欧文約物の使い方__引用符_____と二重引用符_____

欧文約物の使い方──引用符「‘ ’」と二重引用符「“ ”」

質問
シングル・クオートとダブル・クオートがあるのはなぜですか。明確な使い分けなどはあるのですか。

引用符(クオーテーション・マーク)「‘ ’」(Unicode:U+2018、U+2019)と二重引用符(ダブル・クオーテーション・マーク)「“ ”」(U+201C、U+201D)は、英文で使われる約物です。用法としては、おおむね和文の鉤括弧や二重鉤括弧に相当します。

発言、引用

イギリスの用法では、発言・引用部分の前後を引用符「‘ ’」で囲み、その中で更に引用符が登場するような箇所に二重引用符「“ ”」を用います。和文の鉤括弧と同様、入れ子になる場合があるので、2種類の符号があるわけです。

‘Have you any idea’, he said, ‘what “red mercury” is?’

多くの新聞やアメリカの用法では、内外の引用符の順序が逆になります。

“Have you any idea,” he said, “what ‘red mercury’ is?”

ちなみに、コンマを引用符の中に入れるかどうかは、コンマ自体が元の発言に含まれるものかどうかで決まります。

【元の発言】Go home to your father.
【引用文】‘Go home’, he said, ‘to your father.’

【元の発言】Go home, and never come back.
【引用文】‘Go home,’ he said, ‘and never come back.’

但し、アメリカの用法では、一律に引用符の中にコンマを入れます。

“Go home,” he said, “to your father.”
“Go home,” he said, “and never come back.”

個々の著作物名

雑誌や新聞の個別記事、書籍中の章名など、作品群を構成する個々の著作物名に引用符「‘ ’」を用います(現状「note」上では表現できませんが、雑誌や新聞の題号、書名などはイタリックで表記します)。

‘Two-thirds of Americans do not feel the benefits of Wall St rally’
‘The Sources of Soviet Conduct’
Chapter 5, ‘The Rivalry of Empires’

新奇な語句、特殊な意味づけなど

見慣れない専門用語や新出の語句、造語に引用符「‘ ’」が使われます。

‘hermeneutics’ is the usual term for such interpretation
the birth or ‘calving’ of an iceberg
the weird and wonderful world of fan fiction, of ‘fanfic’

立場が異なるなどで、語句を額面通りでない意味合いで示す場合にも、引用符「‘ ’」が使われます。

Authorities claim to have organized ‘voluntary’ transfers of population

また、引用符「‘ ’」は口語的、俗語的な表現にも用いられます。

I must resort to a ‘seat of the pants’ approach
Kelvin and Danny are ‘dead chuffed’ with its success

なお、和文の鉤括弧と異なり、単なる強調の場合に引用符「‘ ’」は使いません。

引用符「‘ ’」や二重引用符「“ ”」は専ら英文で使用するものです。和文でも使用している事例が見られますが、和文では鉤括弧や二重鉤括弧を用いるのが基本です。

それから、日本語のキーボードで「Shift」を押しながら「2」や「7」を押すと出てくる「"」(U+0022)と「'」(U+0027)は、始めと終わりが同じ形という手軽さからよく利用されますが、これらはあくまで簡易型です。使用するフォントに用意されているときは、上記の正式なもので組むべきです。

参考文献

‘New Hart’s Rules’, “New Oxford Style Manual”, Oxford: Oxford University Press, 2016, pp. 92–93, 162–164.

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