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遼太

「多田!よかったー!まだいた!」
塾行く前に自転車置き場でラーメンか牛丼かどっち食おうか考えてたら彼女が走ってきた。
「LINEしてくれたらいいのに」
「でも校内ではスマホ禁止だから…」
真面目か!でもそんなところが好きなんだけど。
「で?何か用?」
「あ、あのさ!多田ってS予備行ってるんだよね?」
「うん。今日も今から行くけど」
「あたし夏期講習受けようかと思ってて。見学とかできるのかな?」
「ああ、できると思う。今日部活休みよな?今から一緒に行く?」
ありったけの勇気ふりしぼって精一杯さりげなさ装って言ってやった!
「ほんと?じゃ、行こっかな」
っしゃーーーーーーーー!!!!!

いつから彼女のことを好きなんだっけ。そう、1年の時の体育祭。ブロック対抗リレーで走っていた彼女。ポニーテールに赤いハチマキ。ゼッケンには「1-3小山」とある。
「ゆいー!行っけー!」
隣に座ってる田村が叫んだ。
ゆいっていうんだ。唯?結?それともガッキーと同じ結衣?

「小山、腹減ってねぇ?塾行く前になんか食いたいんだけど」
「え!じゃあうどんがいい!」
仰せの通りに。

「小山さ、田村とダブルス組んでるんだよな?」
「そうだよ。」
ごぼう天うどんにネギのせながら彼女は答える。
「いっしょの塾行ったりしないの?」
「あー、六花は中学の時からずっと個別指導の塾行っててさ、あたしも体験入学行ったんだけど。」
麺をすする。
「なんか合わない感じだったの。それに受験って情報戦なところあるじゃん?だから大手の方がいいのかなって。まだ決めてないけど。」
ほおー。何となく学校から近いし、で選んだ俺とは大違いだな。
「それに六花は医学部志望だからあんまり迷惑かけたくないの。」
「え?結構な個人情報じゃね?俺なんかに言っちゃっていいの?」
「大丈夫。だって多田はあの日のこと誰にも言ってないでしょ?あたしは多田のこと信じてるから。」

昨年の12月。自転車置き場でテニス部のジャージ姿の彼女はしゃがんで泣いていた。
俺が声をかけられずに固まっていたら彼女が立ち上がって言った。
「あの、何もきかないでほしい。そして今日のこと、誰にも言わないでほしい。」
「わかった。」
そう答えるしかなかった。
「わたし、1年3組 小山ゆいです。小さい山に、ひらがなでゆい。」 
知ってる。
「俺は1年6組 多田遼太。many ricefield に司馬遼太郎から司馬郎引いて遼太。」
彼女は笑ってくれた。

「すみません、見学希望者連れてきました。」
塾の受付。
「はい、こちらに記入お願いしますね。
それからこれが見学者用IDです。首からかけてくださいね。
パンフレットもどうぞ。」
無事受付をすませ館内に入る。
「授業始まるまで自習室で予習するけど。」
「あたしも行く!」
自習室は3階なのでエレベーターホールへ向かう。
「お?リョータ?」
呼びかけられてふりむく。
「両角先輩!」
中学のバスケ部の先輩。バスケ部キャプテンで元生徒会長。モテ要素しかない。
「おう!お前ここ通ってたんだ?」
「はい。1年の時から。」
先輩が小山のほうを見た。
「あ、同じクラスの小山さんです。小山は両角先輩のこと…」
「もちろん知ってますよ!O高で先輩のこと知らないとかありえんし!」
彼女の目がキラキラしてる。
「もしかして、田村とダブルス組んでる…」
「そうですー!わー!両角先輩に認知されてるとかマジ光栄です!」
言いながら彼女が俺に目配してきた。え?俺、邪魔?
「あ、先輩すんません、俺ちょっとコンビニに…赤ペン切らしちゃったんで。小山またな!」

父さん母さんごめん。今日俺は塾をサボります。なんだよなんだよなんなんだよー!ぬか喜び返せー!

〈つづく〉

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