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「……方面へは行かれません」

日本語として変だ、間違っていると思われたでしょうか。しかし、助動詞「れる」「られる」の接続を思い出せば、正しい言い方であることがわかるはずです。

「行く」は五段活用動詞なので、未然形は「行か」です。活用語尾がア段の音なので、後ろに続くのは「れる」。したがって、「行かれる」という表現に、文法上の誤りはありません。

可能の助動詞「れる」「られる」は、古語の「る」「らる」に由来します。「堂が歪んで経が読まれぬ」「片手で錐(きり)は揉まれぬ」などのことわざの他、古典文学にも用法が見られます。可能の表現としては、むしろ本来の姿とさえいえるのです。

知らぬ人の中にうち臥(ふ)して、つゆまどろまれず
(知らない人の間に横になり、少しも眠ることができない)

(『更級日記』)

そうは言っても、「行かれる」という言葉は普段使わない、というのはそのとおりだと思います。なぜなら、「行ける」という言い方が別にあるからです。これは、助動詞を用いた表現とは別の可能動詞と呼ばれるものです。次回は、この可能動詞について考えます。

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