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『ゲーム・オブ・スローンズ』の200年前を描く、新たなスペクタクル超大作 『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』公式メイキング本!ドラゴン使いのターガリエン家が治めるウェスタロスの伝説が遂に描かれる――序章・第一章「炎と血」を全文公開!

エミー賞史上最多59賞受賞と前人未踏の記録を誇り、エンターテイメント業界の歴史を塗り替え続けたHBOの大人気テレビシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』(GOT)。
2019年にファンに惜しまれながら全8シーズンで幕を閉じた本作から、新たに誕生するスペクタクル超大作が『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』だ。
ジョージ・R・R・マーティンの小説「炎と血」(早川書房刊)を、『GOT』を超える壮大なスケール感で映像化。
『ゲーム・オブ・スローンズ』から200年前を舞台に、ドラゴンを操るターガリエン家の物語が描かれる。
本書は、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の制作をあますところなく記録した唯一のオフィシャル・メイキング・ブック。
門外不出のコンセプト アートや貴重な撮影風景。
主要な出演者と監督・プロデューサー・撮影監督など様々なスタッフへのインタビュー。
シーズン1・全10話がどのように脚本が執筆され、撮影され、仕上げられていったのか――

◉ゴールデングローブ賞 テレビドラマ部門 作品賞 受賞

《序章》

「狂気と偉大さは同じ硬貨の表と裏である。新たなターガリエンが生まれるたびに、神々が硬貨を投げあげ、世界中の人々が固唾をのんでその結果を見守るのだ」
─ジョージ・R・R・マーティン『剣嵐の大地』より

