ゴールベース・プランニングこそ、日本の金融機関が取るべき手法ではないか?


最近、IFA向けに「ゴールベースプランニング」の研修をさせていただく機会を頂戴した。これはシリーズで行うものだが、先般1回目の研修を実施したところ、本気で取り組んでみたいというIFAの方が非常に多かったことに、こちらとしても非常にうれしく、やる気が高まってきた。このため、今後は『日本版ゴールベースプランニング』を確立したいとも思っているが、このポイントに関して、簡単にお伝えしたい。

「ゴールベース・アプローチ」、「ゴールベース・プランニング」という言葉を、耳にする機会が増えてきた。
昨今、銀行や証券会社でも、この言葉でお客さまにアプローチしているところも増えているようだが、本当にこの手法の意義を理解して導入しているのか?少しながら疑問が残る。

アメリカにおいては、「儲かりそうな商品」を追求する投機的な売買については、90年代中盤から衰退の傾向に。代わりに、顧客の資産増大に伴う利益と販売者のアドバイス利益が一致する「ゴールベース・プランニング」が、90年代頃から資産運用分野において、顧客の側に立った販売手法として主流となっている。

さて、本来のゴールベース・プランニングとは、具体的には、どのような手法なのか?
要約すると、資産を運用するにあたり、どの銘柄が上がるか下がるかの短期的な運用ではなく、自分自身のゴール(人生の目標)を明確にしたうえで、目標の時期と金額が達成できるようプランニングしていくやり方だ。
この手法をわかりやすくプロセスごとに分解すると、主として以下の4つになる。
①自分の人生のゴールを特定(目標を複数設定する)
②実現に向けたシナリオを設定
③投資の提案と実行
④定期的及び臨時のレビュー
上記のプロセスは、メリルリンチやエドワードジョーンズなど、アメリカにおいては、会社を問わずほとんど同様のスタイルのようだ。

ゴールベース・プランニングにおいて、重要なのは、『①の顧客の人生のゴールをしっかりヒアリングすること』と、ゴールに向けて顧客と毎年対話を重ねていく『④の定期的及び臨時のレビュー』と言われている。
思い返してみると、いままで運用商品を購入する際に、何を目標に、いつまでに、いくら貯めていきたいか?自分自身の将来の夢は何か?といったことを、セールスパーソンから問いかけられたことはあっただろうか?
それよりも、いくら運用できる資金があるか?当社でお勧めのいい商品があるのでぜひ!といった提案(?)、商品決め打ち売りが、ほとんどだったのではないだろうか?
ゴールベース・プランニングでは、従来と真逆の手法を取る必要がある。セールスパーソンの仕事は、話すのではなく、顧客の話を聞くことから始まる。わかりやすく話すことも難しいものだが、顧客の声や想いに、じっと耳を傾けることほど難しいものはない。
日常において、顧客と人生について語り合う、というトレーニングを受けていない銀行や証券会社のセールスパーソンが、そもそも顧客のさまざまなゴールをヒアリングできるのか?よくある投資意向の質問チャートに沿って「イエス」「ノー」だけ確認するのでは、顧客が気づいていない潜在的な要望まで確認できない。つまり、セールスパーソンには、質問のスキルが大きく問われてくるのだ。

顧客からゴールをヒアリングすることは、セールスのスタートに過ぎない。顧客と綿密に打ち合わせして決定したゴールに向けて、毎年の運用結果をもとに、最初に決めたゴールに向かって計画通りに進んでいるのか?プランの修正変更が必要なのか?追加で考えなければならないゴールはあるのか?あるいは顧客の生活状況に新しい変化はあるか?最初に確認したゴールまで伴走しレビューを行い続けることが、この手法においての重要なポイントである。
店頭で投資信託を購入した後に、定期的な連絡や報告を受けている方は少ないはずだ。セールスパーソンにおいても、販売までが業務であり、基本的にアフターフォローは義務ではない。あくまでもサービスの範疇になる。
つまり、銀行も、証券会社も、顧客との関係性を変えていくためには、大きなビジネスモデル転換を求められる。ここに投資する覚悟が求められるといえる。

近年、IFA(インディペンデント・ファイナンシャル・アドバイザー)という存在がフォーカスされているなか、「IFAとして独立しないと、顧客のためになるセールスができない」と言って退職する銀行や証券会社の社員が増えている。
独立した立場の彼らは、顧客のために最適と思われる商品を提案して、転勤や担当変更もなく、資産形成を二人三脚で伴走するスタイルを取っているケースも多い。
日本の資産形成においては、IFAのようなプロの存在が不可欠だと思う。

一方で、改めて、銀行や証券会社の底力も見てみたいと感じている。既に顧客の口座を持ち、顧客とは接点があるなかで、『顧客第一』のセールススタイルに転換し、収益を上げるやり方を変化させることで、日本の資産形成、100年時代の生き方を応援することが可能なのではないか?
ビジネスとは、顧客に利益や利便性を提供したうえで、企業が利益を得るというのが、あるべき姿でといえる。ゴールベース・プランニングは、この当たり前に向けた、金融機関の取るべき選択肢ではないだろうか?

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