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「ディストピア禍の新・幸福論」前野隆司著

十年近く前に著者の「『死ぬのが怖い』とはどういうことか」という本を読んだ。「どうすれば幸福になれるか、どうすれば死を超越できるか」という問いに正面から取り組み、著者なりの解を示した本であった。死という絶対的な事象に、自分と同じように子供のころから疑問と恐れを持って、答えを求めている人がいることを知ってうれしく思った。それ以降、著作をフォローしているが、今回は著者が還暦を迎えるにあたって、これまでの研究を集大成した内容の本である。

「どんなふうに生きても、所詮は無に帰す。もっというと、心は最初から無だ。だから、財を積み上げても、名声を後世に残しても、すべては完璧なまでの無駄なのだ。だったら、人の目を気にするのは徹底的にやめて、自分の二度とない人生を主観的に満喫すべきではないか。」という主張を、哲学・思想としてではなく、脳神経科学・心理学・統計学・工学を中心とした様々な科学的研究の結果として導いていく。

著者は「六十にして、わたしはあなたであり、あなたは世界であり、世界はわたしであることがわかるようになった。」と締めくくる。自分もあと数年で還暦だが、そのような境地に至りたいものだ。

「ディストピア禍の新・幸福論」前野隆司著 プレジデント社

(この記事は以前に私が業界誌に投稿した推薦図書文です)

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