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カーテンが隠した君、咄嗟に嘘をついた僕、そして君の笑顔を胸に

はじめに

さて、今回はまだまだ幼いころ、昔の思い出を乃木坂46の歌で脚色してみました。

出会い

僕(アキオ)がアスカと出会ったのは、転校してきた1年前、夏休みが明けた2学期始まりの日だった。

転校慣れした僕は先生に促され、差し障りのない挨拶を黒板の前でした。そんな僕の目に飛び込んできたアスカは、真っ直ぐな長い黒髪で、少し眠そうな目をしているお人形さんのような美少女だった。

窓際の机に座っていたアスカ。窓から差し込む木漏れ日は彼女の輪郭をぼやかし、開いた窓から吹くそよ風で白いレースのカーテンがふわりと一瞬、彼女を隠した。僕はひと目で心を奪われてしまった。

あの日

そんなアスカとは家が近いこともあり、クラスメートとしては近い関係が続いていた。ある日、放課後の教室で、僕とアスカ、カズミ、ケンジの4人はクラス会の準備のため、残って作業をしていた。

準備は順調に進み、もう終わりかなというころ、カズミが口を開いた。

カズミ「ねぇねぇ、みんなで誰のことが好きか告白してみようよ」

ドキッとした。アスカが誰を好きなのか知ることができる。そんな僕の心の動揺を知るはずもないケンジが言った。

ケンジ「バーカ。そんなの言うわけないだろ」
カズミ「大丈夫、大丈夫。4人だけの秘密だからさー」

カズミはいつもこんな調子だ。でも、言えるわけがない。こんなところで告白できるわけがない。そんな動揺した僕をカズミは無視して続ける。

カズミ「アスカはどうなの? やっぱ、カズヒコくん?」

知らなかった。カズヒコはクラスの人気者だ。そんな噂が女子の間ではあったのだろうか? しかし、アスカは照れくさそうにするわけでもなく、淡々と話した。

アスカ「うーん、まー、そんなところかも」
カズミ「やっぱりー、そうだと思ってた!」

目の前が真っ暗になった。やはり、少しは期待していたのだろうか。カズミがすかさず僕に振り向いた。

カズミ「ねーねー、アキオは? やっぱり、ナナ?」

動揺している中、突然、話がこちらに振られてきた。カズミは鋭く、そして好奇心たっぷりの眼差しで僕を見ている。ナナは僕とは席が隣で、クラスでは大人しい女の子だった。以前、そんな彼女をからかう男子からかばったことがあった。それで僕との噂がたったことがあるのだ。カズミは単にアスカと僕のそれぞれの噂を確認したかっただけなのかもしれない。

僕「う、うん」

僕は咄嗟に嘘をついた。

カズミ「うそー、じゃー、私が仲を取り持ってあげるよ! ナナもきっとアキオのことが好きだよ!」

アスカは ”そーなんだ” というような目でじっと僕を見つめていた。僕はそんなアスカの目を見ることができなかった。もし見たら、嘘がばれるような気がしていた。胸はざわざわし、心には土砂降りの雨が降っているようだった。

あれから

あの日からアスカとの距離はどんどん離れて行ってしまった。僕が避けているのか? 彼女が避けているのか? わからない。でも、あの日がきっかけなのは間違いないだろう。

そんな日が続いたある日、クラスのみんなで並んで教室後ろの掲示板に掲示物を貼っていた。みんなが並んで同時に貼っているので狭い。僕は少し背伸びをしながら、両隣の女子よりも上の方に手を伸ばし貼ろうとしていた。そんな時、不意に後ろから声がした。

「ナナー」

と同時に左隣にいた女の子が首だけ振り向いた。振り向いた遠心力でサラサラな髪の毛がふわっと僕の伸ばした腕にかかった。同時にシャンプーの香りがした。ドキッとした。ナナだ。

席替えがあってから、ナナとも疎遠になっていた。カズミから「ナナもアキオくんのことが好きみたいだよ。両思いだから告白しちゃいなよ」と言われていたのだが、もちろん告白できるはずもなかった。

ナナは優しい子だった。僕のことが好きなのだろう。シャンプーの香りをきっかけに惹かれていく僕がいた。

そして

しばらくして、僕とナナは付き合った。しかし、長続きはしなかった。優しい彼女には僕の心の奥底まで見えていたのだろう。

アスカとは卒業以来、まったく会っていない。また引越であの町を離れた僕に彼女の近況を知る由もない。

幼いころから引越と転校を繰り返し、そのたびに出会いと別れを繰り返し、人間関係を構築するのが難しかった僕にとって、アスカは初めて心を奪われた娘だった。初恋ではなかったが、こんなに誰かを恋しくなるのは初めてだった。

アスカは僕に振り向くことはなかった。しかし、あの日、僕が嘘をついた時の彼女の眼差しは忘れられない。それ以上に、近くで過ごした日々の彼女の微笑みを僕は忘れない。出会ったあの日の姿を胸に僕は生きていこう。

おわりに

乃木坂46の歌がなぜ好きなのだろうかと考えた時、きっと誰もが自分の思い出に投影できる部分があるからなのではないかと思います。歌を聴きながら、自分の思い出の中を旅してみるのもいいかもしれません。


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