烏瓜の花の事
8月1日
深夜から、降るような蝉の音が開け放った窓の向こうから聞こえてくる。まるでぴったりと蓋でもしたように、風は少しも吹かない。
居間の風鈴が鳴れば少しはましだろうと思うのだが、団扇であおいでみてもわざとらしいばかりだった。サカエダさんだけは涼しげな顔で、なんだか少し羨ましい。
うだるような暑さとは正にこの事で、僕もリンも早くに起き出して散歩に出かけた。今日からはリンのために、居間のエアコンをつけたまま出掛けることにする。
あまりに早くて、外はまだ薄暗い。
川沿いなら少しは涼しいかと思い、そちらに向かってみると、土手の木に絡んでいる烏瓜の花が群れて咲いている。
暗がりで見ると、はっとするような姿の花だ。じっと見ていると涼しいような気持ちになる。
しばらく見ていたら、蚊の羽音が聞こえたのであわてて退散した。秋になったら、真っ赤な烏瓜の実をひとつ失敬して、庭に植えてみようかと思う。
夕方、祖母が電話をかけて来た。
イズミヤさんの家にお邪魔するのは今月の十二日あたりでどうかと言うので、大丈夫だと答える。
ちょうど、お盆休みの始まる日だ。
十二日より前には、祖父母もこちらに来るつもりだというので、来る前に連絡をしてくれればいつでもいいと言っておいた。
リンが僕の隣に座って、聞き覚えのある祖母の声を、耳をそばだてて聞いていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?