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家の話
6月26日
僕の曾祖父は、絵を描くことを生業としてきた人物なのだけれど、若い頃はあまり売れなかったのだと聞いている。
亡くなった今でも、それほど有名ではないようだが、後年はそれなりに売れていたという話も聞いたことがある。弟子もいたそうだ。
日本画ばかりを描いていたのだが、あまり実物を目にする機会がなかった。曾祖父は僕が一歳になるかならないか、という頃に他界したのでほとんど記憶にない。幾枚かの写真で顔を見た事があるという程度だ。
もしかすると、敷地の外れにある小さな土蔵の中には、曾祖父の描いた絵が眠っているかも知れない。
それ以前のご先祖様の話を聞いたことはないのであまり詳しいことは分からないが、それなりに係累を辿れる血筋らしい。
母方の祖父と祖母が静岡に家を買って引っ越すと言い出した時、この家をどうするかで少し揉めた。揉めたと言っても、遺産相続とかそういう生々しい方向ではない。
誰も売り払ってしまおうとか自分のものにしようというつもりはなくて、ただ誰が管理をするのか、それとも不動産屋に委託して誰かに貸すのかという具合だ。つまり、管理なんて面倒なことは、あまりしたくないという雰囲気だった。
僕の両親は既に自分たちで建てた家に住んでいるし、妹はまだ学生だ。
母方の伯父も叔母も、もちろん自分の家やマンションに住んでいるし、父方の叔父や叔母たちも似たり寄ったりだった。
それならいよいよ誰かに貸すかというところで、祖母と祖父が急に声を合わせて僕を指名して、結局僕が住むことになった。
一体どういうつもりで僕が選ばれたのか、後で訊いてみると、集まった親戚一同の中で僕だけが面倒だとか嫌だとかいう表情も見せず、隅の方で真面目な顔をしていたからだという。
祖父母の目は確かだった。僕はこの家が嫌いではない。
二人はおそらく、そんなにずっと静岡に住み続けるつもりはないのかも知れない。だから家財道具はほとんどそのまま置いてあって、昭和の生活風景が現在に至るまでここにあるような感じなのだった。
家は古いけれど大事に住んでいたようで、傷みはほとんどない。祖父と祖母が若い頃に、一度大規模な改修工事をしたということだった。
僕も、管理を任された以上はなるべく大事に住もうと思ったのだが、リンが家の中にいると家にはやはり良くないかも知れないと思い当たる。
祖父母の家に電話をかけて、そのことについて訊いてみたら、あっさりと家の中でも構わないよという答えが返ってきた。もう少し大きくなったら、普段は外で飼おうと思う。子犬のうちは家の中にいてもらうことにした。
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