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君は行く先を知らない(2021)

イランの巨匠ジャファル・パナヒの長男パナー・パナヒの長編監督デビュー作「君は行く先を知らない」を観た。

冒頭からカラっカラに乾いた砂漠の風景を背に停まっている一台の車。やんちゃにはしゃぐ男の子。途方に暮れたように遠くを見る青年男子。やや無表情な母親。目が死んだように虚ろな父親。

そんな寂しい景色と虚ろな表情に重なる、寂しげなピアノの音色が美しく、何故か胸を衝く。

イランの国境近くを車で旅している4人家族と1匹の犬。幼い次男が大はしゃぎする中、怪我人の父は不機嫌に悪態をつき、母は昔の流行歌を口ずさみ、成人したばかりの長男は無言でハンドルを握っている。車はどこへ向かうのか? 何が一家を待ち受けているのか??

大自然の中をゆっくりと走る車を遠くから引きの画で撮っても、そこにはなんともいえない情緒豊かさがあって、無駄を感じさせず、不思議と飽きない。

やがて、この旅が何のための旅かわかるのだが、これだけ最小限の要素で組み立てられた物語なのに、実に深い家族の物語が伝わってくる。

撮影当時6歳だったという次男役のラヤン・サルアクの天真爛漫なエネルギーの眩しさ、長男役のアミン・シミアルの憂いを帯びた眼差し、両親役のモハマド・ハッサン・マージュニとパンテア・パナヒハによる人間味あふれる演技… どれもが素晴らしい。

とても静かに、イランという国だからこその深い家族愛を伝えてくれる見事な作品である。

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