 8シーズンにわたって放送され、数々の賞に輝いたHBO製作の革新的なファンタジー・テレビシリーズ、《ゲーム・オブ・スローンズ》は、世界的な社会現象となり、多くの人々を熱狂させた。ジョージ・R・R・マーティン著のベストセラー小説『氷と炎の歌』(早川書房 刊)をもとにデヴィッド・ベニオフとD・B・ワイスが生みだしたこのヒットシリーズでは、ときに悪事に手を染める難ありのヒーローから、裏切りのなかにも優しさを見せる策謀家まで、善人なのか悪人なのかがはっきりしない多彩なキャラクターどうしの対立や争いが描かれている。巨人やドラゴンが存在する世界で陰謀と裏切りと欲望が織りなす複雑なタペストリーは、きわめてリアルで、われわれにもじゅうぶん共感できるものだった。
《ゲーム・オブ・スローンズ》の二百年前を舞台にした新シリーズ、《ハウス・オブ・ザ・ドラゴン》は、ジョージ・R・R・マーティンの独創的なイマジネーションが生みだしたこの世界に舞い戻り、かつてウェスタロス大陸を治めた最強の一族ターガリエン家が二世代にわたる対立により凋落する過程を明らかにしていく。
 マーティンが二〇一八年に発表した小説『炎と血』(早川書房 刊)の一部をもとに、彼自身と、テレビシリーズ《COLONY/コロニー》[2016-18]のエグゼクティヴ・プロデューサーで“マーティン・ファン”を自認するライアン・J・コンダルが作りだしたのが、この新シリーズである。コンダルはこう語る。「これは、最盛期にあるターガリエン王朝の物語だ。彼らが力を失うことなどあり得ないはずだったが、プライドと権力を求めるあまり没落するんだ」
《ゲーム・オブ・スローンズ》で、かつて大陸を支配したターガリエン一族として登場したのは、エミリア・クラーク演じる若きデナーリス・ターガリエンだった。退位に追いこまれた狂王エイリス二世の娘デナーリスは、父の死後、追っ手を逃れて故国を離れる。ターガリエン家直系の証である美しいプラチナブロンドの髪と菫色の瞳を持つ彼女は、祖先が貴族として統治の一端を担った古代ヴァリリア帝国の言語である高地ヴァリリア語を話す。デナーリスは一族の敵から隠れ、ウェスタロスの東に位置する大陸エッソスで百五十年近く前に絶滅した伝説のクリーチャーであるドラゴンを三頭孵化させ、それを操って、ターガリエン一族の宿命を成就する。
“ドラゴンの母”とも呼ばれるデナーリスはターガリエンの支配を取り戻すべく、奴隷を解放し、虐げられた人々を擁護して民の支持を得ながら、エッソス大陸の大部分を征服していく。しかし、その優しさの根底には、生来の非情さがあった。デナーリスは固い決意を胸に驚異的な規模の兵を集め、逆らう者には情け容赦なく報復する恐るべき指導者という評判を得るのだった。
 マーティンの小説に書かれているように、デナーリスの血には征服への渇望が流れている。デナーリスの祖先であるエイゴン・ターガリエン一世が、ウェスタロス大陸の七王国を征服すべく荒涼としたドラゴンストーン島にある一族の根城をあとにしたのは、その三世紀前だった。姉妹にして妻であるヴィセーニアとレイニス、そして三頭のドラゴン─バレリオン、ヴァーガー、メラクセス─を伴ってウェスタロスに上陸したエイゴンは、あっさり大陸を支配下におく。この侵略に抵抗して独立を保ったのはドーン公国だけだった。
 エイゴンは自ら七王国の王となり、新たに王都として定めたキングズ・ランディングに高くそびえる赤の王城の建設を命じ、回収して熔かした大量の剣で〈鉄の玉座〉を造らせた─その後何世代にもわたって、エイゴンの子孫はその玉座を受け継いでいく。王家の血統と純血を保つため、子孫の多くはターガリエン家の伝統では珍しくない近親婚によりもうけられた。ターガリエン王朝には、愛された王もいれば恐れられた王もいたが、全員が嵐のごとき気性を持つことで有名だった。
《ハウス・オブ・ザ・ドラゴン》はエイゴン一世がその治世を確立した百十二年後、プリンセス・レイニラの父ヴィセーリス一世が即位したところから始まる。ヴィセーリスとレイニラのどちらも、その後に起こるターガリエン王朝の内戦で中心的な役割を果たすことになる。新シリーズでは、ウェスタロス史における最も重要な〝章〟─傲慢と傷心によって引き起こされた争いが激化し、周囲のあらゆる人々を巻きこむこの内戦の時代─が、臨場感たっぷりに描かれている。
 原作者マーティンは、こう語っている。
「私が書くファンタジー作品は、キャラクターが主体だと思いたいね。かつてウィリアム・フォークナーが言ったように、自らと矛盾する人間の心こそが、優れた物語の基盤となる。小説であろうと、短編、テレビシリーズであろうと、その点は変わらない。この物語には、当然ながら驚きもあればひねりもある。そして何より─ほかにもっといい表現がないから、この言葉を使うが─“グレーゾーン”、つまり白でも黒でもない曖昧なキャラクターが登場する。私は、聖者のように純真なヒーローや、極悪非道の悪党など書きたいとは思わない。人間はそんなに単純なものではないからね。人はみな、善と悪を併せ持っている。そこから対立が生じるんだ。愛や憎しみ、欲望や野心から対立が生まれる。《ゲーム・オブ・スローンズ》も《ハウス・オブ・ザ・ドラゴン》も、そういう物語だ」 

《第一章 「炎と血」》

テレビ史において、このメディアの“様相を一変させた”と断言できる作品はごく限られているが、《ゲーム・オブ・スローンズ》がそのひとつであることは間違いない。二〇一一年四月の放映開始時には、リスクの高い賭けだとみなされていた。しかし、この大作ファンタジー・シリーズはあっという間に全世界で人気を博し、テレビシリーズという形式の限界を押し広げたのである。そこでは火を吐き空を飛ぶドラゴンや、荒れ果てた戦場で繰り広げられる壮大な戦いが、アクション・シーンが売りの大作映画に匹敵するほどリアルかつ迫力満点に描かれていた。

