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論文「テレビを変えた文字テロップ」を読んで、編集者目線でポイント整理してみた(報道番組編)


テレビのテロップに関する非常に面白い論文を拝読しました。現在のテレビがどういう意図でテロップを付けているかなどが書かれており、テロップを作成する根拠にもできると感じたのでnoteにポイントを書いておきたいと思います。

少しでもご参考になれば幸いです。

では早速ですが、該当の論文がこちらです。

森川俊生氏「テレビを変えた文字テロップ」
http://id.nii.ac.jp/1193/00000898/

論文の要約

この論文ではテレビ番組の表現手段の一つのテロップをその目的に沿って10のカテゴリーに分類。そのうちの一つ「サイドテロップ」について言及されており、報道番組とバラエティ番組とで、同テロップの出し方を比較し考察が述べられています。(今回は報道番組についてのみポイント整理してみます)

<サイドテロップとは>
画面の左上や右上などに常時表示して番組の内容や見どころを示すテロップ

サイドテロップの歴史

サイドテロップが生まれた歴史も面白かったのでご紹介しておきます。テロップが急増したのは1990年代で、当時はその目的が「ザッピング対策」であったようです。

<ザッピングとは>
チャンネルを次々に変える視聴者行動。リモコンの普及と密接に関係する。テレビモニターに手を伸ばさなければチャンネルを変えられなかった 1980 年代までは、ザッピングという行動は見られなかったが、リモコンが手元にあれば次々とチャンネルを変えながら視聴できる。

1990年代からリモコンが普及しザッピングがしやすくなった。それに伴い番組制作側が行った対策は以下の通りで、そこからサイドテロップの歴史が始まったと述べられています。

その対策として、「今、何を放送 しているのか?」を視聴者に素早く知らせて興味を喚起し、チャンネルに留まってもらうことを意図して始まったのがサイドテロップである。

テロップによりテレビが見づらくなるなどの議論もあったようですが、瞬く間にサイドテロップはスタンダードとなり、様々な変化と進化を遂げ現在に至ったとの事です。このような歴史も知っていると、何かの雑談の時のネタにもなりますね。

サイドテロップの調査方法

ザッピング対策として普及したサイドテロップが現在どのような意図で使われているか、報道/バラエティ番組とで細かな調査・分析がされていました。番組により違いがありとても面白い内容でした。

<調査方法>
・調査期間
2019/11/10〜11/19
・調査対象
テロップの増加が顕著に見られる報道/バラエティ番組に絞り、計20番組をピックアップ

夜帯の報道番組の調査結果

報道番組については夜と夕方の時間帯に分けて調査がされ、時間帯によりテロップにも如実に差があったのが面白かったです。

まず夜帯についてですが、主要なものとして、6番組がピックアップされ、位置や行数、番組タイトルの有無などが比較されていました。主な比較結果としては、

・6番組共にサイドテロップを常に表示する点は一致
・表示位置やタイトル有無は差が見られた

という感じで、実際に各番組のテロップを確認してみると以下の通り(私が拾ってきたものなので、論文での調査期間外の画面キャプチャです。ご了承ください)。

報道夜テロップ

テロップの表示位置などは差がありますが、テロップの文字数(20〜25文字程度)は共通しており、どの番組も「ニュースのポイントを分かりやすく伝える」ためのテロップとの分析結果。

「分かりやすく伝える」がテロップの役割だという事は容易に想像できますが、「実際のニュース番組はこうなってます」という情報を元に説明できる人は少数派だと思うので、この調査結果は非常にありがたかったです。説明を求められた時に根拠のあるしっかりとした回答ができるのは大事ですよね。

夕方帯の報道番組の調査結果

時間帯を移して夕方については4番組がピックアップされていました。同様の観点で比較され、主な結果としては、

・画面構成には驚くほどの類似が見られた
・画面右上にサイドテロップ、左上に番組タイトル
・テロップの行数も2〜3行で一致
・1行の文字数も10〜13程度
・夜帯の報道番組よりも総文字数が多い(夜:20〜25文字、夕方:25〜30文字)

