見出し画像

化石の体温

ママの髪、とってもキレイなの。

ママの髪は海の青。パパとの新婚旅行で行った海をイメージしたんだって。日の光を浴びてキラキラ光るのいつも自慢してくる。ずるい。あたしはママより、もっとすごい設定にするんだ。

子どもは遺伝子上の自然な髪色しかダメなんて変だよね。

遺伝子、いま、関係あります?って感じ。

子どもはシゼンに育てるべき、だなんてバカみたい。作られたシゼンが自然なの?

でも、あたし、君の髪の色は好きだよ。けっこう明るい茶色だよね。フワフワしているし、やわらかくて、おいしそう。

ママの髪に触ってみたいか?

うーん、青い髪には触ってるけど…。結局あれデータだし。触ってるつもり。しかも波まで再現してるから、髪に触ってる感ないんだよね。

ホンモノのママ、知らないし。実物のママ、というか実物のニンゲンってどんな姿してるのかな。教科書とかは多分キレイめなの載っけてると思うんだよね。実物は溶液に浸かっているワケだし、ブヨブヨでハゲてんじゃない。ママ。

ホンモノのあたしたちはさ、外からの攻撃に弱くて、すぐ病気になって死ぬし、遺伝子に左右されちゃうし、大人たちは弱々なカラダを溶液につっこんでデータの世界に逃げちゃったってことじゃない?

大人たちは、あったかいとか、硬いとか、痛いとか、実感で知ってる。

あたしたちは、そういうのちゃんと分かるんだけど、なんか、一回、膜が貼ってあってソレを透かされてるみたいな感覚。マスク越しのキス、みたいな。

恐竜って実際の世界だと滅んでいて、化石しか見つかってないんだって。でも化石から生きてたころの恐竜の体温が調べたりが出来たらしいの。データの世界にいく前のハナシ。

体温はデータ上の話。ホンモノの恐竜にはさわれないし恐竜の体温は感じられない。あたしたちも、おんなじ。

あたしはさ、ホンモノの恐竜に触ることがしたいんだ。

ねぇ、いっしょに来てくれる?


そう言って笑うこの女は誰なんだ。

【続く】

つけヒゲに憧れているのでつけヒゲ資金に充てたいです。購入の暁には最高のつけヒゲ写真を撮る所存です。