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「5年後も、僕は生きています⑩突然の離職勧告」

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第1回「癌宣告からサレンダー体験まで」

肺癌ステージ4からの生還「僕は、死なない」はこちらへ


5年後も、僕は生きています ⑩突然の離職勧告

 2017年の10月27日。

 久々に会社へ行きました。

 8月に退院の報告にちょっとだけ顔を出したので、ほぼ2ヶ月ぶりの出社でした。

 「良かったわね、ほんとうに良かったわ。とりあえず、食事に行きましょう」

 社長は笑いながら言いました。

社長、同僚と三人でランチを食べているときでした。

 「で、体調はどう?」

 「ええ、ずいぶん戻ってきました。まだ声はこんなですが、だんだんと出るようになってきました。もう少し時間が経てば、もっと出るようになると思います」

 「そう~それはよかったね」

 「ありがとうございます。まあ休職期限の11月末の復帰はまだちょっと難しいかもしれませんが、ひと月くらい休職期間を伸ばしていただいて、年明けくらいには戻りたいと思ってます」

 「うん、そうなの…」

 なぜか、社長の顔が曇りました。

ん?

なんか嫌な予感がしました。

 「その事なんだけれど、刀根さん、会社の社則だと11月末で退職ってことなの」

 「え…?」

 「そうなの。会社には規約があって、その規約では休職期間は1年間って決まっていて、それ以降の休職期間の延長はできないのよ」

 「…」

「そんな…急に言われても…」

「だから刀根さんは、11月末で退職ってことなのよ」

 

 「…」

 あまりの予想外の展開に、僕はそれ以上何も言うことが出来ませんでした。

 大混乱の僕は、食事の味も全く感じず、ひたすら途方に暮れた気持ちになっていました。

 会社に戻って社長の話を聞くと、こういうことでした。

 これは規約で決まっていることなので、どうしようもない。

 したがって、休職期間の延長は出来ない。

 仮にすぐに戻ってきたとしても、1日6時間以上、ちゃんと研修が出来るコンディションでないと、復帰は認めない。その際は、ドクターの確認書を持ってくること。

 時短勤務やリハビリ勤務なども、認めない。

 いつ再発するか分からない社員を講師として雇用するのは会社としてリスク。なぜなら研修の予定を立てられないから。

 だから会社に残りたいのであれ講師でなく事務職として残る道もあるが、給与はいまの半分になる。

 そ…そんな…

 給与半分じゃ、どんなに切りつめても生活できないし…

 これって、会社を辞めろってこと?

  僕の困りきった顔を見た社長は言いました。

 「私としてもちょっと考えてみます。悪いようにはしないから。次は11月2日に来て」

 しかし僕は、もう社長の言葉を信頼出来なくなってしまいました。

 あまりにも予想外の展開だったからでしょう。僕は社長のことを100%、いや、200%信頼しきっていたのです。

お見舞いに来てくれたときに社長が言ってくれた言葉

「刀根さんのことはほんとうに大事な仲間だと思っているから。決して、刀根さんの他に誰かを雇ったりすることなんてないから、安心してね」

 その言葉を、その言葉通りに信頼しきっていたのです。

あれはいったい何だったのか?

僕のことを、もう死ぬ人

もう、あとちょっとしか生きれない人、

だから、あんなに優しかったのか?

 僕の頭の中に言葉がよぎります。

 

 これは、クビってことだ。

 会社を、クビになるんだ。

 仕事がなくなる? 

 おいおい、ちょっと待ってくれよ。

 いきなりそれは、ないだろう。

これから、どうすればいいんだ。

長男は就職が決まったばかりとは言え、いま大学の4年生。次男は大学2年です。まだまだ学費だってかかります。

なにより、生活してくためにはお金が必要です。

僕の服用している薬は高額なので、毎月の医療費は6~8万円くらいかかっています。

この状態で収入がなくなる、ゼロになる?

ガンの治療でお金はほとんど使ってしまって、貯金はほとんど残っていませんでした。

すっからかんでした。

体調だってまだまだ充分じゃありません。

当時は声もスカスカで、まだほとんど声が出ていませんでした。

社長の指摘どおり、人前で話が出来る状態ではありません。髪の毛だってまだ生えていません。

身体はダルさが続き、体力も戻っていません。

転職するか?

いや年齢的に無理だろう、今年で51歳だぞ。

こんな体調で転職活動できるか?

そのエネルギーが、いまの僕にあるのか?

そもそも、つい数ヶ月前に肺ガンで死にそうになってた人間を雇う会社なんてあるんだろうか?

いやいや、ないでしょ。

こんな体で、一から新しい仕事の立ち上げ?

何をどうやってやる?

営業活動でもするか?

いや、無理でしょ。無理、無理。

 うむむ…

どうなる?

どうなる?

どうなる?

どうなる?

どうなる?

どうなる?

どうやって生きていく?

肺ガンステージ4Bの次は、会社クビ?

会社クビ

会社クビ

会社クビ

頭の中を、同じセリフが駆け巡ります。

う~、なんて運が悪いんだ。

いや、これは運か? 

それとも魂の計画なのか?

魂の計画だとすると、また、いきなりハードなやつ?