こちらも同様にテロップを確認すると以下の通り。

報道夕方テロップ

論文の中では総文字数が夕方のほうが多く、その増えた分は何なのか?という分析があり、それも興味深かったです。視覚的に気付くのは夕方帯は右上に「被災地」や「混乱」など目を引く文字を大きく表示されている事ですが、森川氏はその理由を以下のように考察されていました。

夕方の報道情報番組が放送されているのは,まだニュースが動いている時間帯である。さらに夕方の時間帯の特徴として,プライム帯や深夜帯と 比べて視聴者が集中してテレビモニターと対峙しておらず、いわゆる“ながら見”が多いとされている。そうした放送時間帯の特性が、「今もニュー スが動いている」というライブ感や緊迫感を丸囲みの 2 文字で目立つように表示する、という手法 につながっていると考えられる。

時間帯によってこのような違いがあり、視聴者を維持するためにしっかりとした狙い・工夫がされているのは興味深かったです(テレビもYouTubeも視聴維持率が大事なのは一緒!)。

夜帯のサイドテロップが「ポイントを分かりやすく説明する」ものだったのに対し、夕方帯はそれに加えて、「キャッチーな言葉を示して視聴者の興味を引き付ける」ものという役割も混ざっていました。

YouTubeでもライブ配信やプレミア配信など特定の時間帯に配信するケースが多くなっていますし、この考え方は頭の片隅に置いておきたいと思いました。

ではYouTubeでのサイドテロップはどうすべきか

最後に森川氏の論文を踏まえ、YouTubeでのサイドテロップの出し方について考えてみます。

YouTube動画でもテロップの役割は同じように、

・動画の内容を分かりやすく伝える
・視聴者さんの興味を引き付ける

の2つが主だと思いますので、素直に考えると、もし既に興味を十分に引きつけられている動画であれば夜帯のような出し方、そうでなければ夕方帯という考え方になってくるのかと思います。

ただYouTubeでは興味を引き付けるために冒頭にダイジェスト動画を付けていることも多いので、サイドテロップで興味を引き付ける事がどこまで効果的なのかというのも分かりません。逆に冒頭以外のシーンが画像キャプチャとしてシェアされるケースを考えると、常に何かしら興味を引くサイドテロップを出しておいた方が良いのかもしれません。

こういう動画はこうすべき、という答えは正直出せませんが、編集者として重要なのは、何となく他の動画もテロップを付けているから…ではなく、それが結果的に効果が得られなかったとしてもしっかりとした根拠を持って編集ができているかだと思っています。「テレビの報道番組ではこうしているから、同じように考えました」とか、「これはYouTube特有の動画だから、報道番組とは異なるテロップにしています」とか。

根拠を元に編集・公開をし、その結果を分析し改善する。その繰り返しが大切ですし、根拠がなければ改善もできません。テレビとYouTubeという枠組みは違いますが、大勢の人が見慣れているテレビ番組のテロップ事情を知っているという事は説得力のある根拠を定める大きなヒントになると思いますし、クライアントさんから信頼頂ける要素にもなるかもしれません。

最後に

以上、報道番組におけるサイドテロップの役割は、「分かりやすく伝える事」「興味を引き付ける事」の2つがあり、夜帯は前者、夕方帯は前者+後者という役割の違いがあるという事を実際の画面キャプチャを添えて整理してみました。森川氏の論文では他にもテロップの色に関する考察などもされていますので、良かったら一読なさってみてください。

なかなか論文を読むというのは大変ですので、ポイントを絞って整理してみましたが、もし一人でも多くの方のご参考になれば幸いです。

今回は触れてなかったですが、後日バラエティ番組のテロップについても整理してみようかと思いますので、もしこれが参考になったという方がいらっしゃいましたらスキなどして頂けたらモチベーションになるので嬉しいです。

ではこれからも編集ライフ楽しんでいきましょう!

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