カブトムシ捕獲日記

 近所のイオンでカブトムシ飼育セットを持ち運びながら、「ゆめのようだな~」と息子がにこにこしていた。

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 息子は虫好きだ。そして、その中でも特に好きなのは、カブトムシだった。
 元々、虫が好きになったきっかけはたまたま録画していた『ダーウィンが来た』のヘラクレスオオカブト回だった。2年前、その番組をみてから欠かさずダーウィンを録画して見た。去年からは本格的に虫取りを始めて、週末はほとんど公園に行くようになった。カブトムシのTシャツを何枚も持っているし、なんなら保育園に行くリュックも虫模様だ。
 だが、カブトムシはあまり自力で捕まえた感がない。イベントで触ったり、公園で散歩していたら前を歩いていたおじいさんがカブトムシをくれたことはあった。Twitterでバズっていた「新宿御苑でカブトムシ大発生」に惹かれていった時はカブトムシに触ることはできた。ただ、基本は観察までしか許されていない公園なので、撮影してすぐに戻した。なんとなく捕まえた感が薄い。

 そんな話を会社の飲み会でしていたある日。
「会社の社宅だと、普通にベランダにカブトムシが来ますよ」と言われた。
マジか! そんなに簡単なんか!
 そして、その流れで「息子がめっちゃ虫好きでカブトムシ捕まえたいんですが……カブトムシ捕獲に泊まりに行っていいですか?」とお願いした所、快くOKしてくれた。独身男性でフットワークが軽そうだから比較的受け入れハードルが低そうと見越してのお願いだったが、にしてもありがたい。
 ちなみに、会社の人の家に泊まりで遊びに行くことは初めてだった。
 それが約半年前。

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 ということで、この週末、息子と二人、会社の同期の家に向かった。
 習い事を終えた後、バスで移動。車で迎えに来てくれた同期が、事前に目をつけていたスポットに連れて行ってくれた。
 一か所は会社の寮の側にある雑木林。もう一か所は、桜の名所だというもう少し奥まった森。どちらも、かなり緑が深く、普段見ないような大きな蝶が飛んでいた。「いそうだなー」と息子は話していた。基本、すべて小走りになっていた。もともと、同僚が焼酎でバナナを発行させたバナナトラップを仕掛けてくれていた。さらに、一か所、樹液が出ているクヌギの木があり、スズメバチがたかっている「いかにもいそう」な場所もあり、更に期待は高まった。
 が、結局見つからなかった。
 2か所を巡り見つからず、一度晩御飯を食べ、さらにもう一度行っても見つけられない。

 見るからにテンションが下がっている息子をなだめつつ、翌日も見に行こう、でもいるかはわからんけどね、それが虫取りだからね、と伝える。同僚が「明日は天気が微妙ですね。カブトムシ出てくるかな」と心配そうな顔をしている。

 翌朝。
 元気いっぱいの息子は、5時半に私を起こした。「虫取りに行きたくなっちゃったなー」とニコニコしている。かわいい。しかし、眠い。同僚と11時近くまで日本酒一本空けていたので、特に眠い。外を見ると小雨模様。
 だが、せっかくの機会だ。前日「朝早くてもOKですよ」と言っていた同僚も、私と息子の会話で目を覚まして手早く準備をしてくれた。

 そして、二度目の来訪。目をつけていたクヌギの木の樹液を確認し、トラップを確認していた時。
「あっ、あっ、あっ」息子が足早にクヌギの木の根元近づいてみると、そこには丸々と健康そうなカブトムシがいた。角は短いからメス。息子は手を伸ばして捕まえようとするが、するするとカブトムシは下に降りていく。土を掘って隠れようとする。息子も土に手を伸ばすが、うまく捕まえられない。「パパ、取って!」私も木に近づき、土を掘り返し、そしてようやく掴んだ。黒い足が少し痛い。
 そうして、ようやくカブトムシを捕まえることができた。

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 私個人としては、喜びもあるけど、肩の荷が降りたという感覚が強い。
 ずーっと、持っていたやりたいことを、ようやくかなえられた。
ただ、まだオスは捕まえられていない。息子は「オスも捕まえたら交尾するかな?」と話していた。ダーウィンは大体、狩りなどの食事、交尾、出産と子育てを流すことが多いので、そこまでセットで考えているのだろう。なんとなく、メス一匹で置いておくのも申し訳ない感じもする。
 この夏の次の目標が決まった気もする。
 虫取りは終わらない。

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