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お坊さんユーチューバーの歩み 開始~半年

YouTubeをはじめて半年が経ちました。

令和元年(2019)大晦日に初登校し、今、令和二年(2020)7月になりました。

なんとチャンネル登録者3000人突破!!

ここでは、この半年でYouTubeのなかで学んだこと、工夫したこと、苦労したことをご紹介します。

これからYouTubeをはじめたい人、YouTubeってそもそもどうなっているの?という人には参考になるかと思います。

そして、なによりお坊さんYouTube業界が盛り上がればいいなという想いで記録を残しておきたいと思います。

少し長くなるので、興味のあるところをお読みください(^^)/



お坊さんとして何ができるのか?


 私は今、僧侶と臨床心理士、公認心理師として活動しております。「どうして僧侶が心理学を学んだのか?」とよく質問されますが、思い返せば大学選択のころにさかのぼります。
 私が高校生だったころ、お寺というと「葬式仏教」として批判される声が大きかったことを覚えています。今となっては、葬儀や法事という儀礼を続けていくことの意義が実感できるようになりましたが、当時は自分がこれから歩む僧侶という生き方を否定されているようで悔しく感じていました。
 そんななか、自分としてはもっと何かできることは無いだろうかということを考えた末に「心理学」を学んでみることにしました。
 仏教が苦しみの解決を目指すのであれば、悩みの解決を目指すカウンセリングとは相性がいいのではないかという発想でした。
 実際に学ぶ中では、そう簡単に共通点を表現することができないことも分かりましたが、体験の深め方、発想の仕方には似ているところも多く、仏教を現代の人に分かりやすく伝えるためには心理学が役立つように思っております。

目の前の一人のために


臨床心理士の活動を通して様々な気づきを得られました。活動の場としては、精神科病院や学校、企業などでカウンセリングを行いました。
 振り返って、自分にとって一番の気づきを得られたと思うのが、目の前の一人と向き合う時間をとことん深めていくことでした。
 目の前の一人の気持ちを楽にしたり、安心感を伝えるには、どんな言葉が必要なのか必死に考えていました。言葉以外のしぐさや視線、声のトーンも影響します。その瞬間の微妙な間が、共感的な雰囲気になるかどうかを左右します。
 私はご法話のご縁をいただいたときには、いつもカウンセリングのときのスタンスと同じように言葉を使うことを意識しています。
 目の前の一人に伝えることがこんなにも難しいという経験ができたことから、お聴聞しておられる方に届く法話をするのがいかに困難なことであるかを意識できるようになりました。

お坊さんがYouTube?


 「YouTubeで法話とはもってのほか」と思われる方もいらっしゃるでしょうか。
 YouTubeは2005年からはじまり、おもしろい動画やゲーム実況など、子ども向けで楽しむためのプラットフォームとして広まってきました。
 昨年、2019年からは徐々に教育系YouTubeというジャンルがはじまり、きちんとした学習を発信するという動画も増え始めました。
 今やYouTubeの視聴者の年齢層は幅広くなり、テレビを見る人よりもYouTubeを見る人の方が多いという状況になってきました。
 前述の「目の前の一人」と矛盾するように思われるかもしれませんが、次の時代、人に「届く」法話をするためにはYouTubeという選択が必要だという考えに至りました。
 ここではYouTubeをする理由や方法を紹介し、これからYouTubeをはじめたいという僧侶の方に少しだけ参考にしていただけるような文章を書いてみました。

