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職務経験判事補を受け入れた理由について

2017年4月から2019年3月まで職務経験判事補に来てもらっていました。

今回は、職務経験判事補を受け入れようと思った理由についてお話ししたいと思います。

職務経験判事補制度とは

職務経験判事補制度とは、裁判官が一定期間(原則2年)その身分を離れ、弁護士となってその職務を経験することにより、裁判官としての能力及び資質の一層の向上並びにその職務の一層の充実を図ることを目的として、2005
年に開始された制度です。
※制度の概要は日弁連のパンフレット(PDF)をご参照ください。

簡単に言うと、毎年10名前後の裁判官が、2年間限定で弁護士となり法律事務所に転籍出向するような制度です。

職務経験判事補を受け入れている法律事務所は大手事務所、老舗事務所、公設事務所が多く、私たちのような60期の弁護士が立ち上げた若い事務所が手を挙げ実際に受け入れることができたのは異例のことだと思います。

今でこそ弁護士の人数も16人いますが(2021年6月現在)、職務経験判事補の受け入れに手を挙げた当時(2016年)は弁護士の人数もまだ9人しかいませんでした。また、私、清水、木村の3人とも弁護士になって10年も経っていませんでした。

よくぞまあ、若手の小さな事務所に裁判官が来てくれたなと、アルシエンに来てくださった方には感謝の気持ちでいっぱいです。

なぜ私たちのような若手の小さな法律事務所が職務経験判事補に来てもらいたいかと思ったというと理由は4つあります。

理由① 私たちの研鑽のため

1番大きな理由は私たち3人の研鑽のためです。

弁護士として独立すると、基本的にはもう誰も指導してくれなくなります。弁護団事件などに積極的に参加する、他事務所の先輩弁護士と積極的に共同受任するなどして指導をお願いするという方法もありますが、それも限定的です。

職務経験判事補受入事務所として手を挙げた当時、私と清水は弁護士になって9年でした。

弁護士を10年近くやっていると仕事に慣れて来て対応力が上がる反面、慣れが悪い方向に出てしまいルーティンワーク的になりおざなりな部分も出てくる頃です。

私たちは弁護士は職人稼業であると考えていますが、研鑽を止めては職人の腕前が錆び付いてしまいます。弁護士になって10年を迎えるにあたり、更にスキルアップをするにはどうすれば考えていた時に、誰かに教えを乞うのが1番なのではないかと思いました。

そして法廷弁護士の仕事のメインは裁判官を説得することですから、説得的かどうかを裁判官に教えてもらうのが1番効率的です。

また10年弁護士をしていれば、全戦全勝などありえず、予期せず敗訴してしまった案件も当然あります。
なぜ勝てると思ったのに敗訴してしまったのか。
自分が読んでいたスジ・スワリが適切だったのか。
訴訟追行に問題はなかったか。
裁判の途中で裁判官の訴訟指揮から感じ取っていた心証は正しかったか。
などなど、裁判官に教えてもらいたいことはたくさんあります。

裁判官や元裁判官のセミナーに参加したり、書籍を読んだりして学ぶということはしていますが、現に請けている案件でスジ、スワリの見立てや起案の仕方について教えてもらうことはできません。ましてや過去の具体的案件について分析をしてもらうことなんてできません。

もう一度民事裁判修習ができないかとも思いますが、当然、そのようなことはできません。

そこで思いついたのが職務経験判事補制度でした。

職務経験判事補を受け入れれば裁判官に転籍出向してもらい事務所で雇うことができます。
※職務経験判事補は雇用契約です。

裁判官に一定期間アルシエンの弁護士になってくれれば、現に受任している案件について、守秘義務関係なしに自分たちが読んでいる案件のスジ・スワリと職務経験判事補の読んだスジ・スワリとを議論することができます。そして、もしズレがあるのであれば、なぜズレが生じているのか議論をすることができます。

