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瑕疵担保責任から契約不適合責任へ修正する方法【条項サンプルと解説】

契約書を新民法に対応させたいけど、実際にどう変更すればいいのか? 特に「瑕疵担保責任」から「契約不適合」への修正はどうやるんだっけ? その方法を、具体的な条項サンプルをつかって全て説明します。改正対応はこれで安心ですね!

経済産業省「情報システム・モデル取引・契約書」の民法改正を踏まえた見直し整理反映版より引用した条項サンプル

Before 瑕疵担保責任条項

(瑕疵担保責任)
第○条 前条の確定後、外部設計書について要件定義書及び第○条所定の外部設計検討会での決定事項との不一致又は論理的誤り(以下本条において「瑕疵」という。)が発見された場合、甲は乙に対して当該瑕疵の修正を請求することができ、乙は、当該瑕疵を修正するものとする。但し、乙がかかる修正責任を負うのは、前条の確定後○ヶ月以内に甲から請求がなされた場合に限るものとする。
2. 前項にかかわらず、瑕疵が軽微であって、外部設計書の修正に過分の費用を要する場合、乙は前項所定の修正責任を負わないものとする。
3. 第1項の規定は、瑕疵が甲の提供した資料等又は甲の与えた指示によって生じたときは適用しない。但し、乙がその資料等又は指示が不適当であることを知りながら告げなかったときはこの限りでない。

After 契約不適合責任条項

(契約不適合責任)
第○条 前条の確定後、外部設計書について要件定義書及び第○条所定の外部設計検討会での決定事項との不一致又は論理的誤り(以下本条において「契約不適合」という。)が発見された場合、甲は乙に対して当該契約不適合の修正等の履行の追完(以下本条において「追完」という。)を請求することができ、乙は、当該追完を行うものとする。但し、甲に不相当な負担を課するものではないときは、乙は甲が請求した方法と異なる方法による追完を行うことができる。
2. 前項にかかわらず、当該契約不適合によっても個別契約の目的を達することができる場合であって、追完に過分の費用を要する場合、乙は前項所定の追完義務を負わないものとする。
3. 甲は、当該契約不適合(乙の責めに帰すべき事由により生じたものに限る。)により損害を被った場合、乙に対して損害賠償を請求することができる。
4. 当該契約不適合について、追完の請求にもかかわらず相当期間内に追完がなされない場合又は追完の見込みがない場合で、当該契約不適合により個別契約の目的を達することができないときは、甲は本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。
5.  乙が本条に定める責任その他の契約不適合責任を負うのは、前条の確定後〇ヶ月/〇年以内【であって、かつ甲が当該契約不適合を知った時から〇ヶ月以内】に甲から当該契約不適合を通知された場合に限るものとする。但し、前条の確定時において乙が当該契約不適合を知り若しくは重過失により知らなかった場合、又は当該契約不適合が乙の故意若しくは重過失に起因する場合にはこの限りでない。
【〇. 前項にかかわらず、前条の点検によって甲が当該契約不適合を発見することがその性質上合理的に期待できない場合、乙が本条に定める責任その他の契約不適合責任を負うのは、甲が当該契約不適合を知った時から〇ヶ月以内に甲から当該不適合を通知された場合に限るものとする。】
6. 第1項、第3項及び第4項の規定は、契約不適合が甲の提供した資料等又は甲の与えた指示によって生じたときは適用しない。但し、乙がその資料等又は指示が不適当であることを知りながら告げなかったときはこの限りでない。

引用元 独立行政法人情報処理推進機構

なんでこうなったのかも解説します

改正民法のポイントを確認をしてから → 修正の解説をします。

「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ変わった

民法の改正により、「瑕疵」という用語が、目的物が種類、品質又は数量に関して「契約の内容に適合しない」場合に請負人が責任を負う、という表現に変更されました。もともと瑕疵の意味は「契約の内容に適合しないこと」であるとされていたので、意味が大きく変わったわけではなく、表現がかわっただけと考えて差し支えありません。

とにかく、用語が変わりました。

で、契約不適合責任は売主側の負う責任ですから、もしも契約の内容に適合しないことがあれば(約束と違うところがあれば)、対する買主からは何を請求できるのか? ということ(=救済手段といいます)が問題になります。そこで前提として改正民法がこの点をどう決めているのかを整理します。

もともと救済手段は3つあった

もともとは、瑕疵担保責任に基づく注文者による救済手段は、瑕疵修補請求、損害賠償請求、解除の 3 つでした。

+追完請求【追加】

改正民法ではこのうち瑕疵修補請求にかかる改正前民法第 634 条が削除されて、注文者は「履行の追完請求」ができることになりました(改正後民法第 559 条に基づく第 562条の準用)。つまり契約と異なるので契約通りのものを請求できるわけです(ただし請負人は注文者が請求した方法と異なる方法による履行の追完を行うことができます)。

