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7日間ブックカバーチャレンジ⑦〜【檸檬】〜

7日間ブックカバーチャレンジもいよいよ最終回となりまして。

もしよければ今までのチャレンジも見てみてね。

7日間ブックカバーチャレンジ|toshi.TAKE
https://note.com/takeuchifg28/m/m137b3c59d276

今回はなんの本にしよかな〜と思ってAmazonをふらふら。

ふらふらしてたら見つけました。懐かしい作品です。

【檸檬】著:梶井基次郎 https://www.amazon.co.jp/dp/B009IXE1I2/ref=cm_sw_r_other_apa_i_Hc9REbS35H5Z3

学生時代に教科書に載っていた話の中で、特に印象に残っている作品の四天王に名を連ねております。(当社比)

ちなみに他の3作品は、『山月記』『故郷』『一本の鉛筆の向こうに』です。ダン=ランドレスさんは木こりです。(?)

※ダン=ランドレスさん。知らない人いるの?

読書大好き上司(ほぼ同年齢)に檸檬の話をしたら、初めて聞いた、とのこと。
教科書によっては取り上げられないんですね。

どういう話か上司に聞かれたので、

『体調が悪い主人公が街へ行くんですけど、ふらふら彷徨ってる途中でレモンを一個買うんです。そのあと丸善(本屋さん)に行って、本を山積みにしたてっぺんにレモンを乗せて、オレは爆弾魔だ!ってワクワクしながら逃げ出して終わる話です』と伝えたら、

何そのやばい話

って言われました。


『いや、でもこれ以上説明することがないんです』って言い残し私も逃げ出しましたが、もうちょっと賢く覚えておきたいなあと思い、あらためて読み直すことにしました。笑

なんとこの作品、青空文庫でもKindleでも無料で読めちゃうので、ぜひぜひ気になった方は読んでみてくださいね。

●檸檬登場まで!

読み直して早々、冒頭の文章で惹き込まれますよ。

えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧さえつけていた。焦躁と言おうか、嫌悪と言おうか――酒を飲んだあとに宿酔(ふつかよい)があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る。それが来たのだ。

得体の知れない不吉な塊。

これはちょっといけなかった。結果した肺尖はいせんカタルや神経衰弱がいけないのではない。また背を焼くような借金などがいけないのではない。いけないのはその不吉な塊だ。以前私を喜ばせたどんな美しい音楽も、どんな美しい詩の一節も辛抱がならなくなった。〜中略〜何かが私をいたたまらずさせるのだ。それで始終私は街から街を浮浪し続けていた。

主人公は病気を患ったり借金もあったりするけれど、それらが『不吉な塊』というわけではないらしい。

『以前私を喜ばせた〜辛抱がならなくなった』『何かが私を居堪いたたまらずさせるのだ』という文章から、この方は精神的に参っちゃってて、なんのあてもなく街を彷徨っていた、というのが伝わりますよね。

しかも以前は、こんな精神状態ではなかった。
でも今はジッとしてたら、その『不吉な塊』に飲み込まれてしまう、と感じてしまうほどの精神状態になっているのでしょう。

描写がすさまじくて最初はピンときませんが、これは誰しもが経験したことある感情なんじゃないでしょうかね。

『なんか分からないけど、将来が不安だ』『あーやばいやばい』っていう気持ち。原因が漠然としているので、対策しようがないですね。だからずっと不安。心が不安定。

こういうのを教科書に取り上げるって、なかなかニクイですね。
『志望校落ちたらどうしよう』みたいな、そんな受験生あるあるの感情を煽る、この感情も立派な『不吉な塊』ですよね。

こういう心理描写がこの著者はお上手です。

●檸檬登場シーン!

なんにも楽しいことねーなー、って思いながらふらふら街を歩いていると、いい感じの果物屋を見つけます。
数日後、そこで売っていたレモンを買うことに。

その日私はいつになくその店で買物をした。というのはその店には珍しい檸檬が出ていたのだ。檸檬などごくありふれている。〜中略〜いったい私はあの檸檬が好きだ。レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色も、それからあの丈の詰まった紡錘形の恰好も。結局私はそれを一つだけ買うことにした。

レモンをこんな描写で説明できる人間を、私は彼以外に知りません。
某米津の『あの日の悲しみさえ、あの日の苦しみさえ、そのすべてを愛していたあなたとともに胸に残り離れない苦いレモンの匂い』もなかなか素敵ですが。

さてレモンを買った主人公は、あれほど自分を苦しめていた鬱々ハートが、そのレモンのおかげで少し軽くなっていくことを感じます。レモンは偉大!

