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ミミズとダンゴムシ

そこは、マンションとマンションに挟まれた、トイレも水場も砂場もない小さな公園である。
雨が降ると、水捌けが悪く真ん中辺りは大きな水溜りになる。
小さな子供を持つお母さんは、その水溜りを嫌がって、雨上がりには遊ばせにこない。
小学生も水溜りがある時はサッカーもできないので来ない。
水場もトイレもないので、汚れても洗えない。
人が来ないので、草ボウボウである。
ただ、我が家からは近かったので、人気のないその公園は好都合だった。

何かの育児書で見たわけでもなく、意識高い系でもなく、乳幼児の頃のわが子を育てながら、生活に野生が足りないと感じていた。


私も都会生まれだが、草ボウボウの空き地や、少し足を伸ばせば川や海があった。
大した玩具やレジャーもなかったので、自然と触れ合うことが遊びであった。

週末は旦那に車で、広い公園や芝生広場などに連れて行ってもらい、裸足にして放牧とばかりに草っ原に放つ。ハイハイしている頃から転がしていた。

平日は、私一人なので近所で少しでも自然のある所をサーキットした。近所の川沿いの桜並木や、花壇のある所、神社、それからその公園へもよく行った。
彼女のお気に入りは、みんなが避けるその大きな水溜りである。
靴を濡らすとなかなか乾かないで困るので、遊びたそうにしてたら靴を脱がせる。
小さな頃はそのまま抱いて連れて帰った。
帰ればお風呂に直行すればいい。


大人しく抱かれない時は、そのまま裸足で手を引いて連れて帰る。すれ違う人に何度丸い目で見られたことだろうか。


私自身、虫にキャアキャア言わないタイプである。バッタやセミぐらいなら手で捕まえて、子供に見せたり触らせたりしていた。


幼稚園の頃には、野生の少女の出来上がりである。
一人息子のママさん達に、男の子なんだからもう少し野性的に育てたかったのに、どろんこ遊びも動物も虫も苦手なの、ムスメちゃんが羨ましいわぁ、などと、これはお褒めととっていいのかどうかとお話し伺っているその横で、そこら辺で見つけたミミズを、みょーんと伸ばして遊んでいるような子である。

それはさておき、その公園は、普段カチカチの地面なのだが、水溜りができるとミミズが溺れて這い出てくるのだ。


グリーンカーテンに、毎年ゴーヤなどを植えるのだが、同じ土を繰り返し使っていると、生育が悪くなる。
かと言って土を入れ替えるにしても、都会のど真ん中で、ゴミとして出す以外に処分の方法がない。
そんなこんなで、プランターに入ったまま放置したカチカチの土をどうしたものかと思案していた。


あっそうだ、ミミズに手伝ってもらおう。
ミミズなら、あの公園にいるじゃないか。


それからその公園に怪しいおばさんが出没することとなる。


雨上がりで、人がいない時を見計らって、時にはカモフラージュの為、ムスメちゃんにその辺で遊んでもらいながら、小さなバケツにセッセと溺れてたミミズを救出する。

旦那さんは釣り人である。
主にバスフィッシングなのだが、ムスメが小学生になると、程良く安全に活動できる野池に時折連れて行くようになった。
ルアーやフライはまだ扱えないので、エサ釣りである。

そのエサである、準備していたにもかかわらず使わずじまいになったシマミミズを、
これ、いる?
と多分冗談か何かのつもりで聞かれ、即答で
いる!!!
と貰い受けたところから、一気にミミズとの付き合いが進んだ。


こうして2DK賃貸マンションの広くはないベランダで、なんちゃってミミズコンポストが出来ていったのである。


狭いので、スチールの棚を作ってプランターマンションにし、夏は日除と暑さ対策に苦慮し、冬はスチロールシートで囲って越冬させる。


エサを食べやすくするために、お手伝い隊として、ダンゴムシを投入した。
このダンゴムシがまた、かわいいのだ。


エサをやったり、環境を整えたり、時に用事がなくても、夜懐中電灯を片手にじっとダンゴムシやミミズを見つめ、土をいじる。


なんと安らぐひと時なのだろう


旦那は最初から、なんだかバカにしたように遠巻きにしていた。

けれども、ミミズとダンゴムシにかまけてるお陰で、旦那とムスメにガミガミ言う時間は確実に減ったのである。


ある年、条件が良かったのか、ダンゴムシが爆発的に増えてしまったことがあった。
プランターから出て、隣家のベランダへ侵入しては困るのである。


申し訳ないと思いつつ、元いた場所に捨てダンゴムシをしに行った。

ダンゴムシを入れたバケツを持って、夜遅い時間に公園に向かっていたら、バッタリと旦那に会った。
挙動不審な私を見て不機嫌そうに、なにしてるん?とバケツを覗く。
と、ダンゴムシを見て急にニヤつく。
表情のあまりの変化に、返ってこちらが驚いてしまった。
なにがそんなにうれしいん?と聞くと
自分でも咄嗟に分からなかったのだろう。
しばらく呆然と考えて、
いやぁ、ダンゴムシがワサワサしとるなぁと思ってさ、、、

これがダンゴムシの癒しパワーなのである。


前述の公園は改良工事が行われて、水溜りも草ボウボウもなくなってしまい、毎日子供が遊ぶ公園になった。それはそれでいいことなのだと思う。


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