+報酬減額請求【追加】

もうひとつ、改正民法により、救済手段として「報酬減額請求」が追加されました(改正後民法 559 条に基づく第 563 条の準用)。報酬減額請求というのは、文字通り不適合の程度に応じて代金を安くしてもらえるよう求める事ができるという意味ですが、一定の要件があります。

報酬減額請求ができる場合(改民563)
①注文者が相当期間を定めて履行の追完の催告をしたにもかかわらず期間内に履行の追完がない場合
②履行の追完が不能である場合
③請負人が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示した場合
④契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、請負人が履行の追完をしないでその時期を経過した場合
⑤注文者が履行の追完の催告をして履行の追完を受ける見込みがないことが明らかである場合

いつまで請求できるのか【期間は?】

こうした救済手段は、いつまでも有効なわけではなく、期間が決まっています。いくら瑕疵/契約不適合があるといっても、買主が永遠に主張できるわけではないです。

引き渡しから1年 → 【知った時から】1年

瑕疵担保責任では、この期間は目的物の「引渡し」(引渡しを要しないときは仕事の終了時)から 1 年以内とされていました。改正民法では、注文者が契約不適合の事実を「知った時」から 1 年以内にその旨を請負人に通知すれば足りることとなりました(改正後民法第 637 条第 1 項)。つまり起算点が変わりました。

「知った時」から1年ということですが、もし不適合の事実を知らなかったらどうなるでしょうか。その場合は消滅時効に関する一般的な規律が適用されるので、目的物の引渡しの時又は仕事の終了時から 10 年間がタイムリミットになります(改正後民法第 166 条第 1 項第 2 号)。

用語の変更を契約書に反映する方法

こうした用語の変更を、契約書に反映させるために、上記のようなビフォアアフターの修正が行われます。結論から言うとやることは①用語のいいかえ、②救済方法の言い換え、③存続期間の調整です。

用語の言い換え

まず、改正民法では「瑕疵」という用語の代わりに「契約不適合」という用語になったので、契約書に「瑕疵」とある部分はすべて「契約不適合」に言い換えられています。

瑕疵→契約不適合

救済方法の言い換え

また、瑕疵があった場合に修正を請求できるとされていた部分は、改正民法が救済手段として追完請求を認めているため、契約書のほうでも「履行の追完」(修正等の履行の追完)と表現を変えています。

ただし改正後民法第 562 条においては、注文者に不相当な負担を課すものでなければ、請負人において履行の追完方法を選択することができるとされているので、ここをひろって、売主(請負人)が追完方法を決めることができる余地を残す条文となっています。

修正→履行の追完

責任の存続期間の調整

上述のとおり、改正民法では「契約不適合責任の存続期間」は注文者が契約不適合を「知った時から 1 年」です。買主が当該契約不適合を知らなかったら、最長で目的物の引渡し又は仕事の終了時から 10 年間も権利行使され得ることになります。

当然、このように責任の存続期間が長いと、売主にとっては大きなデメリットとなります。納品から時間が経過しているのに、不適合を「知った」のだから追完せよと言われてもそもそも対応できるかどうかという問題や、その分のリソースを保持しなければならない分、価格に反映させなければならないという問題が生じるからです。

とはいえ法律が「知った時」から1年の救済を認めている趣旨を考えると、製品の専門家ではない買主にとっては、たとえ納入時に確認検査を行っていたとしても容易に発見しえないような特別な契約不適合があれば、やはり救済されるべきだという気もします。

結局、この期間を長くするか短くするかは、売主と買主との契約条件に関する交渉で決まる部分であり、唯一の正解を決めることはできません。

客観的起算点の設定を

ひとつの例として、上記参考条文は(外部設計書の確定時/本件ソフトウェアの検収完了時などの)客観的な起算点を設定することで、責任期間を明確にしています(ただし、もちろん売主が不適合を知っていた場合などは期間制限は適用されません)。

検収完了時から◯年

まとめ

契約書の民法改正対応のなかで、最も目立つ部分といえばやはりこの、「瑕疵担保→契約不適合」ではないでしょうか。用語の言い換え、救済手段の言い換え、そして存続期間の調整という、3つのポイントを確認することで、従来の瑕疵担保責任条項を改正対応させることができます。

瑕疵担保責任の意味は根本的には変わらないので、売主としては具体的な業務の性質にてらして、実際にはどのような責任が生じそうかをイメージし、実態とあった契約書に修正していきたい部分ですね。

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