籠の中の乙女」をようやく見た。第62回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリ。第83回米アカデミー賞では、外国映画賞にノミネートされた作品。

今日はこの言葉を覚えましょう。
"海"とは、皮張りのアームチェアのことです。
"高速道路"とは、とても強い風のこと。
"遠足"とは、硬い建築資材で建物の床に使われます。

思春期を迎えた3人の若者が、自宅でこんな教育を受けている奇妙なシーンから映画は始まる。

ギリシャの郊外にあるプール付きの大邸宅に暮らす裕福な家庭。そこでは夫婦と娘2人、息子1人が暮らしている。しかし、この家庭では、両親が子どもたちを"外の世界の汚らわしい影響"から守るために、ずっと家の中だけで育てている。

邸宅の四方に高い生垣をめぐらせ、子どもに「外の世界は恐ろしいところ」と信じ込ませるために作られた「厳格で奇妙な」ルールの数々。
学校にも通わせないその様子は外の世界からすれば異常なことだったが、純粋培養された従順な子どもたちはそんな環境で成長し、幸せで平穏な日々が続いていくかのように見えた。

しかし、成長とともに好奇心の芽生えた子どもたちは片方で恐怖を抱えつつも、次第に外の世界に惹かれ始める。そんな子供たちを抑えこむために、"犬歯が抜ければ、父親のように車に乗れば外出できるようになる"と教えたり(もちろん、もはや犬歯は生えかわらない)、生垣の外には"猫"という恐ろしい猛獣がいて、もし"猫"が現れたら犬の鳴き真似をして追い払うんだと鳴き真似の猛特訓までする始末…

独裁者たる父親が支配する家族の姿と、徐々に狂っていく歯車。そして、登場人物の全身をフレームに収めずに敢えて首から上を切ってしまう居心地の悪いカットなど、設定も物語も画角も気持ち悪いところは、なるほどヨルゴス・ランティモス監督作品…というところか。

結婚記念日に両親のために子供たちが披露する奇妙なダンスも、とてもシュールだ。

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