鹿島アントラーズの再開後に注目したい3つのポイント
いよいよ7月4日から明治安田生命J1リーグが再開される。試合開催には様々な制約があり、我々もリモートマッチや収容制限のある中での観戦となり、全てが元に戻ったという訳ではないが、また試合があるという日常になる喜び、を今は素直に噛みしめたい部分もある。
鹿島アントラーズにとってみれば、開幕戦で最下位からのスタートになってしまったまま中断してしまったため、結果的に100日以上も順位表の一番下に位置し続けてしまうという、あまり気持ちのよくない事態になってしまった。クラブが常々目標にしているタイトル獲得はもちろんのこと、新体制の下でまずは公式戦初得点、初勝利から得点、勝点を積み重ねていきたいところだ。
そこで、この中断明けからの試合、鹿島のどこに注目して試合を見ていけばいいのか、個人的に3つのポイントに絞って考えてみた。連戦続き、交代枠の増加、降格なしのレギュレーションと前提条件がそもそも変わっている中で、そこへの対応も試行錯誤していかなければならない部分もあるだろう。だが、今季一番のトピックスはザーゴ新監督を迎え、新たなチームスタイル作りに取り組んでいる、という点だろう。この新たなスタイルがどこまで浸透して、機能できるか。そこの出来に今季の成績は大きく左右されるはずだ。
なお、今季の鹿島がどういうスタイルを志向しているか、という点については以下に過去書いたものを載せておくので、こちらも参考にしていただければと思う。
ポイント1 相手陣地でプレーしろ!
今季の鹿島の目指すスタイルをもっとも簡潔に表すと、常に自分たちが主導権を握るということになる。
ここで押さえておきたいのは、主導権を握るということは自分たちの狙い通りに試合を進めるということであって、決してボールを握り続けることとイコールにはならないということだ。極端に言えば、相手がボールを持ち続けて自分たちのボール支配率が20%になろうとも、それが自分たちの思惑通りで勝つための最適な手段と考えるなら、それは主導権を握っていることになる。
では、主導権を握っているのかそうでないのかをどう見極めればいいのか。最も簡単な見極め方は、どれくらい相手陣地でプレー出来ているかという点である。
鹿島の今季のコンセプトはハイプレスとショートカウンターだ。なるべく高い位置でボールを奪って、相手の守備陣形が整ってしまう前にゴールに襲い掛かる。相手ゴールに近ければ近いほど、相手の守備が乱れていればいるほど、得点の可能性は高くなるという点で考えれば、理にかなった作戦だ。
このコンセプトを考えれば、相手陣内でプレーする時間の長さが重要だと言うことがお分かりいただけるのではないだろうか。なるべく相手ゴールに近い位置でボールを奪いたい、自分たちがボールを持ちたいのだから、そもそもボールが相手ゴールに近い位置になければ、このコンセプトは前提から覆されてしまうことになる。言い換えれば、たとえ守ることが出来ていても、ずっと鹿島の陣地でプレーし続けている状況は、鹿島にとって望ましくない展開ということになる。
ポイント2 ビルドアップは小休止であり下準備
相手陣地でプレーする時間が長ければ長いほど良い、ということは上述した通りだ。しかし、今季の鹿島は最終ラインから丁寧にパスを繋いで攻撃を組み立てる、ビルドアップを重視している場面も多い。相手陣地でプレーしたいのならさっさとボールを相手陣地に運んでしまえばいいのに、何故自陣でパスを丁寧に繋いでいるのか。矛盾のようなこの疑問の答えは、ビルドアップがハイプレス・ショートカウンターの準備になっているから、ということになる。
当たり前だが、ボールを奪うというプレーにはエネルギーが必要だ。ボールを持っている相手を追いかけなければならないし、相手もタダでボールを渡してくれる訳はないので、力ずくで奪わなければならない。そんなエネルギーのいる行為を90分間ずっとあのサッカーの広いピッチで行い続けるのは、どうしたって無理がある。この先の試合が高温多湿の夏場の連戦ということを考えれば尚更だ。交代枠の活用やメンバーの入れ替えでカバーするにしても、限界があるだろう。
その点、ボールを自分たちが持っている時は、ボールを奪う時よりエネルギーの消費量を抑えることが出来る。もちろん、ポジショニングの微調整などで動き続ける必要があるが、基本的により動くのはボールだ。ボールはいくら動かしても疲れることはない。つまり、ビルドアップが失点のリスクを減らしかつ効果的に試合の中で休むことの出来る手段となる訳である。
また、先程プレスとショートカウンターに向けた準備でもあると述べたが、これはパスを繋ぐことで、自分たちの陣形を整えながら相手の陣形を崩すことが出来るからだ。パスは自らの意思で出すものだから、当然それに合わせた周りの動きも自分たちで決めることが出来るし、相手は必然的にそこへの対応を迫られる。その中で、相手陣内へと攻め込み、その相手陣地でのプレー時間を増やせれば、それはポイント1で述べたように主導権を握ることにも繋がってくる訳だ。過去にグアルディオラが述べた言葉が、その効果を裏付けている。
「中盤で15本のパスを繋ぐことによって、相手の陣形を崩しながら自分たちの陣形を整えることが出来るのであれば、ボールを持つことは重要だ」
鹿島のポゼッションはパスを最後尾から繋ぎ続けて、そのままゴールへと結びつけるような華麗なパスサッカーを目指すものではないだろう。自分たちの武器であるハイプレスとショートカウンターを効率よく発揮するための、小休止かつ下準備と捉えられるものである。
ポイント3 ブエノの穴を埋めろ!
