母の優しさと不安と・・・今の僕
「ゴホッ!ゴホッ!!ゴホッ!!!」
気がついた時にはどこか知らない家にいて、おばちゃん、と呼びそうなくらいの年齢の女性が僕の背中に手を入れて
「少し落ち着いたかな。このままゆっくりさせてあげてね。」
と母に伝えていた。
その家から自宅までどうやって帰ったかは覚えていない。
でも1つ覚えていることがあって、自宅のテーブルに座った僕は恐怖の中で目の前に置かれた温かな紅茶を見ていた。
これが5歳だった僕の紅茶のある風景。
大人になってからも疲れたり無理をすると喘息が出る。子どもの喘息は小児喘息という。吸入ステロイド薬を使うまで悪くはなかったけれど、苦しかったことは覚えている。
母はどこで知ったのだろう。紅茶に含まれるカフェインが喘息などの症状を緩和するらしい。
あの時、背中に手を入れてくれた女性は看護師で母の知人だと後で知った。
紅茶を飲むとそれまでの苦しさが嘘だったかのように、空気がスゥッと肺まで伝わっていくのが分かる。その感覚は大人になった今でも変わらない。
紅茶は、僕をあの頃の僕に引き戻してくれる。
僕も二児の父となった。
子ども達には喘息が遺伝しなかった。でも子どもが風邪を引いて咳をするたびに心に鋭い何かが刺さるような気持ちになる。
母もそうだったのだろうか。
僕が咳をするたびに、心を痛めていたのかもしれない。
でもたぶん、紅茶を飲んだ僕の落ち着いた顔を見て、母も落ち着いただろうことは今の僕だから分かる。
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