2018.11.26函館教育大学韓国語授業資料「お店紹介」

お店紹介をする理由いろいろ~プレゼンか、お誘いか~

 学校の授業にはシラバスというものがあります。シラバスは、教師がコースの初めに学生に配布する授業計画のことです。言語教育を勉強している生徒なら、『学習者のニーズに基づいて「何を教えるか」を決める過程で第一に考えるもの。ニーズ調査、レディネス調査を通して学習者の学習目的や学習条件、到達目標を解し、その学習者に「何を教えるべきか」を明らかにし、その「何か」を集めたものをシラバスという』と覚えたことでしょう。しかし、この授業では「ニーズ調査」「レディネス調査」をして目標を決めていませんし、シラバスには学習者の到達目標を「授業を通して、言語運用能力を身につけ、講師と5分間の会話ができるようになる」という漠然としたものしか記載されていません。本当にこんなシラバスでいいのでしょうか?

 良いわけがありません。自分でもこのシラバスは不十分だと思っています。本来なら、「1回目はこれをするよ」とか、「次はこれをするから予習してね」、という感じのほうが、生徒が何に取り組めばいいかわわりやすいし、授業を準備する側も型を決めていて話す内容も決まっていれば、正直「楽」です。あらかじめ学習語彙と文法を用意して、この範囲で覚えてねとやっていればいいのですから。しかし、言い訳にはなってしまいますが、ある型にはまった授業にならないのは、皆さんの多様性のおかげです。皆さんの韓国語を学ぶ理由、学び方、目指すところは人それぞれです。その「それぞれ」を、「大多数の興味は○○にあるようだから、今回の教材はこれにしましょう」とか、「今回集まった人は中級が多いね。中級に合わせて授業を進めましょう」とかすると、他の生徒の個性が死んじゃいます。皆さんの多様性、個性を生かすために、どうすれば良いか、それを考える授業にしたいと思っています。そこで大事になってくるものは、「私が考える」のではなく、「皆さんが考える」ということです。

 いきなり「自分が受ける授業は自分で考えろ」と言っても、「お前が授業をやれ、それが仕事だろ」「授業料を単位で割ると、1単位あたり3万くらいするらしいぞ。1回2千円値の授業しろよ」と言われかねないので、考えるためのティップスを提示しておきます。

(ティップスは裏面です) 

<余談>

ちなみに、私が韓国の某国立大学の大学院に通っていたとき某教授から、「あなたたちは国立の授業料が私立より何で安いか知ってる?国の税金が生徒に支払われているから安いのよ。人の税金使って勉強までさせてもらって、必死にならないでどうするの」なんて厳しいお言葉をいただきました。あれから10年近くはたっていますが、私は韓国民から得た税金を、韓国語教育によって還元できているのでしょうか。。。いまだに悩むところではあります。

<考えるためのティップス>

 (1)「今の自分に何ができるかを考える」-韓国語で話せと言われても、単語も文法も知らない状態で話せるわけがありません。ただ、今の自分なら何が話せるかなと考え、今使える言葉を総動員して話してください。何も話せないと言う事はないと思います。

⇒「貴方が今話せる内容」が、シラバスでいうところの毎回の学習内容であると捉えてください。 

(2)「何のために話す(書く)のかを考える」- ただ話せ、書けと言っても何を表現す

ればいいのかわからないと思います。授業では特に「話してはいけないこと」は決めていません(勿論倫理的に引っかかることはだめですよ)。今の自分が韓国語で話す目的は何でしょうか?それは勿論、授業の単位取得以外ということです。

例えば、授業中にAさんに「函館のおいしい食堂」ついて質問してくださいという指示が出たとします。そうすると皆さんは何かしらの疑問文を書いて、Aさんに質問するでしょう。だけど、その理由が必要です。ただ純粋に仲良くなりたいのか、最近昼に同じものばかり食べていて、今日の昼食に食べる新しいメニューのヒントを聞きだしたいのか、はたまた、その話をきっかけにして、「自分もおいしい店を知っているんだけど、今度一緒に行かない?」と誘うために質問するのか。それぞれの理由で質問の中身が変わってきます。そうすると必然的に、使う語彙、文法が異なってきます。

 ⇒「貴方が何のために韓国語を使うのか」が、毎回の到達目標です。

 (3)「○○するために必要な語彙・文法を考える」- 今自分が韓国語でできる範囲で、○○したい、と思えたなら、あとはそれを実行するための語彙・文法が何かを 考えてください。知らない語は友達に聞いたり、辞書で調べたりできると思います。

 それがあなたのためだけの新出語彙です。事前に質問したいことが決まっていれば、自学で調べてみるとよいでしょう。

   ⇒自学は、「自分のためのものです」。自分の目標達成のためにがんばってください。

 

<機能シラバス[1]とか、バックワードデザインとか、愛を伝えたいだとか>

 「依頼する」という行為を達成するために必要な文法が何かを考えてみると、「~してください」や「~ていただけませんか」「~して」という文法が考えられます。ですので、「~してください」「~して」は、「依頼する行為を達成するための機能を持っている」と言う事ができます。そう考えると日本語の連用形+てを学ぶという意味は、「て形」の形を覚えるという意味ではなく、「日本語で依頼する」ことを学ぶと言い換えることができます。ただ、「依頼する」といっても、目的、つまり、「なんのために依頼するのか」という点は、話し手と聞き手の関係、場面、内容によって異なります。初対面の人にいきなり「結婚して!」というのは、「依頼」ではありますが、聞き手にとっては、「愛を伝えたい」だとかというより「ただの嫌がらせ」の何ものでもありません。相手、場面、内容によって解釈のされかたがことなることに注意しましょう。

このような観点から授業計画を立てたる方法があって、それが、機能シラバスです。「話そう韓国語」という教科書は、目次にしっかり「機能」が明記されていますよね。それに付随するタスクがあって、タスクが達成できると、その課の目標が達成という仕組みです。知っていましたか?だけど、最近は、機能に付随する文法表現、語彙をあらかじめ設定せず(できる日本語という教材がそうですね!)、あとづけで学習項目を組み込んでいく方法も取られています(バックワードデザイン)。ただし、この授業は私(武村)と皆さんとで、目標を設定し、学習項目を考えていくことになります。私の指示や授業進行だけでなく、皆さんからのレスポンスやコミュニケーションも必要です。ぜひ、ご協力お願いします。


[1] 機能文法については、M.A.K.ハリデイ(2001)「機能文法概説-理論への誘い」(学校の図書館にあります)、機能シラバスについては、(狭義の)コミュニカティブ・アプローチについて調べるといいでしょう。ちなみに、D.A.Wilkinsという人が1971年に、ヨーロッパ協議会に対し、「伝達能力を育てる言語教育のためには、従来の文法シラバスではなく、意味や言語使用の項目を集めた新しいシラバスが必要だ」と提案し、後に機能シラバスと概念シラバスが生まれ、コミュニカティブ・アプローチが発展していきます。1970代から始まるこのヨーロッパ協議会の動きは、2000年代になりCEFRとして開花するのでした。

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