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Googleの独占禁止法違反訴訟の訴状を読む【広告編】 2

前回に続き、訴訟を読み進める。

II. 当事者
III. 司法権
IV. 訴訟原因発生地

については、翻訳を省略し、

V. 産業の背景

から翻訳を掲載する。

V. 産業の背景

27. インターネットは、人々がコンテンツを消費する方法に革命を起こし、それと共に企業が消費者に到達する為に購入する事ができる広告の種類にも革命を起こした。
「ディスプレイ」広告と呼ばれるオンライン画像ベースの広告、オーディオ広告、およびオンラインの世界の動画広告は、主に伝統的な印刷、ラジオ、テレビの同等なものとして取って代わった。
また、インターネットは、検索エンジン上のターゲットを絞ったテキストベースの広告、ソーシャルメディア上で共有可能な広告、携帯電話のアプリケーション内の特殊な広告など、完全に新しい広告フォーマットの先駆けとなった。
28. オンラインパブリッシャーと広告主にとって、異なるオンライン広告フォーマットは相互交換できるものではない。
Webサイトやモバイルアプリケーションを運営するオンラインメディア企業(「オンラインパブリッシャー」)は、販売できる広告フォーマットの種類に必然的に制限がある。
ニュースサイトは、例えば、一般的にそのニュース記事と一緒にディスプレイ広告を販売する事ができるが、一般的に同じコンテンツを収益化する為に検索やオーディオ広告を販売する事はできない。
同時に、取引の反対側にいる広告主は、彼らの異なる目標を達成する為に、1つのフォーマットまたは別のものを購入する。
例えば、広告主は、ブランドの認知度を高める為にはディスプレイ広告を購入するのに対し、積極的に購入する為に探している消費者に到達する為には検索広告を購入する。
29. 新しい広告フォーマットを導入するだけでなく、インターネットは、オンラインパブリッシャーが彼らの広告在庫を販売する方法を変えた。
オンラインパブリッシャーは、広告市場を介して直接または間接的に広告主に自社の在庫を販売している。
「直接」販売方式はパブリッシャーが広告主に直接販売したキャンペーンを指し、パブリッシャーの社内の営業担当者が販売したものや、パブリッシャーのプライベートオークションを介して販売されたものを含む。
例えば、オンラインパブリッシャーであるUSA Todayは、広告主としてディズニーと直接交渉して、ディズニーの広告をUSA Todayのホームページの上部に表示させる事ができる。
30. また、パブリッシャーは広告在庫を間接的に広告主に販売する為に専門の流通チャネルを利用している。
大規模なパブリッシャーは、通常、かなりの量の在庫を直接販売し、その後、余剰在庫を間接的に販売する。パブリッシャーのWebサイトを訪問するユーザの数に依存する為、パブリッシャーは広告主に直接販売できる広告スペースの数を常に予測する事はできない。
さらに、一部のパブリッシャーでは、在庫の全体を間接的に販売している。「間接」販売は、「アドエクスチェンジ」と呼ばれる集中型の電子取引所や、パブリッシャーと広告主の「ネットワーク」を介して行われる。
直接販売の代わりに、パブリッシャーは、アドエクスチェンジに彼らに代わってリアルタイムで自分の在庫を競売してもらい、見返りに広告収入の一部を維持する事ができる。
31. オンラインパブリッシャーがディスプレイ在庫を直接または間接的に販売するかどうかに関わらず、広告はリアルタイムで特定のユーザをターゲットにする事ができる。
ユーザがWebサイトやモバイルアプリを閲覧すると、広告主はそのユーザをターゲットにした広告(「インプレッション」)の為に個々のスペースを購入する。
Googleは「あなたの個人情報を誰にも売らない」と主張するのが好きだが、Googleが広告主に販売するオンライン広告のインプレッションは、個人情報に基づいて個々のユーザをターゲットにしている。
32. 最後に、パブリッシャーはリアルタイムで特定のユーザを広告のターゲットにできる為、オンラインパブリッシャーは、非常に変化に富んだ、または 「異種」の在庫を管理している。
3つのページと1ページあたり3つの異なる広告スロットを持つWebサイトは、販売するための9つのユニークな広告ユニットの合計を持っていると思うかもしれない。
しかし、オンライン広告は個々のユーザをターゲットにしている為、1,000,000人の読者を持つ同じサイトは、実際には販売するための9,000,000もの異なる広告ユニット(各ユニークな読者をターゲットにしたWebサイトのインプレッションのそれぞれ)を持っている。
したがって、オンラインパブリッシャーの在庫は、野球場の座席の在庫に似ている。
在庫の2つの部分は全く同じではなく、それぞれがその細目によって評価されている。
オンライン広告では、これは各広告を見ている各人の細目が含まれている。

