2020年 民法改正と新たな契約書のポイント【契約解除条項編】
民法改正をふまえた契約書のポイントについて網羅的な情報を知りたいですか?
本記事では民法改正の概要説明と、契約書のポイントを解説します。
これから契約書を作る方や、ミスが無いようにチェックしたい方は必見です。
2020年 民法改正と新たな契約書のポイント【契約解除条項編】
平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士、竹永大です。
突然ですが質問です。
あなたは、ある業務委託契約の受託者だとします。もしも契約書に、
「受託者は、会社分割、合併等の組織の重要な変化により、委託者が本契約の契約当事者を実質的に変更した場合には、無催告で本契約を解除できる。」
とあったら、あなたならサインしますか?
答えは、受託者ならばサインしても大丈夫です。ただし、実際の解除条項はもっと複雑ですから総合的に判断する必要があります。なぜそう言えるのか、解除の意味や民法改正の影響もあわせてチェックしましょう。
契約の解除とは?
契約には普段の買い物のように、スポット的なものもあれば業務委託契約や代理店契約のように、当事者の継続的関係が一定期間続くタイプのものもあります。
継続的な関係というのは「順調」なうちはいいのですが、長く続いていくため途中でトラブルになることもあります。そして「やっぱり契約をやめたくなった」とき、契約が解除できるかどうかが問題となります。じゃあどうやって契約はやめればいいのでしょうか? まずそもそもある契約が終了するという現象について確認します。
契約が終了するとき
一般的に契約が終了するのは、大きく分けて
①契約期間が満了したとき、
②解約の合意がなされたとき、
そして
③契約違反があったときです。
契約の終了パターンの整理
①は当然のことですが、契約期間が満了したら普通は契約はそこで終わりです。
契約期間のところに「自動更新」と書いてある契約書も多いですが、その場合でも更新前の決められた期間内に通知をするなどすれば期間を満了することができます。最も自然な終了のかたちですが、契約期間の満了まで待たなければなりません。
②の、解約の「合意」があったときというのは、その両当事者の合意に基づいて契約を解消させることです。このように当事者同士が納得すれば、契約を終了させられます。これは合意解約(合意解除)といって、期間の途中でも穏便に契約を終わらせることができます。解除を考えたときは、とにかくこれを目指すべきです。
③の、「契約違反」があったときも、違反された側から解除できることになります。「債務不履行による解除」といって、相手が契約に違反したら、された側から意思表示をすれば解除できるという民法上のルールがあるからです。
法定解除
契約違反、つまり契約で決められた義務をちゃんと果たさないことを「債務不履行」といいます。たとえば商品を購入したのに、売主が契約上定められた日までにその商品を納入しなかったとか、納入はされたが不良品だったとか、あるいは逆に、商品を納入したのに買主がその代金を支払わないといったことです。もっと身近なことでいうと、レストランの予約を無断でキャンセルするのも、一種の債務不履行でしょう。
それで繰り返しになりますが契約の相手方に「債務不履行」があった場合は、民法上、それを理由に契約を解除することができます。民法で決まっていることなので「法定解除」と呼びます。
ただ「法定解除」とはいっても、黙っていきなり解除できるわけではなく、解除のステップが決められています。原則としてはまず債務不履行をした相手方に対して相当の期間(ある程度の猶予期間)内に契約を履行するよう「催告」をする必要があります。そしてそれでも履行してくれない場合に、あらためて解除の意思表示(通知書を郵送するなど)をすれば解除できる、というしくみになっています。
約定解除
上記で、契約が終了する3つのパターンをみてきましたが、どれもある程度時間がかかってしまいます。「契約は守るのが原則」ですので、あまり自由気ままに解除できてしまっても困るからです。
とはいえもう少し自社の都合にあわせた契約のやめ方はないでしょうか? もうお気づきだと思いますが、あらかじめ契約で当事者間における解除のルールを決めておけば、これに従って解除することが可能になります(約定解除といいます)。
つまり契約で、どんな場合に解除できるのか(解除事由)や、どんな手続きで解除できるか(解除手続)を決めておくわけです。当事者があらかじめの合意によって独自の解除制度を設定できるのが、解除条項なのです。
大切な事なので繰り返すと、契約書で「解除事由」や「解除手続」を決めておくと当事者間で決めたルールで、契約を解除できることになるのです。
実際に解除条項の例をみてみましょう。解除条項の例はたとえば次のようなものです。
(解 除)
第●●条 甲又は乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。
① 重大な過失又は背信行為があった場合
