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散歩中の事
8月4日
早朝、リンと散歩をしていると、通り掛かった家の庭先から声が聞こえた。
声の主は男のようで、しまい忘れるとはまったくいまいましい愚か者だとか、このろくでなしだとか、どうやら不満を述べているらしい。
言い回しが芝居の台詞めいていて、しかもそれに応える声もなかった。声が聞こえた庭先は、背の高い生け垣に阻まれてちらとも見えない。奥に生け垣よりさらに大きな枇杷の木があるのだけは見えた。
なんだろうかと思いながら通り過ぎようとした時、ガタンと何かが落ちる音がした。
するとリンが音に驚いたのか、物音がした方に向かって、いつになく鋭く二度吠えた。
早朝だったので近所迷惑になるかと慌てたのだが、猫が一匹木の間から飛び出して来たのと、緑色の鳥が一羽飛び去って行った以外は何も起こらなかった。
リンは僕の顔を見上げて、なんだか申し訳なさそうな表情をしているように見えた。驚いたねと小さく声をかけると、すんと鼻を鳴らしている。
庭先で不満を述べていた声も沈黙しているので、そのまま散歩を続けた。
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