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ウーマン・スナイパー《一章》(2)

ウーマン・スナイパー 《一章》(1) [期間限定 1/30 本文無料]|竹田克也(やきとり王子)/katsuya Takeda

 夕方に仕事を終えた一旦家に帰るとすぐに来ていた服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びました。はじめてスイさんと二人で向き合うというのに仕事の穢れを持っていけません。着替えを済まして一本タバコに火をつけたところでしばらく使っていなかったカメラが視界に入りました。もしかしたら今日はスイさんを撮れるかもしれない。あれだけ写真を嫌がっているスイさんだけど、今日はいけるかもしれない。何故かそう思いました。灰皿のレストにタバコを置いて、その一眼レフのデジタルカメラを手に取りました。ホコリは被っていませんでしたが、これまで放っておいた罪滅ぼしに布で拭いてあげました。


 午後七時五〇分。

 スイさんが指定したお店の前にあたしが先に到着しました。夜の駅前広場は静かです。この街の夜は昔から静かなのでコロナとは関係ないと思います。多分。

 うちのお店が見えます。今は遅番の広崎さんが片づけ作業をしています。あたしは目を合わせないように気を付けました。他意はありません。まばらでも駅前なので電車が到着すると駅から多くの人が出てきました。それも知らない人ばかり。最近はマスクをみんなしているので知っている人がいてもわからない。それにしても通る人すべてがマスクをしているのは不思議な感じです。マスクは下着だと思っています。あたしは知っていたのですが人間の口元は性器と同様に卑猥なものなのです。その事に世の中が気づいてしまった。フロイトは口唇期という概念を提示しています。生まれて初めての快楽は母親の乳首をくわえる唇にあるというものです。快楽の根源が口にあるということ。飛沫を飛ばすのも受け取るのも口。コロナはそんな口の無防備なエロスを白日のものにしてしまいました。みんな、口にもパンツを履かそう。予防のために何もかも閉じよう。それは無駄口は叩くなということなのかな。

 あたしは要するに口元フェチなのです。特にタバコをくわえる口元を見るのがとても好きです。それは男でも女でも。

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