おいおい魂くん、もういいかげんにしてくれよ。

頼むからもうちょっと、休ませてくれよ。

全身転移のガンから生還して、3か月ちょっとなんだぞ。

僕は途方に暮れて電車に乗り、暗く沈んだ気持ちを抱えたまま、家に着きました。

「ただいま」

「おかえり」

 家では妻が夕食の準備をしていました。

その姿を見て、僕は耐えきれなくなって、言ってしまいました。

 「会社、クビになった」

 「え?」

 妻は驚いて、僕を見て目を丸くしました。

 「会社の規約なんだって。休職期間は延長できないって。だから11月末で退職だってさ」

 「う~ん」

妻はしばらく黙っていましたが、顔を上げて毅然と言いました。

 「しょうがないよ。大丈夫、なんとかなる」


 この言葉で、僕がどれだけ救われたでしょうか。

 妻は僕なんかより、何十倍も強い。

 彼女が僕の妻でほんとうに良かった。

 そう、ついにというか、早くもというか、僕の魂の計画・第2弾が始まったのです。

 おいおい、魂くん、そんなに急ぐなよ、おうちょっと休ませてよ。

命からがら助かってから、まだ3か月ちょっとしか経っていないんだよ。

 僕の自我(エゴ)くんは、そう文句を言っていました。

 

 『魂君へ、自我(エゴ)からの伝言』

 お前はなんというヤツだ

 いい加減にしてくれよ

 肺ガンステージ4Bの次は、会社クビかよ。

 しかも、この身体と体調の、この時期に。

 なんというドSなんだ!

 いや、自分がやっているからドMか? いやいや、そんなことはどうでもいい

 とにかく、勘弁してくれ。

 おまえなんか嫌いだ!

 僕は心の中で、魂に悪態をつきまくりました。

 人生が変わる、3つの出来事というものがあります。それは「大病」「倒産」「投獄」です。

 僕は1年のという短い間に「大病」と「倒産(まあ、同じようなこと)」を経験させられたのでした。

 あたまの中を駆け巡る思考の中に、当然ながら、それを伝えた社長に対す「うらみ」「つらみ」も延々と出てきました。

 当時の僕は、それを受け止めて消化することが出来なかったのです。

その状況を俯瞰して客観視することが出来ず、「犠牲者」「被害者」モードに突入してしまっていました。

 心の中で相手を責め、自分は可愛そうな「犠牲者」だとしゃべり続け、ネガティブなエネルギーのなかにどっぷりと浸かりこんでしまったのです。

しかし、不幸中の幸いにも、僕はガン体験で一度サレンダー、明け渡しを体験していました。

それが、それまで(ガン前)の僕と違ったところです。

 なのでネガティブなエネルギーに巻きこまれつつも、深入りせずに抜けていく、ということが、なんとなく出来るようになっていたのです。

やはり、体験・経験から学んだことは大きかったのです。

 今から思い返すと、これも大事な魂の計画だったのです。

 あの当時(2017年10月)は僕も視野が狭く、社長のことをいろいろネガティブに思いましたが、社長の立場になってみれば、当然のことだと思います。

 社長はその責任として、会社を守らなければなりません。

 そのためには、つらい決断や勧告もしなければならないときだって、あるんですからね。

ただ、もうちょっと優しく言って欲しかったですけど(笑)。

そう、あのとき会社をクビ(最終的には依頼退職)になったからこそ、いまの僕が存在します。

 会社を辞めなかったら、きっと本も書かなかったでしょう。

「僕は、死なない。」も、「さとりをひらいた犬」も、この世界に存在しなかったでしょう。

 すべては「たましいの計画」です。

 社長は、僕の人生を変えてくれる「登場人物」として、とても大事な役割を演じて頂いた、魂の仲間なのです。

あのときはそうは思えませんでしたが、いまなら分かります。

それは、僕自身がまだ潜在意識の中で整理できていなかった「犠牲者」「被害者」というネガティブな感情を、味わって、感じきって、そこから抜け出る、というこれまた貴重な体験もさせて頂いたのです。

僕たちは「体験」することによって「成長」する存在です。

僕たちの生きる目的は「体験すること」、そしてその体験を「遊ぶこと」です。

体験に「いい」とか「悪い」はありません。

すべてが「魂の栄養」なのです。

 

 僕はいま、社長にとても感謝してます。

 抜けるまで2年近くかかりましたけどね/笑

そのあたりの詳しいことは新刊「さとりをひらいた犬」に詳しく書きました。

よろしければ、お読み下さいね。

⑪へ続く

「5年後も、僕は生きています」第1話から読みたい方はこちらから

第1回「癌宣告からサレンダー体験まで」


★新刊です。

自分の魂の声が聞こえずに、何をどう生きたらいいのか分からない人は、ぜひ読んでみて下さい。

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このような方におすすめします。

①いまの自分が「ほんとうの自分」を生きていないような気がする

②不安や恐れがあたまから離れないときがある

③「ねばならない」で苦しくなる時がある

④自己否定感の渦に落ちしまうことがある

⑤評価や持ち物などに執着して苦しくなる時がある

⑥「心の平安」や「ほんとうの自分」は何か知りたい


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