車掌の一番大事な仕事って?

よく鉄道会社で車掌として働いていたというと、凄い!運転していたの?
とよく聞かれますが、車掌は運転ができません。
やはり利用されるお客さんの目からすると、鉄道の仕事で一番の印象に残るのは運転士なのでしょう。
こんな時、一番手っ取り早い説明としては、後ろで放送してる人!とか、車内で切符売ったりする人!というのが早いのですが、他にもさまざまな仕事があります。

その中でも一番重要なお仕事、それは「ドア扱い」です。
職場の先輩からも言われたことですが、運転士の操作には基本的には安全装置のバックアップがあるが、車掌のドア扱いにはほぼ安全装置はない。それだけ人命を預かる重みのある作業なのです。
確かに、運転士が赤信号を進もうとすれば、自動的に強制停止させられるし、カーブの速度制限に対しても、全てではないにしろ危険性の高いカーブを中心に、速度超過を防止するシステムは装備されつつあります。
その一方で車掌が扱うドアスイッチは、一定速度以上での走行中には開かないような安全装置は付いているものの、例えば運転士がオーバーランをして、ホームをはみ出して止まった場合でも、ドアを開けることができてしまいますし、そもそもホームがない反対側のドアを開けることだってできてしまいます。
そんなミスしないって?
頻繁ではないですが、停車駅が近づき、車内巡回から慌てて乗務員室に戻って確認をせずに反対側のドアを開けたりする…という事故は、皆無ではありません。
こんな話を聞くと、ドアにもたれかかるという行為が恐ろしくなってしまいますね。

僕が乗務する最大両数であった8両・3ドアの列車では、24枚の扉。国内で最大ですと、15両4ドア…ということは、60枚の扉を、指一本で開け閉めする。当たり前のように毎日繰り返し行われている作業ですが、そこには沢山の危険が潜んでいます。
ドアに挟んでしまえば場合によってはケガ。そして、もし傘の先や服の裾など、薄いものを挟み込み、それに気づかず列車を発車させてしまうと、重大な事故につながりかねません。
実際、長大編成の前の方で服などを挟みこんでしまい、そのまま気付かずに発車させてしまう…という事故は、残念ながらごく稀にではありますが、あります。

そう考えると、運転士の過失による事故は、一度に多くの人命を奪う可能性は高いものの、頻度としては高くない。
車掌の過失による事故は、特にドア扱いに関して、一歩間違えればという場面が頻度としては非常に多いのでは?
ということで、車掌も運転士に負けず劣らず、人命に密接に関わっている仕事をしているのです。
時々臨時の仕事として、ドア扱いを行わず、特急の増結対応や、ワンマン列車の改札業務のみの仕事もあったりしましたが、やはりそんな時は少し気楽に仕事に臨むことが出来たのを思い出します。

ということで実は結構車掌が気を使っている、ドア扱い。
その最大の天敵は、駆け込み乗車です。
特に閉まりかけたドアに傘とか身体を挟み込もうという人、結構多いんですよね…
昔、関西に旅した時に、オバはんが閉まるドアにカバンを挟み込んできて、車掌が再度ドアを開ける一瞬の隙に身体をねじ込む姿を見て衝撃を受けましたが、実際に車掌として仕事を始めると、そんなことは日常茶飯事。
中にはドアが閉まり切っているのに、こじ開けようと頑張ったりする方も。

電車に間に合うよう走るのはまだよしとして(本当はこれも危ないんですが)少なくともドアが閉まり始めたら潔く諦め、次の列車を待ちましょうね。


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