イラストレーターがアップリケのメーカーになるまでのこと ⑨
こんにちは。
イラストレーターのトヨクラです。
いつもお読みいただきありがとうございます。ラスト2話です。
今回はワークショップのお話からです。
伊勢丹でのお取り引きも順調にいき、展開していただいてたある日、ワークショップをしてくれませんかというお話をいただきました。
先方の希望はお客さんが描いた絵をアップリケにして、カバンに貼ってその場でお渡しできないかというものでした。
そもそもレッスンバッグなどのカバン類は製造していませんでしたし、作り方も知りませんでした。
でも、その場のバイヤーさんの熱意と僕もやってみたいという思いが強くなって、「ぜひやりましょう、カバンも作ります」と気づいたら言っていました。
お客さんの描いた絵をアップリケにするのはなんとかできるにしても、それを貼り付けるカバンを作ると言ってしまったけど、どうやって作ればいいんだろう。
便利な世の中、工場をまずネットで探します。
縫製工場というものに頼めば作ってもらえるということがわかり、簡単なイメージ画とともにいろんな工場にお見積もりをとりました。
その中で、ちょうど大阪の門真市にある見積もりも予算内の工場が見つかり、一度お話をさせてもらうことにしました。
それが今でもカバン類を製造していただいています北次株式会社さんでした。
はじめての工場訪問。工場の人って怖いのかなと思いおそるおそる会社を訪ねました。
工場に着くと、外からパートらしきおばさんが忙しそうにカバンを検品して袋に詰めている姿が見えます。
その中に靴を脱いで一歩踏み入れると、アットホームな感じでスタッフの方が対応してくださり、すぐに社長のいる二階に案内されました。
早速社長の北次さんと面会し、僕の話を一から聞いてもらいます。
カバンに関しては全く素人の僕でしたが、飾ってあるサンプルを見せてもらったり、生地を見せてもらったりしながら親切に相談にのってもらいました。
もともとレッスンバッグなどの入園入学グッズを作っている工場でしたので、僕の要望もすんなりと受け入れてくれて生地などを提案していただき、トントン拍子で話は進みました。
僕自身、生地の知識などほぼゼロに近かったのですが、そこでオックスやブロード、シーチングなどの用語を覚えました。
色だけはいつものようにこだわりが強く、発色にこだわって生地を選んだのを覚えています。
また百貨店で販売することもあり、堅牢度などの生地の耐久性なども生地メーカーから取り寄せて確認しました。
あくまで、カバンはアップリケが映えること、つまり絵でいうとキャンパスのような存在でなければなかったので、主張せず、でも安っぽくならないものを何度か微調整を繰り返しながらサンプルを製作してもらいました。
そしてネイビーとピンクの2種類のレッスンバッグ、ファーストロット100個が完成しました。
カバンの内側はポケットをつけてネームタグもつけています。持ち手は重いものを入れても手が痛くならないように、アクリルテープではなく柔らかいボディの生地を使っています。
シンプルなだけに細部にまでこだわったものに仕上がりました。
こうしてカバンが完成して、ワークショップの準備は整いました。
「お客さんに描いてもらった絵をアップリケにする」というイベントのプレスリリースを打つために、まずは自分の子供に絵を描いてもらい、それを参考にアップリケを作りました。
線で描かれた部分など、面で置き換えたり、はみ出した感じなどをどうするかは悩みましたが、できるだけ元絵に近いものに近づけようと頑張りました。
ここはもう意地で、子供が描いた自由な絵に大いに刺激を受けて、これに負けたくないと必死でアップリケに起こしたのを思い出します。
そしてなんとか子供の絵をアップリケにすることができました。
その後、出来上がりイメージとともに、プレスリリースを打っていただいたおかげで、これがファッションニュースなどの媒体に載りました。
そしてワークショップ当日、伊勢丹新宿店でその場で受付して、その場でアップリケを制作するというイベントを行いました。
最初はどうなるかと心配していましたイベントでしたが、記事を見て来ていただいたお客さんも多く、とても個性的なレッスンバッグがぞくぞくとできあがりました。
世界にひとつだけのオリジナルレッスンバッグ、とても喜んでいただけたのではないでしょうか。
なかなか大変なイベントで終わる頃には憔悴しきっていましたが、お客さんの喜ぶ顔がその場で見れて、プロダクトを始めてよかったなとしみじみと感じました。
イラストレーションの仕事では、なかなか自分の仕事でお客さんが喜んでいる場面を見ることができないのですが、プロダクトを始めて、直接お客さんと触れ合えるのがとても新鮮でやりがいを感じます。
その他に今は「ぬりえでオーダーアップリケ」と言って、お客さんが型紙に塗り絵をしていただいたものを、僕がその場でアップリケにするというイベントも入園入学のシーズンにイベントとして開催しています。
その場で僕が手で作っていくので、なかなか多くの数は作れないですが、お客さんにとって満足度の高いイベントになっていると思います。
他のお店で商品を買ってくれていたお客さんや、チラシを見て孫にプレゼントしたいと来てくれたおばあちゃん、その場で面白そうと参加してくれる子供、いろんなお客様とその場でお話しして作っていけるイベントなので、とても楽しいです。
モノが売れにくい時代、コト消費が盛んです。
ワークショップも体験というコト消費の典型例です。
モノとコトをうまく組み合わせて今後もメーカーとして販売していきたいと思います。
つづく。