おにぎりが美味しそうに見える人
かぶりつくおにぎりが、なんともウマそうに見えた。
会社の昼休み。60歳を超えた男性の大先輩がデスクでおにぎりを頬張っていた。やや白髪が後退した額に光が反射している。白米と黒い海苔の隙間からは紅鮭が見える。職人気質の厳しい表情でパソコンの画面を無表情で見つつ、片手で掴み口元に運ぶ。口をもぐもぐと動かし、さらに一口、また一口。
たぶん、コンビニで買ってきたおにぎりだ。自分も時々買う。値上がりが気になる。なんのことはない、日常のおにぎりだ。
それが、無性においしそうに見える。
また別の先輩もおにぎりを食べている。
小柄な女の先輩。おにぎりを口に運んでいる。多分、食べているもの自体は大きく変わらない。そして何より、どちらかがとてもおいしそうに食べていたという訳でもない。
それでも、自分には圧倒的に男の先輩の食べているおにぎりのほうがおいしそうに見えた。
なぜ、この男の先輩が食べている方が、そんなにうまそうに見えるのか?
美味しそうに食べていたならば話は簡単だ。リアクションにより、食事の味わいが伝わる。食レポに上手下手がある話はテレビでもよく語られる。グルメ漫画も、食べた後の登場人物の表情で読者の唾を引き出させる。だが、そういうリアクション芸でもない。
ならば。昭和感とおにぎりの相性の良さ、孤独のグルメに代表される中年男子一人飯モノの流行――様々な仮説が頭の中を巡る。
そうかもしれない。でも、違う気もする。
結論が出ないうちに、彼はおにぎりを食べ終わった。
ただ、「おにぎりが美味しそうに見える人って、いいなぁ」という感想だけが心に残った。
すこしだけ憧れる。
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