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Jリーグを見上げてみたら【short letter】

OWL magazineの読者の皆さまにとって、サポーター目線のJリーグはどのような存在なのでしょうか。それはJリーグそのものというよりも、愛するクラブやお気に入りの選手の姿を通じて見えてくるものかもしれません。

では、選手目線のJリーグはどうでしょうか。ここで言う選手目線とはプロサッカー選手のことではありません。読者の皆さまの家族や親族、友人など身近な方にいるかもしれない社会人サッカー選手目線からJリーグは一体どんな存在なのでしょうか。

本題に入る前に、なぜこのような質問をする理由をお話します。

僕は1997年から2019年度の22年間、神戸市社会人サッカーリーグでプレーをしていました。長い間社会人サッカー選手をしていると、Jリーグ関係者も含めてサッカーを通じて人との輪が広がっていきます。ただ、輪が広がっていくにつれて思うことがあります。それは一般的に「Jリーグは日本サッカーの氷山の一角」という認識が薄いということです。

たとえば、ジュニア世代の保護者を例にします。

「Jリーガーになりたいと想う子供の夢は、親の夢でもある」と言わんばかりに、子供よりも熱心にサッカーを勉強し、練習や起用方法、最後にはチーム方針について陰口を言う保護者を見聞きします。そもそもサッカーが上手くなりたい気持ちが子供自身に少しでもあれば、その子供は自ら勉強し、考え、工夫して練習します。ジュニア世代でプロサッカー選手になる夢を見るのは素晴らしいことです。しかし、プロサッカーの世界だけが全てではない、と教えられずにいるジュニア世代の子供たちがいると思うと、僕は日本サッカー界の未来を憂う気持ちになります。プロサッカー選手となる夢に破れても、今なおサッカーボールを追いかける社会人サッカー選手はJリーガーよりもたくさんいます。社会人サッカー選手目線よるJリーグの存在を知って欲しい。そういった想いを込めて言葉を綴ります。


社会人サッカーというカテゴリーとは

高校やユースチーム、または大学を卒業した後、多くの選手はサッカーボールを休日に蹴り続けていきたいと思っています。

しかし、彼らが卒業後に所属するカテゴリーはJリーグやJFLといった全国リーグではありません。全国リーグ以下のカテゴリーである地域リーグや都道府県リーグ、都市リーグ*1といった社会人サッカーと呼ばれるカテゴリーです。その中で、自身の実力とモチベーション、新しい生活環境の中で無理なくボールを蹴り続けられるカテゴリーを探してプレーすることになります。また、これらのカテゴリーにはJリーグやJFLといった上位カテゴリーを経験した選手や全国大会出場する強豪校出身の選手もいます。そのため、一括りにしてレベルが低いと言えません。

なお、中には、チームの規模や財政などといった諸事情により必ずしもリーグ優勝しても上位カテゴリーへの昇格をしないチームもあります。

*1 都市リーグ
当記事では都道府県リーグ以下の社会人サッカーリーグの名称を『都市リーグ』とします。
この『都市リーグ』という名称は兵庫県サッカー協会で使われている公式名称です。各協会によって地区リーグや区リーグなど名称が異なります。


都市リーグでプレーする元Jリーガーから見たJリーグ

社会人サッカーのスタート地点となる都市リーグでも元Jリーガーが現役引退後にプレーする場合が稀にあります。セカンドキャリアを歩む元Jリーガーが都市リーグでプレーする理由は様々です。大雑把に言えば、助っ人という立場でプレーすることが多いです。

サッカー選手は大きく2つのタイプに分かれます。味方選手を「活かす」選手、または味方選手に「活かされる」選手と大きく区別することができます。「活かす」選手は基本的に味方のプレースピードや技術に応じて自身のプレースタイルを修正しながらプレーをします。「活かされる」選手の場合は、パスボールが欲しいタイミングや動き出しについて味方選手にアドバイスしながらプレーをします。

都市リーグでプレーする元Jリーガーは、「活かす」「活かされる」両方のプレーが簡単にできます。なぜならば、今まで経験したことがないような空いたスペースがあるからです。これまではダイレクトプレーの状況であっても、ワントラップができたりするため、余裕を持ってプレーします。その余裕が現役時代にはできなかった遊び心をもったプレーに繋がります。上手い下手関係なく、キャリアの中でもほとんどしなかったであろうセットプレーのキッカーを自ら名乗り出ることもできます。ある種、元Jリーガーの原点回帰となる場所、それが社会人サッカーなのかもしれません。

社会人サッカー選手にも試合に対するプレッシャーは緩く感じます。年齢が若いほど特にそう感じます。しかし、自身が持つゲーム感覚を一定のレベルを維持することが不可能だと早い段階で悟ります。なぜなら、ボールを蹴る機会が所属するチームの活動日しかなく、多くても週1日か2日程度しかないのです。そのため、いくら新しい知識を取り入れる、たとえばフットボリスタのような雑誌等を読んで最先端の戦術を勉強しても、それに見合う技術や運動量がないため、実際には全く使えません。最終的には自らがこれまで培ってきた練習量や知識、そして経験という財産を少しずつ消費しながらプレーせざるを得ません。

そういった社会人サッカー選手を味方または対戦相手にする元Jリーガーは、存在感あるプレーができると思われがちです。ところが、実際はそうとは限りません。元Jリーガーの足元へボールが入っても、次へと打開するプレーに繋がらないことが多いからです。プロサッカーの世界では基礎中の基礎、知っていて当然と考えられるプレーであったとしても、味方選手がそのプレーを知らないことが多々あります。また、当然のことながら状況判断やプレーのスピードの違いもあります。そのため、アフターファールを貰いやすくなる元Jリーガーは、試合中に味方や対戦相手、審判に対して何かとストレスが溜まる状況が続きます。そして、味方の些細なミスに対して関東出身ではないのにも関わらず、関東弁で「なんでボールを失うんだよー!!!!」と何故かアピールし始めます。その上で「こんなところでプレーするとケガする」と吐き捨て、チームを離れる傾向があります。

ここからは有料公開にさせていただきます。
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