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小説

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レビューが難しいなら小説を書けばいいじゃない ライブから生まれた小説
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2023年2月の記事一覧

礼央

礼央

むずむずもやもやする。春のせいだ。イライラする。体の奥で渦巻いている醜悪な欲望を誰かにぶちまけてしまいたい。相手は誰でもいい。大学にもバイト先にも僕のことを憎からず思っている女の子は複数いる。僕は何とも思っていないし下手すりゃフルネームすら知らない女の子たち。彼女たちの中から誰かひとりを選んで家に連れてきて享楽の限りを尽くしたところで虚しいだけだし、あとあと面倒なことになるから実行はしない。僕がい

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奈津

奈津

麻衣子に彼氏ができた。
P大文学部史学科古代史ゼミのエルサと陰で呼ばれている麻衣子のあんなにデレている姿、親友のわたしでさえ初めて見た。ハンス王子と出会って恋に落ちた夜のアナにも負けないくらいフワフワしている。
麻衣子の恋人はハンス王子じゃなくて27歳の学芸員。古墳マニアの二人の出会いは埴輪づくりのワークショップだったらしい。
もう一人の親友梢とわたしは、その彼に今日会ってきた。早く秀樹に報告した

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広海

広海

いつもの信号待ち。だいたい7時3分。2月も半ばを過ぎてずいぶん日の出が早くなった。交差点を隔てていても彼女の頬が赤いのがわかる。ほんの一瞬だけ、彼女が俺の方を見た気がした。
信号が青になる。
毎朝すれちがうだけ。
ひとつにまとめた長い髪。S女子高の制服。紺のハイソックス。黒のローファー。マフラーは白。自転車のフレームも白。学校指定の鞄と、スポーツブランドのリュック。
すれ違う瞬間は下を向いてしまう

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