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越境活動のエスノグラフィー

長岡研究室のメンバーは、自分たちのことをMELC (Management Ethnographers' Learning Community)と呼んでいる。学生向けの説明で言及することはあまりないが、実は、長岡研究室(長岡ゼミ)の活動レパートリーには様々なスタイルの「エスノグラフィー」が散りばめられている。

私たちが「越境」と呼んでいる活動は「参与観察型のフィールドワーク」と呼ぶこともできる。ゼミ生たちは未知の世界に飛び込み、出会った人々と関係性をつくり、自分の世界を広げていく。そのプロセスは、部外者が越境先のメンバーシップ(成員性)を獲得していくプロセスに他ならない。メンバーシップを強めていく中で、参与観察者のアイデンティティーが揺さぶられ、新たなものの見方を獲得していくように、ゼミ生たちは越境の中での「学び」を経験することになる。

ただし、越境活動では、参与観察の方法論を厳密に遂行することよりも、フィールドワークの経験を「自分の言葉」で自由に語ることを重視している。例えば、卒業論文集の『未熟なイノベーター達の越境物語』は、2年間(もしくは3年間以上)にわたる越境活動のオート・エスノグラフィーとして執筆している。また、ウェブ・マガジン『妄想紙』は、ゼミ活動をめぐるエスノグラフィックなショート・エッセイだと言える。

そして、3年生と4年生が半期ごとに執筆するウェブ・マガジン『Footwork & Network』も長岡研究室が作成する「越境活動のエスノグラフィー」である。『Footwork & Network』は、「越境」という参与観察型フィールドワークの経験を読者に追体験してもらうためのストーリーテリングだが、その特徴は、越境先のメンバーシップ(成員性)を獲得していくプロセスの中で知り合った人々が描かれていることだ。

エスノグラフィックなエッセイの中で、越境先で出会った人が描かれる時、執筆者(ゼミ生)と出会った人との関係性が見えてくる。ただし、描かれるのは、「強い関係性」ばかりじゃないし、別に「強い関係性」が望ましい訳でもない。ほんの一言だけ会話を交わした人のことが描かれることもあるし、そんな「弱い関係性」が新たなものの見方に気づかせてくれることもある。誰との、どんな関係性を、どう描くかは、それぞれの執筆者が越境の中でどんな経験をして、どう意味づけたかによって違ってくる。私にはそこが面白い。

その違いをゆっくりと読み解きながら、複雑で、曖昧で、多面性をもつゼミ生たちの「越境」を追体験してみたい。