A. オンラインディスプレイ広告市場

33. オンラインパブリッシャーや広告主は、ディスプレイ在庫を販売する為に、いくつかの異なる明確な製品に依存している。
これらの製品には、
(1) パブリッシャーの在庫管理システムであり、パブリッシャーがその在庫を販売するのを支援し、
(2) ディスプレイ広告の買い手と売り手をマッチングさせるマーケットプレイス(取引所とネットワーク、別途)および
(3) 広告主が取引所からディスプレイ在庫を購入する為に彼らの仲介者として使用しなければならない広告購入ツール
がある。
これらの製品は、米国では毎月数十億のディスプレイインプレッションの価格設定、清算、実行、決済に関連する複雑な作業を行っている。
Googleは、これらの明確な市場のそれぞれにおいて独占力を持っている。
金融市場が、1つの独占企業によって制御されている場合を想像してみて欲しい、ゴールドマン-サックスと言い、その会社は、その後、最大の金融取引所であるNYSEを所有しており、それはその後、自分自身を有利にする為に、その取引所で取引を行い、競争を排除し、毎日の取引の何十億もの独占税を請求する。
それが今日のオンラインディスプレイ広告の世界である。

1. パブリッシャーの在庫管理システム(アドサーバ)

34. CBS、タイム、ESPN、Weather.com、およびNPRなどの大規模なパブリッシャーは、彼らのオンラインディスプレイ在庫を全体的に管理する為に、広告サーバと呼ばれる洗練された在庫管理システムに依存している。
アドサーバは、パブリッシャーの異種広告在庫を追跡し、パブリッシャーの広告収入を最大化する事を目的に、パブリッシャーが直接または取引所を通じて間接的に在庫を販売するのを支援する。
パブリッシャーは通常、ディスプレイ在庫の全てを管理する為に単一の広告サーバを使用している。
パブリッシャーは在庫管理を効果的に最適化し、収益を最大化する能力を持っている。

図1オンラインパブリッシャーのWebサイト上のディスプレイ広告のスペース

図1 オンラインパブリッシャーのWebサイト上のディスプレイ広告のスペース

35. 広告サーバを使用する場合、オンラインパブリッシャーは必然的に在庫管理と収益最大化の為のいくつかの制御を放棄する。
パブリッシャーは、広告サーバが在庫を管理・販売する方法の一部を調整できるが、広告サーバの機能や制限により、最終的にはパブリッシャーのコントロールが制限される。
また、パブリッシャーは広告サーバの専門性を利用して、電子取引の複雑さを克服する。
広告サーバのアカウントアナリストは、収益を増やす為に広告サーバのパラメータを調整する方法をオンラインパブリッシャーに個別にアドバイスする。
簡単に言えば、広告サーバはパブリッシャーの利益を向上できる。

ここから、オンライン広告に関する3つの内部タスクに関する説明が記載される。訴状の中で説明されているので、非常に分かりやすく書かれており、オンライン広告の仕組みを理解するのに役立つ箇所である。

まず、どのようにユーザを識別し、個人情報を紐づけるかの説明である。

36. パブリッシャーのオンラインディスプレイ在庫を総合的に管理する為に、アドサーバは広告スペースの販売に関連した3つの重要な内部タスクを実行する。
まず、広告サーバは、パブリッシャーの在庫を管理し、収益を最大化する為に、パブリッシャーのウェブページを訪問したユーザを識別する。
ユーザがウェブページにアクセスすると、広告サーバは、パブリッシャーの許可を得て、パブリッシャーに代わって広告スペースの販売を行う。
パブリッシャーは、ユーザのウェブブラウザ(ChromeやSafariなど)やモバイルデバイス(AndroidやiOSなど)によって促進される識別技術によってユーザを識別する。
個々のユーザを追跡する為に、広告サーバは各ユーザに固有のユーザID(例えば、5g77yuu3bjNH)を割り当てる。
固有のユーザIDでユーザを本質的に「タグ付け」する事により、広告サーバは、パブリッシャー、取引所、および広告主が、パブリッシャーの広告スペースに関連付けられた各特定のユーザの身元および特性を知るのに役立つ。
例えば、広告主は、ユーザの仮名ID(例:5g77yuu3bjNH)とユーザのID(例:John Connor)を関連付ける事ができ、そのIDの「リンク」を使用してユーザに関する追加情報を調べる事ができる。
(例:John Connorはロサンゼルスに住んでいて、Harley- Davidsonのオートバイを運転していて、Oakleyのサングラスをかけている。)
これにより、広告主は、そのユーザをターゲットにした広告スペースが価値の高いものである事を知る事ができる。
また、ユーザIDは、ユーザの過飽和を避ける為に、特定の広告を表示する回数を制限する為にも使用され、いわゆる"頻度制限"と呼ばれている。
さらに、ユーザIDを使用する事で、パブリッシャーや広告主は、ユーザがその後の行動(広告のクリック、サービスへの登録、製品の購入など)を取ったかどうかを追跡する事ができる為、広告キャンペーンの効果評価が容易になる。この「帰属」は、ユーザが特定のアクションを起こした場合にのみ広告主に課金されるコンバージョン課金モデルなど、いくつかの広告キャンペーンの課金モデルにとって重要である。

