【大切なことは目に見えないんだよ】

災害に遭った方が、災害そのものより、時間をかけて色んな健康問題に直面する。
災禍の苦しみ、闘いの向こうには、”長く静かに続く災難”がある。
それを見逃さず、本当の意味での災禍の「教訓」をあぶりだす。
そのために奔走する医師がいます。
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福島県立医科大学の坪倉正治先生。
九州の災害の健康影響を調べるために来られたところに、お招きをいただいた。
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坪倉先生、
灘から東大医学部に進み、都立駒込病院で血液内科医だったとき、東日本大震災が発生した。
阪神・淡路大震災を経験していたことと重ね合わせ、南相馬へ向かう。
そこから、福島での坪倉先生の使命が起動し始めた。
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住民の真っただ中で診療と検査に当たる日々。
そこで診てきたことをデータで明らかにし、論文として発表し続ける。
分析を通じて分かったこと、
それは、
「放射線被ばくの影響でがんになって命を落とす危険性より、
心身の疲弊や生活の変化で、糖尿病を患ってがんになり命を落とす危険性の方が、
数十倍も高い」
ということ。
ざっくり言えば、放射線で命を落とす方が1なら、副次的な病気で命を落とす方が50になるそうだ。
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目の前の災害や、その被害は、食い止めなければならない。当然こと。
でも、同時に、2次的な健康被害が、災害による環境の変化、生活の変化、心身の不調によって生まれてくる。それは、すぐに目にみえない、とても重要な課題だ。
案外、災害は”風化”し、その副次的な影響をしつこく検証し、対策を採っていく仕組みは弱い。
予算も関心も、徐々に薄れていく現実。
坪倉先生は、そこに今でも果敢に挑んでいる。人生を懸けて。
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2次的な健康被害。
例えば、施設に入所する高齢者の方々が避難すれば、心身に深いダメージを受ける。
生活習慣が悪化し糖尿病になったり、うつ病などの精神的な影響を出てくる。
「災害は、社会の弱い部分をさらけ出し、最も弱いものから順番にダメージを与える。」
原発事故後、90日以内に、避難した老人ホームの入所者の方の4分の1が亡くなっていたという。
肺炎が持病の悪化など。ケアが分断されることで、一気に命が危険にさらされる。
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坪倉先生の話を聴きながら、私が、一番思うのは、「コロナの2次健康被害」。
災害と同じだ。
引きこもって体力が落ちる、うつ病の発症、生活習慣の悪化による糖尿病、認知症の発症・悪化、またがん検診の先延ばしによるがん発症、などなど、いろんな影響が出てくる。
坪倉先生によれば、
「コロナが終息して2~3年後には、顕著に糖尿病などが増加してくるでしょう」
「地方で、感染者への非難や、村八分的な扱いで壊れた人間関係は、長い時間をかけて、住民の精神面にダメージを与えてくる」と。
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いつしかコロナの感染自体が終息しても、
私たちの心身に残した爪痕の影響は長く広く続く。しかも見えにくい形で。弱い人から順に。
他方で、国費を使い果たした財政余裕のない日本で、増えた心身の疾病のための医療やケアにどれだけ対応できるだろうか。
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見逃してはいけない。見えないからこそ、大切に考える必要がある。
そして、先手を打って、対策していかねばならない。
災害大国・日本だからこそ、コロナも含め、すぐには”目に見えない”健康をどう守るか、解決策を編み出していきたい。
坪倉先生とお話しし、改めて危機感を新たにした。

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