「血族」母が隠していた過去を探しあてる。これも自分史
アラ還年齢の私と同世代の方なら覚えているでしょうか。20数年前、NHK「ドラマ人間模様」という人気シリーズが放送されていて、私は熱心な試聴者でした。
有名なのは吉永小百合が演じた「夢千代日記」でしょう。山陰にある温泉地の芸者、吉永小百合は病を患っていて、彼女をめぐる日常や淡い恋模様を描いたシリーズは、長く続いたと記憶しています。
その中で山口瞳の「血族」も放送されました。主人公の山口瞳を小林桂樹が、瞳の母、静子を小川真由美が演じました。ドラマの中で「瞳さん」と語りかける、母役の小川真由美のハスキーな声は、今も脳裏に焼き付いています。
著者、山口瞳は小説の中で、当時、飛ぶ鳥を得る勢いだった政治家、田中角栄の私生活、夫婦生活への推測を延べながら、著者自身の両親の夫婦生活に言及していきます。母親とその親族が美形揃いだったこと。父の肉体が鍛えられていたものであったことなど…。
親戚の一人一人について、いずれも美形揃いだったことを巧みな筆致で記しながら幼い頃の著者が、どこか欠落感を覚えていたことを綴る。美しい母、たくましい肉体を持った父、頭脳優秀でもあった父。それなのに幼い日からずっと抱えていた筆者の虚無感。
自分と家族を、今、目の前で生きている人のように、ありありと描写する優れた筆致に先へ、先へと読み手は焦りながら読み急ぐ。登場人物を事細かく綴りながら、刻々と核心に迫りくる。それは、山口瞳氏の母と、母の親戚が隠していた思い過去でした。
私は、次第に母を知ることは自分を知ることだという思いが強くなっていった。これは、決して、必ずしも、母の秘密を発くことではないと思った。いつかは、どうしたって、やらなければならないことだった。
母が生涯語ることのなかった過去。それを追い続けるうちに著者の胸には後ろめたさのような感情が芽生えます。でも、自分に言い聞かせるのです。
著者の巧みな筆致によって、母が隠していた過去の全貌があらわになる。私たちは一斉に「ふぅ~」とため息をつくことでしょう。重い、でも背負わなければならなかった過去。過去を知ることで、母の生涯を、母と一緒になった父を知る。母の生き様を知る。これが自分史なのです。
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文章を綴ることで商売をしている人は、誰でも1度は自分の家にあるアルバムについて触れることがあるのではなかろうか。
冒頭の項で著者が触れた文にドキリとしました。なぜならば私たち自分史に関わる者は「1枚の写真」から過去を紐解き、思い出を綴ることを自分史の入口として紹介することがあるからです。山口瞳氏のような壮絶なドラマではないかもしれない。けれど、私たち一人一人がオリジナルの人生を送り、オリジナルの自分史があることは間違いありません。
これに気づかないのはもったいない! 自分史は過去を見返すことで、未来を見いだすものなのです。
#思い出の写真を数枚取り出して、あなたご自身のストーリーを創ってみませんか!
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