② 支払いの停止があった場合、又は仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立があった場合
③ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合
④ 公租公課の滞納処分を受けた場合
⑤ その他前各号に準ずるような本契約又は個別契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
2 甲又は乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部又は一部を解除することができる。
ここには「解除事由」と、「解除手続き」が書いてあることが分かると思います。「解除事由」は①②③・・・と、箇条書きになっている部分ですね。
箇条書き部分にはたとえば相手方の「信用状態の悪化」とか、ネガティブなことばかり並んでいますね。まるで「重箱の隅をつく」ようですが、とにかくここに書かれたようなことが起きたらあぶないから解除できることにしておこう、という項目が、解除事由です。できる限りリアルに考え、実際どんなときに解除したくなるのかを想定しており、文言はほとんどテンプレート化しているため、似通っています。
「解除手続」にあたるのは、「催告なしに直ちに」とか「相当期間を定めてなした催告後」などと書いてある部分です。第一項では、相当の期間を定めて催告をするなどといった回り道はせずに、「直ち」に解除の意思表示をして解除できる、とありますので迅速な解除が可能という意味になります。(第二項は催告後に解除することができるという規定です。)
契約の種類によって解除できることもある
ここまでに挙げた方法以外に、契約を解除できる場合はないのでしょうか? 契約の種類によっては特別な解除のルールがあります。具体的にいうと請負契約と委任契約には、民法上、特別の解除権が決められています。
請負契約では、仕事が完成する前なら、注文者はいつでも契約の解除をすることができるとされています。(ただし、解除をする注文者は請負人に対して損害を賠償する必要があるので、気軽に解除してよいというわけではありません。)
そして委任契約では、当事者のどちらからも、いつでも契約を解除することができるとされています。(ただしこちらも、相手方にとって不利な時期に委任契約を解除した場合には損害賠償義務を負いますので、勝手気ままな解除が許されるというわけではないです。)
その他にも、①定期行為といって、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない契約の場合は、契約の相手方が履行をしないでその時期を経過したときには、催告なく契約の解除をすることができることになっています。誕生日のケーキ、結婚式のウエディングドレス、成人式の着物、のようなケースで、納品がなかった場合をイメージするとわかりやすいと思います。
また、②契約の履行不能といって、債務の全部の履行が不能となった場合も、直ちに(催告することなく)契約を解除できます。さらに③相手方が履行拒絶した場合も同様となります。
法定解除に関するルールの民法改正
法定解除と約定解除が理解できたところで、さらにこれからの契約書のチェックに役立てるため、「債務不履行に基づく契約解除」の規定が、今回の民法改正でどのように変わったか? を確認してみましょう。
①帰責事由の除外
ここで法律的なポイントをひとつ考えてみます。
債務不履行とは「契約で決められた義務を履行しないこと」でした。
では、その理由や原因は問われないのでしょうか?
たとえばあなたとの約束の時刻に遅刻した人がいたとして、その理由が「寝坊」だと腹が立ちますが、「交通事故」だったら、逆に同情してしまいますよね。
ある契約に対して不履行があったとき、それが本人の不注意や確認ミスなど、債務者側に悪いところ(帰責事由)があってそうなったのなら、契約を「解除」できるのも当然のような気がします。
ですが、たとえば天災や第三者の行為など、債務者に責任のない理由で履行できなかったときは、どうなのでしょう。「解除」はできるのでしょうか? できないのでしょうか?
つまり問題を整理すると、同じ契約違反でも本人の不注意でそうなったのと、そうではないのとで、解除できるかどうかという結果は変わるのかどうかです。この問題を、これまでの民法(旧民法)では、債務者に帰責事由があるときは解除できるが、そうでなく「債務者側に帰責事由がないとき」は解除ではなく危険負担等の問題になるとされていました。つまり帰責事由の有無で判断が変わったのです。
この点を新民法は、解除において債務者の責に帰すべき事由(帰責事由)は不要だとしています。つまり、帰責事由があるときもないときも判断は同じ、いずれにしても解除できることにしました。債務不履行があった際に、契約関係から離脱できるようにするためです。
新民法が定める、解除ができない場合とは?
ところで新民法においても例外的に「債務不履行があっても催告解除ができない場合」があります。どんな場合でしょうか?