《ゲーム・オブ・スローンズ》はシリーズを追うごとに視聴率記録を塗り替え、二〇一九年に放送された最終話ではついに、HBO史上最高の視聴率をあげた。それまでの最高記録だった《ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア》[1999-2007]の記録を破り、なんと一,九三〇万人が最終話を視聴したのである。また、米国エミー賞では一六〇のノミネートと五九の賞を獲得し、歴代最多受賞を誇るテレビシリーズとなった。
 HBOは《ゲーム・オブ・スローンズ》の最終シーズンが放送されるしばらく前から、本作の主な舞台であるウェスタロスの世界を探求し続ける方法を模索していた。ジョージ・R・R・マーティンの小説『氷と炎の歌』の内容が語り尽くされれば、このファンタジーは終わってしまう─それはわかっていたが、HBOの重役たちは、マーティンが創りあげた豊かなディテールを持つ壮大な世界には、まだ人々の心を魅了するシリーズをいくつも生みだす可能性が秘められていることにも気づいていた。
 そこでHBOはマーティンの小説をもとにしたテレビシリーズのアイデアをいくつか発展させるべく、《ゲーム・オブ・スローンズ》シーズン7の準備期間中だった二〇一七年五月、マックス・ボレンスタイン(『GODZILLA ゴジラ』[2014]『キングコング:髑髏島の巨神』[2017])、カーリー・レイ(《MADMEN マッドメン》[2007-15]《LEFTOVERS/残された世界》[2014-17])、ジェーン・ゴールドマン(『キック・アス』[2010]『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』[2011])、ブライアン・ヘルゲランド(『L.A.コンフィデンシャル』[1997]『ROCK YOU![ロック・ユー!]』[2001])といった脚本家たちを雇った。
 原作者であるマーティンはHBOの要請で、彼自身が“後継番組”と呼ぶこれらのスピンオフ企画の発展を監修することになった。作家としてキャリアをスタートさせたマーティンだが、初めてテレビの仕事を手掛けた一九八〇年代半ばからこの業界で活躍している。《トワイライト・ゾーン》[1985-89]のリバイバル作品の脚本を担当し、ロン・パールマンとリンダ・ハミルトン主演のエミー賞にノミネートされたファンタジー・シリーズ《美女と野獣》[1987-90]では脚本家兼プロデューサーを務め、《ゲーム・オブ・スローンズ》でもエグゼクティヴ・プロデューサーとしてクレジットされた。テレビでの経験も豊富な原作者のマーティンに、ぜひともスピンオフ・シリーズに携わってもらいたい─HBOはそう望んだのだった。
 ほぼ一年がかりの企画開発を経た二〇一八年六月、HBOは最初のスピンオフ・シリーズの計画を発表した。原作ジョージ・R・R・マーティン、ショーランナーにジェーン・ゴールドマンを据えたパイロット版の制作が決定されたのだ。舞台は《ゲーム・オブ・スローンズ》のほぼ五千年前の“英雄の時代”─最も傑出した一族の多くがその基盤を築き、繫栄した神話の時代である。やがてこの古代世界は衰退していき、一世代ものあいだ続く冬をもたらす暗黒の時代─〈長き夜〉が到来し、ウェスタロスは〈白き魔物〉と呼ばれる謎の種族に攻撃される……というのが大筋だった。
 しかしマーティンは、当時進行中の別の前日譚の企画に興味をそそられた。彼が執筆した短編「The Princess and the Queen, or The Blacksand the Greens」で描かれたターガリエン家の内紛、〈双竜の舞踏〉をもとにした物語である。〈鉄の玉座〉をめぐって一族が相争い、エイゴン征服王の子孫の多くが命を落とし、ターガリエン家のドラゴンたちが絶滅の危機に瀕する……この過程が簡潔に描かれた同短編は、二〇一三年にトーア・ブックスから出版されたアンソロジー『Dangerous Women』(未邦訳)に収録されている。ガードナー・ドゾワ編による、ダイアナ・ガバルドン、ジム・ブッチャー、レヴ・グロスマンら人気作家の作品を集めたこの短編集は、世界幻想文学大賞アンソロジー部門で大賞を獲得した。その柱となったのが、ヴィセーリス一世の娘レイニラと彼のふたり目の妻アリセント・ハイタワーとの確執を描いたマーティンの三万五千語からなる短編だった。
