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苦い涙(2022)

フランソワ・オゾン監督がライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの名作「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」の再創造に挑んだという映画「苦い涙」を観た。

著名な映画監督ピーター・フォン・カントは、助手のカールをしもべのように雑に偉そうに扱いながら、事務所も兼ねた超お洒落なアパルトマンで暮らしている。カールは、そんな扱いをされながらもピーターを尊敬し、あらゆる雑務を黙々とこなしている。

あるとき、ピーターが恋人と別れて激しく落ち込んでいるところへ、大女優で親友のシドニー(演じるは、イザベル・アジャーニ)が、美しい青年アミールを連れてやってくる。ピーターはたちまちアミールに恋してしまい、アミールを自分のアパルトマンに住まわせ、映画の世界で活躍できるように手助けするのだが…

若い青年にすっかり惚れ込んで何でもしてあげるからずっとそばにいてほしいと願うピーターと、ピーターの力は利用したいけど束縛されるのも恋愛の自由を制限されるのも嫌な美青年アミールの同居生活はやがて噛み合わなくなっていく。

愛に翻弄され、のたうち回るピーターの喜怒哀楽を大仰な芝居で魅せるドゥニ・メノーシェの見事さ! これが、笑えて仕方がない。

すでに映画監督として成功しながらも、プライベートでは孤独と不安に苛まれているピーターが、人を好きになりすぎて気が狂わんばかりに大暴れする経緯を、舞台をアパルトマンの一室に限定して見せる本作は、"愛"の不条理さをコンパクトに、しかし深く描いた傑作。ラストに至るまでビターなコメディです。

本作のオリジナルである「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」も合わせて観たのですが、こちらは主人公が女性のファッションデザイナーで、女性同士の恋愛を描いた昨日でした。フランソワ・オゾン監督は、この主人公を男性の映画監督にアレンジしたのですね!

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