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【お仕事回顧】赤い壁に刻まれた慟哭の物語

【お仕事回顧】この記事はなにか?
・ポートフォリオ的に見せるものです
・自分がスランプに陥ったときに振り返るお話の作り方の備忘録
です

公開許可を取っていないものもあるのでタイトルはボカしてあります
お話の作り方などを記載してあるのでネタバレがあります
(タイトル非公開なのでネタバレも何もないですが)


概要

悪役として登場したキャラクターの過去を深掘りするストーリーのシナリオ作成


期間

2016年9月~2016年10月

依頼元、依頼経緯

ゲーム制作会社、リピート依頼

関係者

企画窓口担当の方、打ち合わせ無し

仕事内容

ストーリーシナリオ、キャラクター設定、ストーリープロット制作、ストーリーシナリオ制作、その他テキスト各種制作

資料

特になし

納品物

企画大枠、キャラ設定、ストーリープロット、シナリオ、キャラボイス台本

ボリューム

60分尺のアニメくらいのボリュームをイメージ

時系列

各ストーリー依頼→作業→納品

概要

 剣と魔法のファンタジー世界を舞台に描くストーリーです。

 ひとことプロットは 「悪玉とされている敵キャラクターが過去を振り返り、新たな一歩を踏み出す物語」でした。
 企画意図と目標は「まとめ」に後述します。

 主人公となる悪玉はゲームの本筋となるストーリー内で中ボスとして立ちはだかるキャラクターでした。悪の限りを尽くした悪玉には悲しい過去があったため、それを語る機会がいつかくればいいと思っていました。

 キャッチワードは「赤い壁」「泥」「許嫁」「黄金時代」です。
 赤い壁といえば三国志の「赤壁の戦い」が思い浮かびます。今回の物語は赤壁の戦いとはあまり関係はありませんが、赤壁の名前の由来「曹操軍が燃える炎が石壁を赤く染めたから赤壁と名付けた」という考え方はヒントにしました。
 外敵を防ぐために築かれたとある長大な城壁。その城壁にははるか過去から外敵の侵入を防いできた歴史と、多くの血が記憶とともに刻まれています。本ストーリーで展開される物語も、その城壁に刻まれた歴史のひとつである、というコンセプトでした。

 ストーリーの軸は「ロミオとジュリエット」型です。
 犬猿の仲である勢力に生まれたふたりが恋に落ち、やがて悲劇に巻き込まれてしまう、定番中の定番のストーリー軸でした。
 サンドイッチ回想法を使ってプロローグとエピローグを現代の時間軸に、その間に過去の時間軸となる本編を挟む形で構成しました。
 ストーリー軸に対して国の設定や情勢をあてはめ、主人公の年表を作り出来事をプロットしました。主人公がこれまで歩んできた年表は作っていたので、その流れをもとに物語を構築していくのは作業としてはやりやすかったし楽しかったです。

 メインキャラクターとなるのは主人公とヒロインです。主人公にはキャラクターモチーフがいますが秘密です。主人公は悪役としての初登場だったため、キャラクターの名前は善玉がヘイトを込めて叫びやすい名前にしました。何度も叫んで決めたので個人的にはイメージバッチリでした。

 ヒロインのモチーフは特にいませんでしたが、主人公が女性になったらこんな見た目になるだろう、というのをビジュアル化してもらった記憶があります。
 恋愛要素のあるストーリーが久々だったこともあり、「最悪の出会い!からの……」というベタなストーリーを展開しました。
 主人公とヒロインが恋愛をする物語になりますが、取り巻く環境は過酷であり、2人とも恋に現をつかす性格ではありません。そのため、サブとして周囲を固めるキャラクター達は2人のよき理解者であり、2人の恋愛を応援してくれるような性格と役割を持つキャラクターにすることを意識しました。
 主人公側には無二の親友を、ヒロイン側にはちょっと恋愛に憧れを持つ妹を。主人公が赴任する激戦地で戦う現場の人間として2人のキャラクターを。また主人公の親や兄弟たちを……。
 主人公の人格形成、職場での活躍、悲劇という流れに至るまで、振り返ってみれば適材適所というか、物語を進めていく上で理想的なキャラクター設定と配置が出来たかと思います。

あらすじ

 舞台となる世界は巨大で凶悪なモンスターに生命を脅かされています。  巨大な帝国の第二皇子である主人公は、溢れる才能を持つ皇太子と弟に挟まれて生まれます。
 主人公は幼い頃から兄弟との才能の差を痛感しながらも、巨大な帝国の祖の血を引く人間として国を背負う人材となる、という青臭い夢を持ち続けながら努力を重ねます。
 主人公は折れない心を持つために自分に厳しく、周囲にもそれを求めるため、周りからは誤解され嫌われがちです。 そんな中でも理解してくれる無二の親友の助けを得ながら、主人公は騎士学校に入学し、そこでヒロインに出会います。
 出会いは最悪でしたが、泥臭く努力を重ねる主人公を見ている内に、次第にヒロインは主人公に惹かれていきます。
 学友として共に騎士学校を出た主人公とヒロインは袂を分かちますが、数年後、帝国防衛の最前線である赤い壁の街に赴任する形で再会します。  激戦地である現場で戦いながら、主人公とヒロインは絆を次第に深めていきますが、巨大なモンスターの侵攻によって赤い壁は崩壊します。
 政局の思惑や同盟国の裏切りなどで救援の無い中、主人公達は街を守りきります。しかし、そのために親友とヒロインは命を落としてしまいます。深い絆でつながった親友とヒロインを亡くし、その原因を作った帝国の有り様に、主人公は強く怒ります。
 巨大ゆえに腐敗してしまった愛する祖国を正すことを決意し、主人公は大罪人となることをいとわず、帝国へ反旗を翻します。  主人公の歩みはどういう結末を迎えるのか?
 