●檸檬テロ!

少し体が軽くなった彼は、その足で丸善に。

精神状態が良かったときは大好きだった丸善も、いまや近寄りがたい存在になってしまっていました。

どれぐらい近寄りがたいかは、こんな感じ。

しかしここももうその頃の私にとっては重くるしい場所に過ぎなかった。書籍、学生、勘定台、これらはみな借金取りの亡霊のように私には見えるのだった。

つらいですね。

さて、心の拠り所であるレモンちゃんを握りながら丸善に入ってみた主人公。

入って暫くは順調だったのに、自分がかつて好きだった本を棚から取り上げた途端、その本の重みが耐えきれずその本を棚に戻せず、そのまま置いてしまいます。

そんなこと何度も繰り返して本を山積みにし、『自分が抜いたまま積み重ねた本の群を眺めて』しまうのです。本屋の人からしたらとんでもない迷惑ですよね。笑

でもここで終わりじゃないんです。

「あ、そうだそうだ」その時私は袂の中の檸檬を憶い出した。本の色彩をゴチャゴチャに積みあげて、一度この檸檬で試してみたら。「そうだ」
 私にまた先ほどの軽やかな昂奮が帰って来た。私は手当たり次第に積みあげ、また慌ただしく潰し、また慌しく築きあげた。新しく引き抜いてつけ加えたり、取り去ったりした。奇怪な幻想的な城が、そのたびに赤くなったり青くなったりした。

店員さん、気付けよ?

やっとそれはでき上がった。そして軽く跳りあがる心を制しながら、その城壁の頂きに恐る恐る檸檬を据えつけた。そしてそれは上出来だった。

無事、城が完成しました。

おめでとうございまーす。

どれくらい『上出来』かが全然分からなかったし、そもそも上出来と呼べるものなのか分からなかったので、実際に家で試してみました。

悪くないやんけ!

(シャガールの本が、いい味出してる。)
(わざわざこのためにレモンを買ってきた。)

見わたすと、その檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた。〜中略〜私はしばらくそれを眺めていた。

うん、これはもはや芸術。
さっきの写真から、聞こえるよ。カーン


しかしいつの日も、芸術は爆発させたくなるんですよ、人間は。

不意に第二のアイディアが起こった。その奇妙なたくらみはむしろ私をぎょっとさせた。
 ――それをそのままにしておいて私は、なに喰くわぬ顔をして外へ出る。――
 私は変にくすぐったい気持がした。「出て行こうかなあ。そうだ出て行こう」そして私はすたすた出て行った。
変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑ませた。丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう
 私はこの想像を熱心に追求した。「そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉みじんだろう

あとあと、本屋さんもびっくりしたでしょうね。

巡回してたら、本が山積みになってるエリアがあって、さらにその山の上には檸檬爆弾がカーンと冴えかえっているのだから。

いや実際爆発するわけではないんですが、『檸檬が爆発することを想像しイヒヒヒヒッってなってる主人公がその場を後にする』っていう描写がもうすごいですね。


今のご時世だったら監視カメラで一発出禁です。

そしてこの話は、本屋から主人公が出てったらあっさり終わります笑

●ざっくり考察

この本で言っている『不吉な塊』というのはやっぱり最後までなにかわかりません。

ただ、レモンを手に入れた主人公が語る以下のようなセリフから、『レモンの美しさ』と『鬱々とした感情(えたいの知れない不吉な塊)』はともに同じ重さで、それらは取り替えることが可能なのかな。とか考えました。

――つまりはこの重さなんだな。――
その重さこそ常づね尋ねあぐんでいたもので、疑いもなくこの重さはすべての善いものすべての美しいものを重量に換算して来た重さであるとか、思いあがった諧謔心からそんな馬鹿げたことを考えてみたり――なにがさて私は幸福だったのだ。

丸善に入ってから、本の重さに耐えきれなくなったのも、本の鬱々とした重さは、いくら檸檬の美しさでも取って代われなかった。そこで檸檬を山積みの本の上に置いて帰る、ということで代替可能になったのかななんて解釈しています。

いまこうやって社会人になってから改めて読んでみると、また違った気持ちで読むことができるんですね。
えたいの知れない不吉な塊、腐るほどありますわ笑

そんなときは檸檬を握りしめながら頑張っていきます。

今回も最後まで読んでいただき、感謝です。

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