ギリシャ文字の読み方

ギリシャ文字の読み方は古典式がおすすめ

「YouTube」で偶然見つけた広告です。アニメには疎いので、初見ではこのタイトルをどう読むのかわかりませんでした。

「Ψ難」はサイナンと読むらしいのですが、サイはあくまで英語風の発音であり、ギリシャ語の読み方ではありません。

ギリシャ文字の読み方は、古典ギリシャ語、現代ギリシャ語、日本語での慣用などの間で幾分差異があります。

以下、註記のないものは、プラトンの著作などに見られる、古典期のギリシャ(紀元前5―4世紀頃)で標準語となったアッティカ方言での読み方です。日本語での慣用と異なる部分は太字で記してあります。

Α, α:アルパ ἄλφα(ビュザンティオン時代にアルファとなる)
Β, β:ベータ βῆτα
Γ, γ:ガンマ γάμμα
Δ, δ:デルタ δέλτα
Ε, ε:エー εἶ
(ビュザンティオン時代にエプシロンἒ ψιλόν「単なるエ」となる)
Ζ, ζ:ゼータ ζῆτα
Η, η:エータ ἦτα(現代ギリシャ語はイータ)
Θ, θ:テータ θῆτα(現代ギリシャ語はシータ)
Ι, ι:イオータ ἰῶτα
Κ, κ:カッパ κάππα
Λ, λ:ラブダ λάβδα (ラムダは英語読み)
Μ, μ:ミュー μῦ
Ν, ν:ニュー νῦ
Ξ, ξ:クセー ξεῖ(前4世紀末にクシーξῖ に変化。クサイ、ザイは英語読み)
Ο, ο:オー οὖ
(ビュザンティオン時代にオミクロンὂ μικρόν「小さなオ」となる)
Π, π:ペー πεῖ(前4世紀末にピーπῖとなる。パイは英語読み)
Ρ, ρ:ロー ῥῶ
Σ, σ ς:シグマ σίγμα(ςは語尾にのみ使う)
Τ, τ:タウ ταῦ
Υ, υ:ユー 
(ビュザンティオン時代にユプシロンὖ ψιλόν「単なるユ」となる)
Φ, φ:ペー φεῖ
(前4世紀末にピーφῖとなる。ビュザンティオン時代からフィ。ファイは英語読み)
Χ, χ:ケー χεῖ(前4世紀末にキーχῖとなる。現代ギリシャ語はヒ。カイは英語読み)
Ψ, ψ:プセー ψεῖ(前4世紀末にプシーψῖとなる。プサイ、サイは英語読み)
Ω, ω:オー
(ビュザンティオン時代にオメガὦ μέγα「大きなオ」となる)

まとめると、ギリシャ文字の読み方は、紀元前4世紀までの発音から、大きく分けて次の3段階を経て変化してきたことがわかります。

1. 前4世紀末に、εῖの音が[e:]から[i:]に変化
2. ビュザンティオン時代に、音の区別のために「-プシロン」「-ミクロン」「-メガ」を付加。また、φの[p]が[f]に変化。
3. 現代ギリシャ語や他言語の中で変化。特に[i:]は英語では[ai]となる。

日本語に定着している読み方は、時代の変化や他言語からの影響により、随分と変則的なものとなっています。これに対して古典式のアッティカ方言の発音は規則的なので、まずこちらを覚えておくと英単語の語源などが理解しやすくなります。

例えば、プセーψで始まる語として、プシュケーψυχή「魂」がありますが、これがpsychology(心理学)や冒頭のアニメのテーマであるpsychic(超能力者)の語源になっています。発音されないのにpがある理由も、これで説明がつくのです。

ちなみに、新約聖書でもαはアルパと訳されています。

Ἐγώ εἰμι τὸ Α καὶ τὸ Ω
エゴー・エイミ・ト・アルパ・カイ・ト・オー
(我はアルパにしてオメガなり)

(『ヨハネの黙示録』第1章第8節他)

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