こころのかたち
ふと、気がつくと、隣に女の子が座っていた。
その小さな手には、紙を持っている。いや、正確に言えば、その紙を折ろうとしているのだ。
折り紙でもしているのだろうか?
しかし女の子は、まるで固まったかのように、紙の端と端を合わせたまま、いっこうに折り目をつけようとしなかった。
が、どれくらいの時間かがたったある時、動くことを思いだしたかのように動き出した女の子は、紙を元の紙切れの状態に戻すと、こちらを向いて、その紙を差し出して一言、こう言った。
「やって」
女の子から受け取ったその紙は、まるでセロハンのような艶をしていた。だが、その感触は折り紙と変わらない。表裏で色が違うと言うことはなく、薄紅色を基調としたその色合いは、見るたびにその色合いを変えていた。
折り曲げようとして、その紙が正方形ではないことに気付く。とりあえずは形を整えようと、斜めに一度折って、余計な部分をはっきりさせる。
「……それは、なぁに?」
不意に、女の子が聞いてきた。
「余分なところを切り取るんだ。そうしないと、綺麗な形にならないだろう?」
そう言って、余分だった箇所をはさみで切り取る。完璧とまでは言えないが、それでも、折り紙をするには問題のない形になった。
「さぁ、それじゃ、何を作ろうか?」
「……おじさんの好きな形で、いいよ」
にっこりと女の子は笑う。問いに答えながら。
こう言うときは、ありきたりだが、定番の鶴か……そう思った私は、記憶をたどりながら、ゆっくり丁寧に、薄紅色の紙を折り畳んでいく。
そして、数分後。
「わぁ……」
羽を広げ、頭を折ったその瞬間、女の子の顔が感動のものと変わっていた。
「うん、結構、綺麗に出来たな」
自分としても、この鶴の出来には満足のいくものとなった。
「さぁ、受け取って」
「うん!」
女の子は、その鶴を大事に大事にしまい込むかのように、両の手のひらで包み込む。そして、何度目かわからないくらい、こちらにくれていた笑みを見せる。
「ありがとう……この紙はね……私の心なの」
「え?」
そんな、突然の一言にとまどい、思わず女の子の顔を見返す。
が、女の子は笑みを崩すことなく、言葉を続けた。
「ありがとう……綺麗に作ってくれて……きっとあなたなら、これからもずっと綺麗なままに、しておいてくれる」
すぅっ。
女の子の影が、薄くなった。そして、ふわりと、宙に浮く。
「信じてるよ……」
その言葉を残し、女の子は、鶴と共に消えた。
気付くと、先ほど切り取ったはずの紙も……いや、周りの風景さえも消えてしまっていた。
そうだ……。私は、ここで……。
「お待たせしました」
不意に頭上から声をかけられる。少しうつむいていた格好のまま座っていた私は、その声に顔を上げる。
そこに立っていたのは、にこやかに微笑みかける医師であった。
「奥さん……よく頑張りましたよ。かわいい……女の子です」
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はるか昔に書いた、過去のショートノベル掲載、第二弾です。
短編の、こんなお話でも、誰かの心に届けばいいなぁ、と思います。
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