戦争とボードゲーム
現代的なボードゲームの走りは、ウォー・シミュレーション・ゲーム(すなわち戦争ゲーム)にある。元々は実戦の机上演習としておこなわれていたものだが、それを知的遊戯へと昇華させたのである。
ウォー・シミュレーション・ゲームの生みの親とされている人物はふたり。
ひとりめは『宇宙戦争』『タイムマシン』『透明人間』などのSF小説の元祖としても有名な、イギリスのH・G・ウェルズで、1913年に『リトル・ウォーズ』というミニチュア・ゲームを出版した。
この系統がそのまま発展したものが『ウォーハンマー』などである。
別方向として、アメリカのゲイリー・ガイギャックスらが1971年に発表した『チェインメイル』がある。
この個人戦闘ルールに、ファンタジー系の魔法ルールが加えられ、世界初のRPGである『ダンジョンズ&ドラゴンズ』略称D&Dが生まれた。
こういう経緯があるので、H・G・ウェルズ賞は、ミニチュア・ゲームとRPGの双方を対象としている。乱暴に言ってしまえば、ウェルズがいなければ『ドラクエ』も『FF』もなかったかもしれないのだ。
一方1952年、フィギュアではなく紙ゴマを使ってリアルな戦争ゲーム『タクテクス』を出版し、本格的なシミュレーション・ゲームの出版会社アバロンヒルを立ち上げたのが、ふたりめの生みの親、アメリカのチャールズ・ロバーツである。ダイスで参照する戦闘結果表、六角マスであるヘクスの採用なども含め、その後の業界に与えた影響は大きい。
このようにウォーゲームやRPGは、第二次世界大戦の勝者であるアメリカを中心に発展していった。
ところが現在のボードゲームの中心と言われているのはドイツである。ドイツは大戦の反省を深く胸に刻み、戦争テーマのボードゲームは好まれない(基本的には出版されない)。その代わりに「3人以上での競争」を基本とする、今風のボードゲームが発展したのは、皆さんもご存じのとおりだろう(ちなみにフランスではコミュニケーション・ゲームが発達しているなど、はからずも国民性はゲームデザインに影響を与えるようである)。
そして2022年2月の今まさしく、ロシア対ウクライナの戦争が進行中である。私自身としても心中穏やかではないのだが、今回はこの戦争がボードゲーム・シーンにどんな影響を与えるのか、少し考えてみたい。
※下記有料部分では、その後判明したことに関する追記が太字になっている
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