契約書を読んでみよう! 【請負と委任はどちらが有利ですか】

ビジネスでよくみかける業務委託契約。その多くは民法でいうところの請負か委任契約です。では請負と委任ではどちらが有利でしょうか? このような観点から契約書のチェックをしてみましょう。本記事では、業務委託契約書を読む際に重要な視点である、請負と委任の違いと、どちらが有利になるのかについて解説します。

請負と委任の違いは結果のとらえ方

そもそも「委任契約」とは?  当事者の一方が「法律行為をすること」を相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立し、効力を生ずる契約です。つまり何かを「代わりにやってもらう」約束が委任です。たとえば「保育園に子供を預ける」ことも「幼児の監護を委託する準委任契約」であるといえます。

たいする「請負契約」とは ? 当事者の一方がある仕事を「完成すること」を約束し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束することによって成立する契約です。

つまりポイントを抜き出せば委任は「行為をすること」、請負は「完成すること」を約束する契約です。

委任には善管注意義務、請負には完成義務がある

委任契約では、委任された側(受任者)には「委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務」があります。また委任にはどんなに仕事の内容を細かく定めても、ある程度「受任者の裁量」があるという特徴があります。つまり受任者を信頼して「おまかせ」する契約といえます。

請負契約の方は、前述のとおり当事者の一方がある仕事を「完成すること」を約束しますから「完成義務がある」のが委任との大きな違いです(逆に、委任契約のほうには「ある仕事を完成させる」という概念はありません)。

完成義務=引渡しではない

ちなみに、請負には「完成義務」があるので、物の引渡しが必須のようなイメージがありますが、必ずしもそうではありません。請負契約にも物を「引き渡さない」タイプがあります。通常は請負というと何かを製造する(建築物をつくる、部品を作る、洋服を作るなど)ことをイメージします。ただし原材料になにかしらの行為をほどこして完成させる(こわれたものを直す、きれいにする、物品を運送するなど)とか、一定の成果を完成する約束(たとえばソフトウェアをつくる、セミナー講師をひきうける、演奏するなど)も、請負とされています。絶対に物体の引渡しをするものだけが請負だ、と考えていると、ちょっと違うことがありますので、物を引き渡さない請負もあることを覚えておかれるとよいでしょう。

請負と委任ではどっちが有利?

では請負と委任の違いがはっきりしたところで、業務委託契約を締結するとき「請負と委任」ではどちらがよいのでしょうか? 傾向として、業務の受託側は委任契約にしたいと考え、委託側は請負契約で発注したいと考えることがよくあります。なぜなら請負契約には完成義務があって、委任契約にはない(完成を目的としない)、という違いがあるためです。

たとえば「システム開発」を請け負った会社があるとして、この会社が請負契約で受注すると、システムの完成の義務を負う(理論的には完成しなければ報酬ももらえないことになる)ことになります。けれど、委任契約で受注すれば完成義務がないから負担が少ないだろうと考え、受託会社が「委任」契約にこだわるといったことがあります。

逆に委託側(買主)としては、なんとしても請負契約で発注して、法律上も受託者に完成義務を負わせたい(もし完成しなかったら代金を支払わなくてよいから)と考えることがあります。つまり単純にいえば、売主にとっては委任が有利で、買主にとっては請負が有利といえそうです。

請負か委任かでもめる必要はない

ただし、業務委託契約が有利か不利かは、それが請負か委任かで決まっていまうほど単純なのでしょうか? そもそも取引にあたって請負か委任かの二者択一ではなく、事前にお互いに納得できる妥協点を決めて、それを契約書に入れて締結すればよい話です。つまり業務委託契約は、請負か委任かのどちらかでしか締結できないわけではなく、当事者間でルールを創設して、請負と委任の間のような、中立的な条件で契約すべきなのです。

もっといえば、売主にとって委任が有利、などと考えるのも少々単純すぎます。委任だから完成義務はないとはいっても、善管注意義務はありますし、ビジネス取引をしている以上、なにも完成しなくてもいいわけはありません。仕事を任されたなら、それを誠実に履行する義務は当然あります。ようは、いかにその業務内容をお互いに齟齬なく明確にさせられるかに尽きるのです。

言った・言わないを予防するという、契約書の役割の原点にもどれば、請負か委任かの単純な二元論ではなく、売主に有利な請負や、買主に有利な委任もありえ、どちらが有利ともいえないのでは? といいたいところです。

まとめ

・請負は完成を、委任は行為を目的とした契約
・請負は完成義務があり委任は善管注意義務がある
・委託側には請負が有利にみえる
・受託側には委任が有利にみえる
・でも現実の取引の際は、契約でそれらの差をうめてしまえばよい

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