 翌年バンタム・スペクトラ社から刊行されたアンソロジー『Rogues』(未邦訳)には、この物語の対となる「The Rogue Prince, or A King’s Brother」が収録された。そこでは「The Princess and the Queen, or The Blacks and the Greens」の前日譚としてヴィセーリス王の弟、ハンサムで短気なデイモンの偉業と、同短編に至るまでの経緯が描かれている。両短編ともに、マーティンが“気難しい老学者”と呼ぶ、オールドタウンの知識の城に住む大学匠ギルデインが執筆したターガリエン家の年代記という設定で書かれている。
 二篇の内容はどちらも、同じくギルデインがしたためた「ウェスタロスにおけるターガリエン歴代王の歴史」なる史書という設定でその後マーティンが執筆した、小説『炎と血』のターガリエン家の内乱のなかで詳しく語られている。書名の“炎と血”はターガリエン家の「標語」─マーティンの創造した世界では、一族の家訓、行動指針を表す言葉─から取ったものだ。
 脚本家兼プロデューサーのブライアン・コグマンをはじめとする脚本家陣が〈双竜の舞踏〉をもとにした〈ターガリエン家シリーズ〉の準備を始めて一年。二〇一八年九月、マーティンはこの新シリーズの手綱を握ってほしいと、脚本家でプロデューサーのライアン・J・コンダルを説得する。コグマンのシリーズの方向性に不満を持っていたマーティンは、コンダルならば理想的な協力者になると感じたのである。
「ライアンはとても優秀な脚本家だ。ファンタジーを理解しているし、私が描いたウェスタロスの世界にも詳しい。《ゲーム・オブ・スローンズ》を観ただけでなく、小説を読んで細かい部分まで把握していて、テレビシリーズのショーランナーとしての手腕にも長けている。つまり、〈双竜の舞踏〉シリーズの制作を安心して任せられる人物だったんだ」
 当時、テレビ業界以外でそれほど名が知られていなかったとはいえ、ライアン・J・コンダルが《ゲーム・オブ・スローンズ》のスピンオフ・シリーズの制作を導く理想的な人物であることに疑いの余地はなかった。マーティンと同じニュージャージー出身で、若い頃から物語を語ることに魅せられていた彼は、まだペンシルベニア州ヴィラノバ大学で学んでいる頃、『氷と炎の歌』を読んだ。そして、『ホビットの冒険』『指輪物語』でJ・R・R・トールキンが確立したファンタジー特有の比喩的表現を脱構築し、ひとつの完全なる世界を創造したマーティンの見事な手腕に衝撃を受けたという。
 コンダルは当時を振り返り、こう語っている。
「ぼく自身、創作文の書き方を学んでいた頃だった。マーティンの本を読んだときは、とにかく感動したよ。きわめて斬新な手法だと思ったし、とんでもない職人技に驚嘆した。マーティンは、トールキンの元型をまるごと覆していると感じた。ファンタジー・ファンとして、マーティンの構築する壮大な世界にすっかり引きこまれ、たちまち夢中になった。ハイ・ファンタジー(ファンタジーの一種。架空の神話的世界で英雄が活躍する大作を指す)で、これほど詳細にわたる広大な世界を創作したのは、マーティンとトールキンだけだと思う」
 エンターテインメント業界で名をあげようとロサンゼルスに移ったコンダルは、月刊コミック『The Sixth Gun』のテレビシリーズを企画し、米テレビ局NBCからパイロット版制作のゴーサインをもらうというチャンスを摑んだ。このパイロット版では《LOST》[2004–10]のカールトン・キューズが製作総指揮を務めている。二〇一三年、長年尊敬してきたマーティンの住むニューメキシコ州サンタフェの街で撮影が行われることになり、コンダルは「ファンとしてストーカーする」願ってもないチャンスとばかり、エージェントにマーティンを夕食に招待してくれと頼んだ。マーティンはこの招待を受け、ふたりはすっかり意気投合したのである。
 NBCが『The Sixth Gun』をシリーズ化する計画は流れたものの、コンダルは二〇一四年、ドウェイン・ジョンソン主演による剣と魔法の壮大な物語『ヘラクレス』の脚本をエヴァン・スピリオトポウロスと共同執筆。二〇一六年には、エイリアンに侵略されたあとのロサンゼルスの街を描いた《COLONY/コロニー》をカールトン・キューズと共同プロデュースした。USAネットワークのヒットドラマとなり、3シーズン続いた同作の制作中、感性が似ているからというエージェントの紹介で、コンダルはイギリス人の監督と会う。それが、映画業界とテレビ業界の両方で活躍するミゲル・サポチニクだった。