感想

 恋愛物語を書くことは決めていましたが1つだけルールを課していました。それは「主人公とヒロインに絶対に愛の告白をさせない」ことでした。ベタベタくっつくだけが恋愛じゃない、はただの昭和脳な僕のイチ意見ですが、言葉に出さない、出さずとも伝わる想い、見えないけど伝わる心、というのをシナリオで表現しようと考えていました。

 描きたかった感情は「慟哭」でした。主人公は理想のためなら変化も他者の評価も一顧だにせずに強行に推進していく性格です。弱みを見せないために普段は感情を抑えています。どんな犠牲が出ても気丈に振る舞い、指揮官としての堂々とした振る舞いを崩すことはありません(だから恋愛も苦手、というより不要)。
 そんな主人公が親友を亡くし、婚約者を亡くした時見せる感情の発露。そこに至るまでの経緯と、そのシーンでの感情の爆発をしっかり描きたかったです。

 ヒロインは男性優位な社会で剣の才能でのし上がってやろうと考える勝ち気な性格で、無礼な物言いをする主人公のことを初対面でひっぱたく剛の者でした。しかし内面は年相応の女の子で、次第に主人公に惹かれていきます。
 主人公の理想を理解しているため、職務で近くにいる現状のままで良しとする奥ゆかしさを発揮していきます。理想に向けてひたむきに努力する主人公の姿に惹かれたため、恋愛に現を抜かしてしまったらそれは自分が好きになった彼ではない。そんなジレンマを描いてみたかったです。
 主人公とヒロインの距離感、手をつないだり抱きしめ合ったりはしないけどしっかり想い合っている、この関係性は大好きでした。
 どうやら異性のことを「キミ」と呼ぶ女性がツボのようです。

 ヒロインとの関係性がメインのストーリーだったので影が若干薄くなってしまいましたが、主人公と親友との関係性も大好きでした。この関係性は三国志の劉備と関羽の関係性をイメージしています。どうやら、無二の親友にして優秀な部下、という立ち位置と関係性がツボらしいです。こんな部下がほしい……。

 ストーリー上のMVPはヒロインの妹キャラです。上記のようなヒロインの可愛らしさを引き出しつつ、2人の関係性を外から見てやきもきする役割も兼ね、主人公の慟哭を引き出し、その場に立ち会う立ち回りをしてくれました。声優さんの演技も迫真で、姉の死の責任を主人公に問うシーンは何度見ても心臓が震えます。

まとめ

 「才能に恵まれず天才ではないけど、泥臭い努力でそれに並ぼうとする」というキャラはもっとも感情移入がしやすく、個人的にも大好きです。
 本来悪役に設定されにくい性質ですが、今回あえて主人公を「凡夫」にしました(泥臭い努力ができる時点で充分な才能ですが)。超えられない壁を努力と知恵と工夫で超えようと挑む、むしろ主人公にこそ似合う性質を悪役に背負わせたことで、素敵な化学反応が起きたと思います。

 このストーリーの企画意図は「悪玉とされているキャラクターの過去を掘り下げ、見終わった後に悪玉を好きになってもらうこと」でした。果たしてうまくいったでしょうか?
 シナリオを書いた本人は、元々好きだったのが、さらに好きになってしまいました。

 本ゲームに登場するキャラクターは2000を超えます(多分)。
 立場上贔屓は絶対にしませんが、立場をかなぐり捨てて好きなキャラを選んでいいとしたら、今回の主人公は2位に大差を付けてダントツです。

印象に残っているシーン&セリフ

初対面でヒロインに頬を張られる主人公


「おい、ここにローランという男がいるだろう。
 今季の騎士候補でも筆頭の実力と聞いている。」
「ロ、ローランがどうした!?」
「初代皇帝ギルザが皇位に就いた後、その大業を補佐した英雄、
 聖騎士ローラン。大層な名をつけられたものだ。
 手合わせを願いたい。騎士叙任の最有力候補と言われる実力、
 私が直々に確かめてやろう。」
「……私ならここだ。」
「…………………女?」
「女だからどうした。国を守ろうと剣を取る意志に男も女も関係ない!!」

バチィィィィィィン!!!

「皇族の地位を傘に着て、志を同じくする仲間を傷つけ侮辱する。
 私はキミのような傲慢な男が最も嫌いだ!!」

婚約者の亡骸に憎まれ口を叩く主人公。半狂乱になるヒロインの妹


「お姉様……お姉様ああああ!!
「……………………。」
「私が着いた時には、もう……。う、うぅ……お姉様。」
「……………………。」
「お姉様を……抱きしめてあげてください。」
「……………………。」
「あなたを守るためにお姉様は……。
 あなたのために、ローランお姉様は……!」

「………………………………馬鹿な女だ。」

「……今……なんて……!?」
「情に振り回され、生きる道を見失った。馬鹿な女だと言ったんだ。」
「あなた……あなたって人は……!!」
「どいつもこいつも……愚かなことだ。」

「うわぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

「殺す……殺してやる!! よくも、よくもお姉様に向かって!!」

「あなたを愛していたんです!!
 あなたのためにお姉様は! お姉様はっっ!!
 うわぁああああああああん! あああああ…………!」

「…………愚かなやつだ……。どいつもこいつも……。」

足元に涙がこぼれ落ちる

「どいつもこいつも………………。
 私の歩みを……重くする。」


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