YouTubeをはじめた理由


 ご門徒の家にお参りして、「次の法座にはお寺にお参りください」というのはどこのご家庭でもお声がけするようにしていました。
 ここで帰ってくる言葉としては、「忙しくてお参りできない」「私にはまだ早い」が多かったかなと思います。そのなかで、いつもお参りしてくださっていた方の中には「私も年をとってお寺に行ったり、長時間座っているのがつらい。迷惑をかけてはいけないからお参りしにくい」という声もありました。
 それまで熱心にお聴聞されていた方が、高齢になり病気になったときに、お聴聞できなくなるというのはとても寂しいことです。
 本来であれば、自分が苦しみを抱えるようになった時にこそ、お聴聞を届けたいところです。
 自分なりに問題意識を感じる中で、ふと「YouTubeがあるじゃないか」ということに気が付きました。
 YouTubeは今でこそ「若い人が中心」なプラットフォームですが、これから数年で5Gといって通信速度が劇的に進歩するのですべての年齢層で動画が視聴され、スマホだけでなく、自宅のテレビからもYouTubeを視聴するのが当たり前の世の中になることが予想されます。
 また、もしYouTubeがどこでも見られるようになるとすれば、病気になった方は病院で、高齢になった方も高齢者施設で、それまでと同じようにお聴聞ができるようになります。
 これに気づいてからは「お坊さんこそYouTubeをするべきだ」という想いになり、YouTubeの始め方を調べるようになりました。

YouTubeのリスク


 一方で、調べる中ではYouTubeのリスクがあることもよく分かりました。
 ご法話はその場にお集りの方の表情を見ながら、話す内容で合ったりニュアンスを調整するところもあるかと思います。それがYouTubeだと事前に撮影したものをそのまま出すことしかできません。誤解を招いたり、誰かを傷つけてしまうかもしれません。
 さらには場合によっては、インターネットの世界には「炎上」というリスクがあります。間違えたことや問題発言が想像以上の批判を浴びるということがあります。ニュースなどでも炎上についての報道はご覧になったことがあるでしょう。
 またどうしても気になるのが、「僧侶の方々にどのように思われるだろうか」ということも心配になります。仏教についても法話についても「自分がきちんと理解し表現できているのか」ということは常に不安がよぎるテーマで、どこまでいっても自信をもって発信するということは難しいように思いました。
それでも始めてみよう
 こうしたリスクを考えたときに、どの視点も「自分を守るため」であることに気づきました。
 喜んでくださる方がおられそうなのに自分が傷つくかもしれないと発信を止めてしまってはいけないような気がしてきました。

最初の準備


 令和元年の大晦日をリリースの目標に定めて準備期間は約2カ月ありました。その間に必要な機材と、動画の試作品の作成、チャンネルの方向性の模索をしていました。
 自分が持っていたのは小さなカメラとスマホ、パソコンくらいで、YouTubeのことも動画編集のことも何も知識はありませんでした。
 「YouTubeの始め方」と検索するとたくさんの人が動画を作っておられて、必要な情報はスムーズに得ることができました。
 最初に手に入れたのは照明と三脚、マイク、動画編集ソフト(フィモーラ9)でした。
 続くかどうか分からないので、高額な機材には手を出さずに必要最小限のもので始めることを意識しました。
 いろいろ試しましたが、今となっては「最初はスマホが一番」だということが分かりました。撮影も編集もスマホ1つあれば必要最小限のことはすべてできるのでまずはここから始めてみるのがいいのではないかと思います。

最初の撮影


 最初の壁は「カメラの前の恥ずかしさ」です。
 本堂で一人でカメラの前で話すというのは全然いつもと違います。「最近、少しご法話にも慣れてきたかな?」とか思っていた自分が恥ずかしくなるくらい、噛むし言い間違えるし本当に嫌になる時間でした。
 しかもそのダメダメな自分の姿を編集のなかで繰り返し見ないといけません。一つの言い間違えをカットしてつなげるというのは単純作業ではありますが、微調整が必要になるので同じところを何度か聞きなおさなければなりません。
 テロップを少し入れたり、効果音を入れたり、テレビでは当たり前に見ていたようなことがいかに大変なことかというのがよく分かりました。