 ストーリーボード・アーティストとして映画界に入ったミゲル・サポチニクは、ダニー・ボイルの『普通じゃない』[1997]、俳優のアラン・リックマンが監督した『ウインター・ゲスト』[1997]などのストーリーボードを手掛けたあと、二〇一〇年にジュード・ロウ、フォレスト・ウィテカー主演のSFアクション映画『レポゼッション・メン』で長編映画監督としてデビュー。その後テレビの仕事に舵を取り、《Dr.HOUSE ―ドクター・ハウス―》[2004-12]《FRINGE/フリンジ》[2008-13]《Banshee Origins》[2013-16]《アンダー・ザ・ドーム》[2013-15]などで多くのエピソードを監督した。二〇一五年には、初めて《ゲーム・オブ・スローンズ》のメガホンを握り、シーズン5第7話〈贈り物〉と第8話〈堅牢な家〉を監督。終盤に〈白き魔物〉と呼ばれるアンデッドの戦士と野人の部族との大規模な戦いが繰り広げられる野心的な第8話は高い評価を受け、翌年のシーズン6第9話〈落とし子の戦い〉で、初のエミー賞監督賞を獲得した。
 エージェントからの紹介後、クリエイティヴな感性だけでなく作品の好みや考え方もよく似ていると気づいたサポチニクとコンダルは、ジェリー・ダガン作/フィル・ノト画のグラフィック・ノベル『The Infinite Horizon』をもとにした長編映画を共同で作ろうと決めた。また、ふたりはロバート・E・ハワードの小説『英雄コナン』シリーズの映画化も考えていた。サポチニクは『コナン』の映画化についてユニバーサル・ピクチャーズと何度か話し合っていたが、進展が見られなかったため、コンダルが代わりに共同でテレビシリーズ化しようと提案。動画配信サービスを開始していたAmazon Studiosに売りこむ。最終的に企画は見送られてしまったが、これらの経験によって、ふたりは自分たちが素晴らしいチームになるという確信を持ったのである。
 当時サポチニクは、《ゲーム・オブ・スローンズ》シリーズのエピソードをいくつか監督し、最終シーズンではエグゼクティヴ・プロデューサーのひとりとして重要な役目を担っていた。第3話〈長き夜〉では、数百人もの出演者たちを率い、厳しい寒さのなか、実に十一週にわたる夜間撮影をこなした。この82分におよぶ長編エピソードにより、彼は再びエミー賞のドラマ部門監督賞にノミネートされ、プロデューサーのデヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイスらとともに作品賞を受賞している。
《ゲーム・オブ・スローンズ》でサポチニクが作りあげた想像力あふれる映像に感銘を受けたHBOは、そのスピンオフとなりうるシリーズの企画発展に参加を依頼する。しかし、サポチニクはどのスピンオフ企画にも不満があった。「どれもみな奇をてらっているというか、ほかと違うものを作ることだけを目指しているようにしか思えなかった」
 一方、《ゲーム・オブ・スローンズ》のスピンオフ・シリーズに関わりたいと願っていたコンダルは、二〇一八年にマーティンから〈ターガリエン家シリーズ〉を一緒に作らないかと声がかかると、そのチャンスに飛びついた。短編「The Princess and the Queen, or The Blacks and the Greens」はすでに読んでいたが、当時まだ出版されていなかった『炎と血』のゲラも急いで読んだ。二〇一八年十月、コンダルはマーティンとシリーズ・プレミア(第1話)に含むべき主要な出来事と全体の作風について話し合うため、ニューメキシコ州にあるマーティンの自宅に飛んだ。特筆すべきはこの話し合いにおいて、それまでに検討されていたストーリー案はひとつとして採用されなかったことである。マーティンはそれについてこう語る。
「もととなる資料はあるわけだから、創作する必要はほとんどなかった。すでに参考にできるロードマップはある。それをもとに重要な点をすべて取り入れて、道を造っていくことにした」

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 〈電子版〉も同時発売。
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書誌情報

『メイキング・オブ・ハウス・オブ・ザ・ドラゴン ターガリエン王朝創造の裏側』
ジーナ・マッキンタイア[著]
富永晶子[訳]

2023年3月6日発売
書籍・B4判・上製・オールカラー・248頁
定価:本体8,500円(税込9,350円)


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