今季の鹿島のコンセプトがハイプレスだということはもう何度も文中で述べてきた。プレッシングというのはボールを奪いにいく人数をそれなりに掛けなければいけない。人数を掛けることで相手の選択肢を削って、自分たちがボールを奪う可能性を上げられるからだ。
そのプレッシングを高い位置から行うということは、必然的にチームは全体的に前がかりになる。そうなれば、後方には広いスペースが出来てくる。万が一、プレスを外されると相手は当然その後方の広いスペースを使ってくるだろう。独力でゴールに向かうことの出来るアタッカーがいるなら尚更だ。
このことを考えると、鹿島の最終ラインの選手には広い守備範囲をケアする能力と、強力なアタッカーに個の対決で負けないことが一層求められてくる。こうした部分を自分の武器としていたのがブエノだった。連係面に不安があり、ミスもあったが、自慢の身体能力はJリーグでも屈指のものであり、昨季もFC東京のディエゴ・オリヴェイラや永井謙佑といった他クラブの強力アタッカーに全く引けを取らない好パフォーマンスを披露した。
しかし、そんなブエノがこの中断期間で移籍してしまった。昨季以上に最後尾の選手には個々の守備能力が求められる今季のことを考えると、この移籍はかなりの痛手である。この穴は他のセンターバック陣で埋めていくしかないだろう。特に、新加入の奈良竜樹や2年目で飛躍に期待がかかる関川郁万の活躍はチームの目標達成には欠かせないことだろう。
また、チームは杉岡大暉や山本脩斗といった本職がサイドバックの選手もセンターバックでの起用を検討しているようだ。今のセンターバック陣の4人という数は、決して不足ではないが連戦続きのシーズンを考えるとかなりギリギリだ。ケガ人発生などの可能性も考えると、選択肢が多いに越したことはないし、また彼らがそれぞれ持っている武器がセンターバックで活かされることの化学反応にも期待したいところだ。
おわりに
リーグ戦が再開するとはいえ、クラブとしての見通しは決して明るいものばかりではない。このコロナ禍でJクラブの収入で重要な役割を担っていた入場料収入は大打撃を受けており、クラブはあの手この手で資金を確保しようとしている。
この打撃は夏場の移籍市場に少なからず影響を与えることになるだろう。資金に余裕がなければ、お金を費やして新たに選手を獲得してくることは出来ない。また、鹿島の場合は外国人をもう1人加えても全員を同時に出場させることが出来るが、世界第2位の感染者数で依然として感染拡大に歯止めがかかっていないブラジル国内の状況などを考慮しつつ、これまで助っ人の大半がブラジル人だったクラブ事情を考えると、獲得へのハードルはより一層上がってしまっていると考えざるを得ないだろう。
この補強という外部からの上積みの望みが薄い現状では、現有戦力の中でどう戦っていき、勝点を積み上げていくかという部分にフォーカスしていくべきだろう。当然、個々の奮起は欠かせないものであるし、ザーゴ監督にとってもなるべく早いうちに最適解を見つけ出したいところだ。
幸い、今季の鹿島は2チーム分とも言えるほど戦力自体は揃っている。まずは、週末の川崎フロンターレ戦。リーグ戦では過去4年間勝てていない難敵とのアウェイゲームだが、快進撃のきっかけとなる試合を期待したい。
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