最初の公開


 私は試作品として10本程度撮り、その中の5本くらいを初日に公開することにしました。
 YouTubeには「チャンネル登録」というシステムがあり、登録したチャンネルは優先的にその人の画面に掲載されるようになります。トップ画面に自動的に動画が掲載されなければ、毎回、検索しないと動画にたどり着くことができません。
 たくさんの人に継続的にご覧いただきたいと思うと「チャンネル登録」をしてもらうことが重要になります。
 そして、「チャンネル登録」をしたくなるには、「他にも見たい動画がある」と思ってもらう必要があります。
 もしチャンネルの中に動画が1本しかなかったら、それを見て終わってしまうのでなかなか登録してもらえません。「まだ見たい」となっていただくためには、「まだ見ていない動画」があることが決め手になります。
 そこで、最初の公開に合わせて、複数の動画を公開する準備をしました。
 また、最初のインパクトを出したかったので、「大晦日」の発進と、「スペシャルゲスト」の依頼、最後の決め手で「プレスリリース」を行いました。
 除夜の鐘もあり仏教の雰囲気がある「大晦日」を初日だということを事前に予告しておきました。本当なら動画はもっと早くに完成しているので配信することは可能ですが、あえて開始を先延ばしすることで、YouTubeの研究をしたり動画の修正をする時間を長めに取りました。
 YouTubeの視聴は対面での法話とは、異なる点が多くあるので、飽きられない構成や動画の編集の技術など、考えるべきポイントがたくさんあります。
 完成後にもう一度振り返ることで、最初に気づかなかったようなことを発見することができます。
 また、「スペシャルゲスト」として富士通株式会社シニアエバンジェリスト松本国一さんと一緒に働き方改革×仏教というテーマで動画を作りました。
 YouTubeでは「今まで仏教に興味が無かった」人たちにも届くということを目標にしていたので、他の分野の方、しかも広く関心の高いテーマでの動画を作ることで、仏教以外にも興味がある人がご覧いただける可能性がでてきます。
 そして、これらの一連の流れを、地元の新聞に「プレスリリース」を行いました。プレスリリースというほど本格的なものではなく、地元の記者の方に少しメールと電話をしたという程度です。
 「お坊さんユーチューバー」「大晦日」「スペシャルゲスト」といわゆるネタになりそうなことを重ねることで取材をしていただける可能性がでてきます。
 今回、コロナウィルスによる緊急事態宣言のなか、たくさんのお坊さんユーチューバーがデビューされました。困難な状況に僧侶が立ち向かう姿としてメディアに取り上げられた事例はかなりの数だったようです。
 これからYouTubeを検討されている方もせっかくなら始めるタイミングや効果的に広められるような戦略を検討してみてください。


 
動画の内容


 動画の内容は常に迷いながら進めてきました。ご法話をそのままがいいのか、どのくらいかみ砕くのか、テーマをどうするのか、今でも模索中です。
 「内容をどうするか?」を考え始めると、そもそも「だれが見るのか?」、もっと言うと「誰に見てもらいたいのか?」を決めていかねばなりません。
 これまでもお聴聞を重ねてこられたご門徒に届けたい場合は、今まで通りのご法話が喜ばれるでしょうし、あまりに基本的なものは求められていないと思います。
 逆にはじめてYouTubeでご法話に触れる方にとっては逆のニーズになってしまいます。
 これはYouTubeをはじめるときに、発信する側がはっきりと決めておくことが大切だと思っています。
 自分がYouTubeを見るとすれば、自分の見たい動画がまとまっているところを探します。そのなかに見たい動画とそうでないものが混ざっていると、見たくないものに出会ったときに視聴のモチベーションが下がってしまいます。
 私の場合は「今までお聴聞したことがない人」をイメージして動画を作っています。なるべく仏教用語を使わず、なるべく短い動画で気軽に見やすいものを作ることを目指しています。

YouTubeの反響


 反響は思ったよりも大きかったです。
お参りをすれば「YouTube見たよ」と声をかけてくださる方はたくさんいらっしゃいます。
 普段はお寺にお参りされない方もYouTubeであれば気軽に少し見てくださるようです。またスマホをお持ちでない高齢の方もお孫さんと一緒に検索してくださる方もおられました。
 「YouTubeって何?」という方であっても身近な存在が画面に出ているということを面白がっていただいているようです。
 またYouTubeにはコメントの機能があり、どこのだれかは分からないものの、動画の感想や質問をいただくことがあります。率直な厳しいコメントもありますが、純粋に応援してくださる方もおられて力づけられます。

