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【第22話】引き取り手のいない遺骨が並ぶ一室で起きた怪奇な出来事とは? 元職員が独白する斎場保管のリアル【下駄華緒の弔い人奇譚】


―第22話―

亡くなった方の遺骨は、多くが遺族さんが引き取ります。当然といえば当然ですよね? 
ですが、必ずしも全ての遺骨が引き取られるとは限らないんです。引き取り手の居ない遺骨は火葬場で一定期間預かります。これを斎場保管と呼んでいました。

斎場保管の遺骨の数は相当で僕の勤めていた火葬場では300人分程の遺骨が小さい骨壺に納められ、安置室に保管されていました。その安置室には何台もの事務所用のような大きな棚に骨壺に納められた遺骨が整理整頓されて並べられ、一つ一つに名前と年齢、そして完了の番号が振り分けられていました。番号は基本的には引き取られた順に1,2,3と若い番号順に振り分けられます。ですが、もちろん火葬場で預かっている間に引き取り手が見つかったりすると番号が1,3,7と歯抜け状態になります。

そしてある日、僕は安置室に保管してある遺骨の整理を任されました。
番号の若い順から棚の左奥から並べて行き、5列になったらその隣に同じように5列、また5列と並べて行きます。結構時間のかかる作業でなかなか大変ですが、遺骨が所狭しと並べられた安置室でひとり黙々と作業をしているとこんなに沢山の遺骨が引き取り手を待っているんだなと少し感傷的にもなりました。
なるべく早く、引き取り手が見つかるといいな、と思いながら一台目の棚の整理が終わってなんとなく番号を振られ並べられた骨壺を眺めていると、ふと、棚に並べられた骨壺の、先頭の骨壺の番号が見えました。奥は見えませんからね。それがずらーっと見えるのですが、その番号の一文字目だけを読んだら何かの言葉にならないかなぁとしょうもないことを思いつきました。そして左から振られた番号の一文字目だけを見てみると――

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クルシイハヤク

え……、と絶句しました。
たぶん単なる偶然なんですが、なんというか……。
それに気付いてからさっきまで何も感じていなかったのに、急に、怖い! この安置室から出たい! と心の底から思い、残りの遺骨も急いで整理整頓し、ようやく安置室を出ました。

「あれ? 早かったね。仕事熱心だなぁ!」

と先輩に言われました。いいえ、違うんです、先輩…とわざわざ言う必要も無いかなと思って現在に至ります。こういう奇跡に近いような偶然を目の当たりにすると、なんというか、なんらかの未知の力が働いているようで恐ろしいですね。

著者紹介

下駄華緒 (げた・はなお)
2018年、バンド「ぼくたちのいるところ。」のベーシストとしてユニバーサルミュージックよりデビュー。前職の火葬場職員、葬儀屋の経験を生かし怪談師としても全国を駆け回る。怪談最恐戦2019怪談最恐位。


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