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紅ほっぺの苺タルト事件

静岡県民は地震に人一倍敏感だと思う。
僕はいま都内で暮らしているが地震があれば実家の弟から「大丈夫ですか?」と連絡が来る。なんとマメなことだろう。
最近は地震が多い。そのたびに連絡をくれるのだからありがたいことだ。

そんな実家にゴールデンウィーク帰っていた。
実家の匂いや風の抜け方、雑多に置かれた調味料。
どれも僕を感傷に浸らせる
あぁノスタルジー・・・よし、ぐるっと一周してみるか。

僕の実家はそれなりに大きい。敷地には家が三軒あり、主に母屋で生活をしている。
部屋と部屋は引き戸や襖で仕切られていて、廊下というものが少ない。例えばダイニングキッチンから寝室に行くには僕と弟の部屋を通ることになる。
大まかな見取り図がこれだ。

部屋の見取り図

子供の頃はよくかくれんぼをして遊んでいた。
もちろん大人がかくれんぼするには狭すぎるので今はできないが、、、

どの部屋も昔のままで変わっていなかったが、思い出と重ねて見た兄弟の部屋だけは、その頃とはまるで違う姿になっていた。
敷布団がベッドになっていたし、弟の趣味だろうか漫画や高そうなカメラ、テーブルゲームなどたくさんだ。物はたくさんあったがベッドを含めて南側に置かれていて、通行の邪魔にはなっていない。

ふぅむ。不自由なく暮らしているようで何より。
すこしえらぶって評価した。

ベッドのそばには、去年あたりに僕がプレゼントした防災バッグが置いてあった。
さすがの几帳面さと防災意識だ。しっかりしている。

弟は仕事で4月下旬から数ヶ月間シンガポールに出張だ。帰ってきたら褒めてやろう。
そう思っていた。

ふぅむ。これはどういうことだろう。枕元に大きなジグソーパズルの額縁が3点あった。

すこし抵抗があったが、台を用意してよく見てみることにした。案の定、埃が溜まっていた。マスクをとってこよう。

白いマスクをして鑑識気分になったところで額縁を観察する。
かなり細かいジグソーパズルだ。間近で見ると大きさも実感する。一番小さい額縁でも28~30インチはありそうだ。
額縁のフレームは木材か?表面材はプラスチックでできている。

留め具はあったが固定はされていない。長押の上に立て掛けてある。
正直かなり不安定そうだ。大きな揺れが来れば直ぐに崩れてしまうだろう。

人の身は心配するくせに我が身はどうでもいいのか? いやそうではない、もしそうなら防災グッズを枕元にわざわざ置かない。
弟にはある程度の防災意識はあるのだ。

なぜだ。なぜ弟は枕元に3点もの額縁を置いたのか。そうしなければいけない理由があったのか?

ふぅむ。これは些かよろしくないな。
まったくよろしくないよ。我が弟よ!
「お前もしかしてまだ自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね」と首をかしげながら、お説教しようとしたが彼は遠い地にいる。
落ち着け、自分。こういうときは素数数えて落ち着くと良いらしい。ひいふうみー

落ち着いた。意識を拡散させる。
考え込みすぎるのはよくない。物事は薄く広く関係している。
それらをつなげて答えを出すには、意識を拡散させ現実を俯瞰して見なければいけない。

情報整理は重要だ。

  • 弟は防災意識がそれなりにある

  • 弟はいまシンガポールにいる

  • 兄弟の部屋はキッチンと寝室の通り道でもある。

  • 部屋は物が多いが整理されていて、移動の邪魔にはならない。

  • 大きなジグゾーパズル。落ちてきたら危ない。

  • 額縁には留め具あるが固定されていない。

額縁を通路側に置きたくなかった。
地震発生の際にジグソーパズル自体が散乱するのはさほど問題ではない。

問題は額縁だ。
プラスチックと木材で出来てる額縁は大きくて、床にあったらそれなりに邪魔になる。落ちてきた拍子に壊れ散乱した場合は避難の邪魔になるだろう。

むしろ普段は枕元に置いていないのかもしれない。弟は数ヶ月シンガポールにいる。その間はだれもベッドを使わない。「寝ている間に額縁が頭部を直撃する」なんてことはありえない話なのだ。

実家に帰ったことを弟に連絡するついでに額縁のことも聞いてみた。

「あーたしかに危ないね。そんなこと考えたこともなかった」
僕の推理は気まぐれに敗北した。

引っかかるところはいくつかあった。
まず飾る必要がない。危ないのなら帰ってくるまでベッドの下にでも置いておけば良い。

決定的なのは額縁の埃だ。もし推理どおり一時的に動かしたのならそれはいつだろうか?弟が日本を発ったのは4月下旬だ。つまりその辺りだろう。ゴールデンウィークまでに埃が溜まるとは考えづらい。

やはり僕は爪が甘い。いい線いってたと思うけどなぁ。考えすぎてお腹が減ってきた。

そうだ。近くのケーキ屋さんに甘くて美味しい紅ほっぺのイチゴタルトがある。今日はイチゴタルトのやけ食いだ。

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