★我楽多だらけの製哲書(41)★~思い出の底なし沼とヘッセ~
2012年3月31日にシンガポールへと飛び立つに際して、それまで住んでいた家の荷物で、捨てるには忍びなく、またシンガポールにわざわざ持っていくようなものではなく、さらには実家に送り付けて迷惑をかけるべきではないものがかなりあった。それらを当時住んでいた相模原市の国道沿いにあるレンタル倉庫を借りて、とりあえずそこで収納して海外生活が始まったわけである。
それから9年くらいが経過するのだが、その間、沖縄時代を除けばずっと海外にいたわけで、レンタル倉庫を継続して借りてきたが、今年度ようやく関東に戻ってきたので、倉庫を解約してもいい気がしていたところにコロナの流行や緊急事態宣言があってタイミングを逸してしまった。
また、9年間倉庫に眠っていたものが果たして現在の生活に不可欠かと言われればそうではないので、わざわざ取り出す動機づけがないこともあって、私はそのレンタル倉庫を借り続けている。ただ問題はちょっと荷物を預けたり取り出したりしようと思っても、現在は東京23区内に住んでいるため、相模原市まで行くのが大変ということである。
しかし少し仕事のスケジュールに余裕が出てきたので、久しぶりにレンタル倉庫に行ってみることにした。レンタル倉庫は国道沿いに並べられ積み上げられたコンテナ群であり、周囲は畑のため、吹き付ける風がつねに倉庫の隙間へ土を運び入れる結果、倉庫の中は恐ろしく埃っぽいのである。まあ一か月のレンタル料を考えると、現に必要としていない物体を収納してくれる空間を手に入れられている以上、文句は言えない。
またこういった倉庫や押し入れなどの収納スペースの恐ろしさであるが、ひとたびそこで色々なものを探していると本来目的としていたものとは全く関係のないものが偶然発見され、その思い出にふけってしまって捜索作業がなかなか進まないということがよくある。
今回は単に暇なので特別これを探そうと思って赴いたわけではなかったが、やはり久しぶりに見つかる思い出の品の数々に足止めされて、気づけばかなりの時間が経ってしまっていた。
そのようになってしまう理由を、ドイツ生まれのスイスの作家であるヘルマン・カール・ヘッセの言葉は次のような言葉で説明してくれている。
「子どものとき暮したところは、何もかも美しく神聖なんだ。」
思い出は子どもの時だけのものではないが、少なくとも現在の自分よりも幼く若いときの記憶であり、その意味では現在よりも子どもと解釈しても差し支えないだろう。そしてその思い出はとてもキラキラしたものに映るのである。もちろん当時苦しいことや嫌なことが全くなかったわけではないのだが、良かった部分が強調されるようにして思い出が形作られることが多いから、そのようにキラキラしたものになるのだろう。
そして倉庫を色々と物色していると本当に懐かしいものが「発掘」された。
「テレホンカード」である。
スマートフォンが当たり前になった今となっては、その存在すら忘れ去られそうになっているものである。さらに、このテレホンカードは私にとってとても特別な意味を持つものであった。これは高校の時の学園祭で作成し販売していたテレホンカードだったのである。
私は高校三年間、学園祭を運営する「文化委員会」というものに所属していた。そして、三年間連続して「広報・宣伝パート」という部署を担当していて、学園祭を盛り上げるため、学校内で学園祭便りのようなものを作成し、学校外へは学園祭ポスターを周囲の学校やお店に貼ってもらうようにお願いに回った。そして、学園祭グッズとして、「うちわ」や「Tシャツ」や「テレホンカード」のデザインを募集して業者に発注し、学園祭で販売していたわけである(一時期は「法被」もあったが、需要量と設定価格の関係から三年生のときには廃止した記憶がある)。
この文化委員会の活動は過酷であった。放課後のほとんどが委員会活動だった。議論が難航した時は、寮生だけで寮の集会室で延長戦が行われたこともあった。毎年、来年はもう絶対に辞めようと思うのだが、終わると過ぎ去った苦労が目の前の達成感に覆い隠されてしまい、そして頑張った自分の姿がキラキラとした良い思い出に見事に変容し、気づけば次の年も文化委員会に立候補していたのであった。
それにしても倉庫や押し入れというものは思い出の底なし沼のような空間である。このままでは思い出の住人として仕事始め前の貴重な時間を食いつぶしてしまうという危機感が出てきたので、私は倉庫での懐古主義的活動を切り上げることにした。確かに時間は浪費されてしまったが、良いリフレッシュになったので結果的には意味があったということにしておきたい。
(他の年度のテレホンカードは以下で紹介)
(倉庫内の写真は2018年ころのまだ少しは片付いていた状態のものと、現在のカオス状態のものである)
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