次に、広告サーバがどのように広告スペースを販売するかの説明である。

37. 広告サーバが行う2番目の重要なタスクは、パブリッシャーが広告エクスチェンジなどの広告マーケットプレイスを通じて間接的に広告スペースを販売する方法の管理だ。
パブリッシャーの広告サーバはマーケットプレイスに接続して、ユーザがパブリッシャーのウェブページを読み込むと、パブリッシャーが自動的に複数の異なるマーケットプレイスに在庫をルーティングできるようにする。
ダラスモーニングニュースは現在、7つ以上の取引所にオンライン広告の在庫をルーティングしている。
パブリッシャーと取引所の間の仲介役として、広告サーバは、異なる取引所、さらにはネットワークが、パブリッシャーの在庫にアクセスして競争する事ができる方法を制御する。

1. ユーザがWebページに訪問
2. そのWebページの広告枠についてパブリッシャーが複数の市場で販売
3. 入札が行われて、最も高い価格で落札した広告主の広告がWebページに表示される
という仕組みは、高速なところだと100ミリ秒(0.1秒)以内で行われる。
この入札市場は、日本だと国内だけではない。海外にも市場のサーバがあるため、そちらにも在庫を流している場合には、当然ながら時間が余計に掛かるし、差し込まれる広告も、海外からデータが送られると、当然ながら更に遅延する。
広告が入っているWebページが遅延するのは、そういう通信上の遅延とそのためのJavaScriptのプログラムの実行時間が含まれているからである。

38. 広告サーバが行う3番目の重要なタスクは、パブリッシャーの直接販売チャネルと間接販売チャネルの間で在庫を正しくルーティングする事だ。
Google の内部文書によると、パブリッシャーの広告インプレッションのうち、ごく僅かなパーセンテージのパブリッシャーの広告のインプレッションだけが●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●だと考えられている。
実際、パブリッシャーは、一般的に、ほとんど全て収入となる●●パーセントを、インプレッションの内のごく小さなパーセントである●●パーセントから稼いでいる。
ESPNのようなパブリッシャーは、最も価値のある在庫をFanatics.comのような広告主に直接プレミアム価格で販売しているが、価値の高いユーザ(例えばお気に入りのスポーツチームの商品を購入する傾向のあるスポーツ狂)に直接販売をターゲットとしたインプレッションを割り当てるのに広告サーバに依存している。
広告サーバは、ESPNが広告主に直接販売しないインプレッションをエクスチェンジに転送する必要がある。

図1どうやって広告サーバは広告スペースを管理し流すか

図2 どうやって広告サーバは広告スペースを管理し流すか

39. 広告サーバは、パブリッシャーとパブリッシャーの間接的な販売チャネルの間に位置する為、広告サーバは、パブリッシャーのインプレッションをめぐって複数の方法で競合する複数のエクスチェンジ間の競争を妨害する可能性がある。
例えば、広告サーバは、パブリッシャーがインプレッションに関する完全な情報を取引所と共有する能力(例えば、各パブリッシャーのインプレッションに関連付けられたユーザID)を妨害する可能性がある。
また、広告サーバは、パブリッシャーがどの取引所でどの程度のパフォーマンスで在庫を捌いているかを知る事をブロックするかもしれない。
このような情報がない場合、パブリッシャーは、パフォーマンスの高い取引所には、より多くのビジネスを提供する事はできない。
透明性は、パブリッシャーにとってマーケットプレイス間の価値を最大化するものであり、究極には消費者のためにもなる。
40. 広告サーバが比較的複雑であるにもかかわらず、Googleがパブリッシャーの広告サーバ市場に参入する前は、広告サーバは「日用品」だった。
広告サーバは、インプレッションあたりのコストを低く請求するか、管理・配信される広告インプレッション数の合計に対して設定された月額利用料をパブリッシャーに請求していた。
しかし、Googleの参入は、この市場の構造を大きく変えてしまった。
41. Googleは、Google Ad Manager(GAM)と呼ばれる製品を通じて、ディスプレイ在庫用のパブリッシャー広告サーバ市場を完全にコントロールしている。
Googleはもともと2008年にDoubleClickからパブリッシャー広告サーバを買収した。
現在では、GAMが米国のこの製品市場の90%以上を支配している。
基本的に全ての大手Webサイト(例:USA Today、ESPN、CBS、Time、Walmart、Weather.com)がGAMを使用している。
その結果、GAMはパブリッシャーと取引所の間の仲介役として、取引所市場の競争を封じる力を持っている。

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