YouTubeの収益性


 「YouTubeは楽して儲かる」というイメージをお持ちの方もいらっしゃいますが、実はYouTubeで収益を上げるのは現実的にはほぼ不可能です。
 YouTubeで生計をたてられるのは上位3%程度らしく、確率的には野球をしている人のなかで野球選手になるくらいの狭き門だそうです。
 さらに最初の1円をいただくまでのハードルも険しいものです。YouTubeはテレビCMのように広告で利益を出しているのですが、最初の広告を出せるまでの審査基準がチャンネル登録1000人と年間の視聴時間が4000時間を超えなければいけません。
 「仏教の話が聞きたい」という人を1000人集めると想像していただければいかに難しいことかお分かりいただけるのではないでしょうか。
 広告は1回再生されると0.1~0.5円程度となります。つまり、1000回再生だと100円、1万回再生されても1000円ということになります。YouTubeで生計を立てておられる方々は、100万回再生級の動画を連日制作できる人たちであり、「仏教」というテーマでは100万回の再生はよほどのヒット動画を作らない限りは不可能に近いものがあります。
 1本の動画を作るために膨大な時間と労力がかかるので、お金のためという目的ではYouTubeを続けるのは難しいかと思います。

今後の時代を見据えて


 それではなぜこんなにも苦しいYouTubeをはじめたのかと思われるかもしれません。
 「お寺にお参りしにくい方にも届くように」という目的が今は1番ですが、今後の時代の変化を見据えて準備をしておこうという気持ちの方が大きくあります。
 みなさんは外食をするときレストランをどのように選ぶでしょうか。おそらくスマホで検索し、口コミサイトやSNSで評判が良く、素敵な写真があるところを確認して予約をするのではないでしょうか。
 今後、インターネット技術はますます進歩し、私たちが情報に触れ、行動を起こす流れに変化が起きるのはほぼ間違いないでしょう。
 お寺参りにもおそらく同様の変化が起こるでしょう。お参りする前に、お寺のHPを確認し、その日のご法話をする僧侶をYouTubeで見てからお参りするかどうかを考えるようになるかもしれません。
 「YouTubeで法話をするとお寺のお参りが減る」というお考えもあるようですが、これは時代の流れを考慮すると逆の発想になろうかと思います。
 YouTubeで法話の良さを発信すると「実際にお寺に行ってみたい」という人が増えるはずです。現代人の行動心理としては「失敗したくない」という考えが大きくあります。
 レストランの評判を事前にチェックして来店するように、「お寺はこういう雰囲気なんだ」ということを分かってもらえれば、「実はお寺にお参りしたかった」という人が意外とたくさんいらっしゃるのではないかと思います。
 そして、実際にお会いすることができれば、「目の前の一人」を大切にする対話ができ、お寺の雰囲気のなかでホッとした時間を過ごしていただけることでしょう。YouTubeは「お寺参りの入り口」として今後、ますます重要度が高まってくるだろうと予想しています。

コロナ禍での可能性


 コロナ禍での今、全国のお寺の法座は中止となり、再開のめども立たないまま時間が過ぎています。
 不安な時代だからこそ、今こそ仏教を届けたいタイミングです。コロナ禍において、たくさんの僧侶の方がYouTubeへの挑戦をはじめておられます。仲間がどんどん増えているようで、孤独な戦いをしていた私にとってとても心強く感じています。
 今回はテクニック的な内容をご紹介しましたが、これからは仏教とYouTube、その他の最先端技術とどう向き合っていくのか、より本質的な考察を深めていく必要があります。
 世界の歴史にとって、2020年が大きな節目の年になるのはもう間違いありません。社会の変動に対して、僧侶としてどう対応していくのか検討すべきタイミングです。私は各種SNSで発信活動もしております。ご意見やご感想などあれば直接コメントいただけると嬉しいです。ご一緒に前向きな変化を模索できれば幸いです。

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