書評:北畠顕家

 この本

に関しては、ちょっと残念な感じがしましたね。顕家に関しての事実情報をまとめた本ってあまり見かけないから、貴重なだけに。資料の典拠などについて、展開されている内容自体は参考になりましたが、

足利尊氏をアンチとして扱ってる

部分は正直、資料として余計だなと。

 資料として見たい場合、私はこうした当人の価値観によっての色がついていることって好まないんですよ。それに引きずられて、自分が判断したいのに引っ張られるから。その点は、事実に基づく判断や行動を推測する範囲にとどめてもらえると、むしろ著者さんの”親切”に感謝したい気持ちがわく。この辺も、事実提供に関わる内容を書くときに気を付けないといけない、と私自身も気を引き締めたいです。

 さて、顕家に関しての内容自体はかなりこれによって参考になったところが多いです。例えば

① 北畠家の家系

② 下向した奥州を把握できたわけ

③ 太平記にも出てくる霊山とは?

と言った部分。この辺りは太平記などでキーワードとして出てくるので、事実はどうだったんだろう?と知りたかったんです。

 ①の家系については家系図で大抵大筋は分かるんですが、今回の中で分家や奥州の系図についてがむしろ掲載されていて参考になりました。伊勢の方は戦国時代に織田信長によって北畠具教が殺された関係で、大抵こちらの系図って見かけますからね。

 従って伊勢は知っていましたが、奥州の方はおぼろげながらくらいの記憶しかなかった。改めて奥州の家系・血筋を再認識させてくれましたね。この辺り、すごく助かった。

 TVドラマや南朝ひいき前提の描写はかなり割り引いて考えないとな、と思っているため資料の裏付けのある内容をまとめてある点が何よりありがたい。そこが重要でしたので、そこに絞って読みさえすれば、有益な図書になるでしょうね。

 ②に関しては、ちょっとだけ意外な感じがしました。というのも、

実務担当に元鎌倉幕府の人間を起用

していたりするから。この辺りは太平記などで書かれているような

何でもかんでも貴族至上主義

という訳でもないんだなとある意味、納得。

 ③については霊山について寺だったっけ?位しか覚えてなかったので、具体的にどういう場所で、どういう扱いだったのか?などを交えてあった。イメージしやすくなったので、コレも助かりました。

 以上のような点が、この書籍の利点かなと。間に尊氏嫌いな分がすっと入って来るのがちょっとなー、と困りますがコレがなかったらもう少し資料に対する信用の気持ちが変わったでしょうね。もったいないな。

 

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