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【自家製サッカー概論】20 リターンパスの妙

 ここのところパスの話をしてきたが、パスの面白み・醍醐味は、このリターンパスに詰め込まれていると思う。
 
 リターンパスで最初に驚いたのが、C大阪でコンビを組んでいた香川真司選手と乾貴士選手のリターンパスの応酬だった。
 
 二人はリターンパスを繰り返し、京都の守備選手を翻弄した。
 翻弄したどころか、観戦していたこちらまで、目が追い付けない瞬間もあった。これには本当に驚いた。
 「これは面白いな」、思わず口に出たほどだった。
 
 この時の京都の指揮官は加藤久監督で、ゾーンディフェンスでブロックを作り守備を固めていた。
 香川選手・乾選手のコンビはそのブロックの隙間に入り、パス交換を繰り返し、京都の中盤、守備を翻弄した。
 
 ボランチが香川選手のマークに付く、香川選手が乾選手にボールを渡すと、京都の選手はそちらに注意が向く、すると乾選手が香川選手へ。
 「あっ」とする京都の選手。その間にスペースに入る乾選手。そこに香川選手はボールを送る。
 
 二人が動きながらリターンパスを繰り返す。
 まさに「リアル翼くん・岬くん」で、そこにマルチネス選手が加わると守備陣は二人を捕まえることが出来ず翻弄されていた。
 
 試合後に加藤監督を囲んだら、「サイドバックが中に絞りスペースを消し、攻撃ではサイドに広がる様にすれば対応できたはずだ」と試合展開の意図を明かしてくれた。つまりは中央に守る人数を増やそうとしたのである。
 だが、実際の試合に入ると、京都は香川選手・乾選手による再三再四のリターンパスに翻弄された形になった。
 
 これを目撃し、「リターンパスって面白いなぁ」と注目する様になった。
 
 G大阪時代の遠藤保仁選手もリターンパスの名人だった。
 アタッカー陣にボールを付ける。それが戻ってくると「前に向けるから」ともう一度リターンする。
 メッセージのあるリターンパスは選手同士が会話しているみたいで脱帽した覚えがある。
 
 昔、どんなタイミングだったか覚えていないが、大黒将志選手が練習中にディフェンス陣に「パス回してたらFWも取りに来なくなるから」とアドバイスしていた。
 
 大黒選手は分かっていたのだ。
 パスを回し続けると相手はボール奪取に前に出なくなる。それがリターンパスだと余計にFWは「振り回されている」と感じて足が止まるのである。
 
 リターンパスの妙は、相手の首を大きく振らせることにあると思う。
 パスが出されて、守備者はボールを追う。これがサイドチェンジなら守備者の首は、サイドに向かうボールに合わせて動き、体の向きも変わる。その流れはスムーズだ。
 
 だがリターンパスは、ボールの方へ顔が向くと、相手はボールを弾き、また同じ所へ戻すので、首を元に戻さなくてはならなくなる。
 振った首に合わせて体を動かそうとしてもボールが戻されるから、首の動きと体の動きが一体化しないのである。
 これは守備者にとって負担になると思う。
 
 他にもリターンパスの利点はある。受ける側がマークに付かれていてもボールを出せる。受け側はリターンすれば良いだけである。
 守備陣がゲームを組み立てる時によく見るリターンパスである。
 
 この状況、「ボールを前には運べない」が、ボールは動かし続けることができる。
 一人の選手がボールを持ち続けるよりも、リターンパスでボールを動かし続けている方が攻撃の糸口を見つけやすいだろう。
 これもリターンパスのメリットである。
 
 個人同士のスキルを駆使したリターンパスから、最終ラインの堅実な組み立てで駆使するものまで、リターンパスの応用は広いと思う。
 
 もっとリターンパスは深堀りしてもいいテクニックだと思うがいかがだろうか。
 
 もう一つだけ。リターンパスを狙われて奪われるシーンは実にみっともないシーンでもあるので、そこは用心が必要である……。

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