また、過去に思いがけず敗訴した案件について検討して貰えば、自分では見えていなかった点や事件のスジの読み違いなども教えてもらえるかもしれません。

それに起案した書面や起案作成上の新しい工夫なども職務経験判事補に見てもらえば、どこが伝わりやすいか、それ以上にどう工夫すれば分かりやすくなるかのアドバイスももらえます。

このように職務経験判事補に、事務所の仕事をしてもらうだけでなく、私たちの家庭教師的なこともしてもらえれば、私たちのスキルアップになるのではないかと考えたのです。

正直に言って当時弁護士になって10年も経っていない私たちの事務所に来てもらうには、職務経験判事補の受入費用が高いとは思いました。

ただ、職務経験判事補は単なる勤務弁護士ではなく、私たちのパートナーの研鑽のための家庭教師であり、私たちのスキルアップのための投資と考えれば、将来何倍にも跳ね返るのではないかと思い、受入事務所として手を挙げることにしました。

理由② 勤務弁護士の研鑽のため

2つ目の理由は勤務弁護士の研鑽のためです。

考えて見てください。
横を向いたら裁判官がいるのですよ。
気になったらすぐ裁判官に聞けるのですよ。

これはとても贅沢な執務環境だと思います。

難しい事件を勤務弁護士と職務経験判事補と一緒に担当してもらうことで、良い刺激をもらい勤務弁護士の能力も底上げされるのではないかと思いました。

理由③ 小さな弁護士事務所の実情を知ってもらいたい

裁判官が2年間弁護士業を体験するというのは、裁判官に弁護士の実情を知ってもらい、相互に理解を深めるとても良い制度だと思います。

しかし、職務経験判事補を受け入れている事務所の多くは、大手・老舗事務所であり、アルシエンのような駆け出し事務所での受入実績はありませんでした。

職務経験判事補に来てもらい、私たちのような若手主体の小さな事務所がどのように工夫して依頼を受け、依頼者と協議し、裁判に臨んでいるのかという実情を知ってもらえることは、互いにとってメリットがあるのではないかと思いました。

理由④ 事務所の評判をあげる

4つ目の理由は、弁護士業界内でのアルシエンの評判をあげるという下心です。

私たち法律事務所アルシエンは60期が代表の事務所です。
受け入れに手を挙げた2016年当時、清水先生がネット上の誹謗中傷対策である程度有名になっていましたが、事務所全体としては「ああ若手の新興事務所ね。」というイメージだったと思います。

いつまでも若手主体の新興事務所というイメージだと採用でも苦労しますし、せっかくアルシエンに入ってくれた先生方にとっても申し訳ないです。

勤務弁護士の先生が修習の同期会などで友人にアルシエンにいると伝えた時に、「おおアルシエンね!」と言われるようなパブリックイメージにしていきたいと考えていました。

職務経験判事補を受け入れているということは公表されていますし、山中理司先生のホームページにも掲載されます。

それに職務経験判事補については、弁護士会の会報誌である「自由と正義」にも『弁護士しています~弁護士職務経験の声』というコーナーがあるので掲載される可能性があります。

過去の受入事務所を見たら、私たちのような若い事務所が職務経験判事補を受け入れたという先例はなく、もし受け入れることができたらある程度の話題性があるのではないかと考えました。

また受け入れたいです

以上の理由から、職務経験判事補の受入事務所に手を挙げることにしました。

結果としては、とても素晴らしい方に来ていただけ、下記のように「自由と正義」にも掲載され、私たちのチャレンジは大成功だったと思います。

勤務弁護士も増えてきたので、また職務経験判事補の受入に手を挙げたいなと思っています。

アルシエンでの職務経験判事補受入の様子は、『自由と正義』(2018年1月号)に『法律事務所アルシエン訪問記』という記事にまとめられています。

ご興味のある方は、そちらもご参照ください。

「職務経験判事補を受け入れてみて」という記事も公開しました。

あわせてこちらもご覧いただければ幸いです。




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