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永遠の都ローマ展@東京都美術館

 見に行きたい展覧会は山ほどあるが、時間や体力と相談しながら厳選せざるをえない。2023年最後になるかもしれないのが、東京都美術館で開催中の「永遠の都ローマ展」だった(東京会場は2023年12月10日までで、2024年1月5日から福岡市美術館に場所を移す)。今年は夏に学会参加のためにローマに行ったこともあって、この展覧会は見ておきたかったのだ。
(展覧会の公式ウェブサイトはこちら

ローマの七つの丘

 ローマには「七つの丘」があると言われる。その一つがカピトリーノ(Capitolino)の丘である(時代によって何を七つに含めるかは異なるらしい)。カピトリーノはカンピドリオ(Campidoglio)とも言うが、ユピテルの神殿があった場所であり、古代ローマの宗教や政治にとって重要な地であった。時代は下り、15世紀にカンピドリオ広場にコンセルヴァトーリ宮が建設される。ローマの歴史にとって重要な彫刻がここに集められ、これがカピトリーノ美術館となった。今回の永遠の都ローマ展は、カピトリーノ美術館所蔵の彫刻や絵画を中心に組み立てられている。

展覧会の構成

 展覧会は五つの章と特集展示から構成されている。すなわち、

Ⅰ ローマ建国神話の創造
Ⅱ 古代ローマ帝国の栄光
Ⅲ 美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想
Ⅳ 絵画館コレクション
Ⅴ 芸術の都ローマへの憧れ―空想と現実のあわい
特集展示 カピトリーノ美術館と日本

である(せっかくなのでローマ数字で表記してみた)。ざっと見て分かるように、ローマの歴史を時代順に辿ることができる。

建国神話の牝狼像

 第一章の目玉は、《カピトリーノの牝狼》である。複製ではあるものの、喚起力が強く、見る者を引き込む。ロムルスとレムスの双子は牝狼によって乳を与えられ、長じてローマを建国したという神話が伝えられている。ただし、双子は後代の追加だという。
 この複製像はローマ市庁舎の所蔵品だが、そのローマ市庁舎というのはカンピドリオ広場の正面にある。この記事のトップに配置した写真は私が2023年7月に撮影したもので、右に見えるのがコンセルヴァトーリ宮(カピトリーノ美術館)、左が市庁舎である。この市庁舎の左側に回ると、柱の上に同じデザインの牝狼像が鎮座している(これもまた数ある複製の一つであろうが)。視線を同じ高さに置いて眺めるときと、下から見上げるときとでは、受ける印象が異なる。狼の表情は見えないが、鑑賞者の視線は双子と同じように上向きになる。

市庁舎左側
柱の上の牝狼像
見上げるとまた違った印象を受ける。

 本展覧会では、最初の展示室でいきなりこの《カピトリーノの牝狼》が目に飛び込んで来るのだ。時代順の配列だから建国神話にまつわるものが最初にあるのは当然と言えば当然なのだが、メインディッシュを最初に出されたようで少々面食らった。

コンスタンティヌス帝の巨像

 しかし、この後がしょぼくなるかというと、そんなことは全然ない。第二章では、《コンスタンティヌス帝の巨像》が待ち受けている。遠くからでも、足と頭部が見える。大きいとは聞いていたが、予備知識があっても十分に驚くことができる。

カピトリーノのヴィーナス

 そして《カピトリーノのヴィーナス》。主催者の自慢はこれだろう。展示の仕方からも、特別扱いであることが見て取れる。二つ目のフロアに八角形のスペースが区切られ、このヴィーナス(ウェヌス)だけが設置されている。白い大理石が美しい。他に何もないので、全方向から眺めることができる。床面の模様がカンピドリオ広場を真似ているのもお洒落だ。

その他の展示品

 「その他」とまとめてしまうのは申し訳ない気もするが、逐一コメントしていては長くなりすぎるので、残りは軽く触れるにとどめておく。
 カンピドリオ広場とその三方を取り囲む建物は、それ自体が美しい。ミケランジェロによる設計の工夫などが第三章で紹介されている。
 第四章の絵画館コレクションも悪くはないのだが、本展の主役は絵画ではなく彫刻という気がした。
 第五章で目を引いたのは、トラヤヌス帝記念柱から二つの場面を石膏で複製したものだろう(「モエシアの艦隊」と「デケバルスの自殺」)。ピラネージ《トラヤヌス帝記念柱の正面全景》でその場面を探そうとしたのだが、図が細かすぎてよく分からなかった。

東京都美術館のYouTube

 東京都美術館のYouTubeチャンネルで、主な展示品の解説を視聴することができる。一般論としては、予習してしまうと現場での感激が薄れるおそれもあるが、「永遠の都ローマ展」に関してはその心配はあまりしなくてよい。彫刻のような立体的な作品は、画面で見るのと実物を見るのとでは印象が全然違う。むしろ、事前にある程度知識を得ておくほうが、現物を見る楽しみが増すように思う。

最後に

 総じて複製が多いのは、展示品の性質上やむを得ないだろう。コンスタンティヌス帝の巨像など、実物の重さは想像もつかない。《カピトリーノのヴィーナス》の本物が来ただけでも、十分に素晴らしい。

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