先にまとめると、以下の場合です。
・ 債務不履行が軽微な場合は解除できない(改正民法541条但書)
・ 債務不履行が債権者の落ち度による場合は解除できない(改正民法543条)
・ 解除権者が故意又は過失によって、契約の目的物を著しく損傷したり、返還できなくなった場合等は解除できない(改正民法548条)
不履行が軽微な場合とは
催告解除については、不履行が軽微な場合は解除できません。これは契約の「主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠ったに過ぎないような場合」には「契約を解除することができない」という理由です。
「軽微」かどうかの判断は「その契約及び取引上の社会通念に照らして」決まります(改正民法541条但書)。よって契約内容からしてあまりにもわずかな契約違反(軽微な数量の過不足や付随義務違反など)では、解除はできないことになります。
(催告による解除)
第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
債権者の落ち度による場合
不履行とはいっても、原因が債権者にある場合にまで、解除を認める必要はありませんから、(改正前民法には明文の規定がありませんでしたが)新民法では、債務不履行が債権者の帰責事由による場合は債権者は契約の解除ができないと規定しています(改正民法543条)。
契約書による対応が望ましい
民法上のルールを説明してきましたが、絶対のものではありません。つまり上記の「解除ができる」とか「できない」という話は、新民法による解除のルールです。つまり、契約で別の定めをすれば、そちらに従うことになり、先ほど説明した約定解除(契約で当事者間が定める解除のルール)によって、当事者は解除することができます。
たとえば「軽微な場合は催告解除できない」とか「債権者に帰責事由があるときは催告解除できない」と新民法は定めていますが、契約書の方で「そういう場合でも解除できる」と定めることだって可能だということです。
無催告で解除できる範囲
こうやって原則(法定)と例外(約定)を使い分けらえるからこそ、契約が重要になってきます。そこでもうひとつ、新民法のルールを確認しておきましょう。債務不履行による解除は原則として催告してから行うことになっていますが、一定の場合には無催告で解除できるとされています。どのような場合でしょうか。
新民法による無催告で解除できる範囲は次のとおりです。
(催告によらない解除)
第542条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
つまり従来の「定期行為」、「履行不能」に加えて、「確定的履行拒絶」、「一部履行不能」、「一部履行拒絶」、が無催告解除ができる範囲に加わったことになります。
あらためて解除事由を読んでみる
債務不履行による解除の基本と、民法の改正点がわかったところで、あらためて契約の解除条項を読んでみてください。きっと、より深く解除条項が読めるようになっているはずです。
ふたたび解除条項の例です。
(解 除)
第●●条 甲又は乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。
① 重大な過失又は背信行為があった場合
② 支払いの停止があった場合、又は仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立があった場合
③ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合
④ 公租公課の滞納処分を受けた場合
⑤ その他前各号に準ずるような本契約又は個別契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
2 甲又は乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部又は一部を解除することができる。
いかがでしょうか。解除条項の「解除事由」の部分は、たいてい箇条書きになっていて、つい油断して読み飛ばしがちなところです。
そこで読み方のコツですが、解除事由を意味のまとまりごとにグループ分けしながら読むとよいです。絶対にこうなると決まっているわけではありませんが、よくある解除事由のグループは以下の3つです。
①債務不履行など(納品しないとか滞納したなど)契約に違反があった場合
②コンプライアンス関連。法律に違反したとか、いわゆる反社会勢力に該当した場合
③お金関連。破産などの経済的な信用不安が発生したり、しそうになった場合
いざというとき解除できるか? が重要
いろいろ細かい話をしましたが、解除条項の役割をシンプルにいえば、「解除したいときに解除できるようにしておくこと」です。
継続的な契約をいざというときに解除ができるかどうかが、ビジネスの明暗をわけることがあります。契約を獲得し継続することも大事なら、必要なら解除できるということも同じくらい大事です。逆に困るのは「こちらが解除したいときに解除できない」こと。
ここで冒頭の一文を思い出してみてください。
「受託者は、会社分割、合併等の組織の重要な変化により、委託者が本契約の契約当事者を実質的に変更した場合には、無催告で本契約を解除できる。」
つまり「会社分割」などを「解除事由」とする条文だと読めますよね!
悩むとすれば、会社分割などの事業再編を、契約の解除事由に含めるべきかどうか? です。会社分割とは、事業を切り離して別の会社(あるいは新設の会社)にくっつけるやりかた(権利義務は分割先に承継される)です。
そして、委託者方が合併・会社分割・営業譲渡などの組織再編、その他会社の支配に重要な変更をした場合に、契約を解除する必要が生じ得るのかどうかを考える必要があります。
会社分割や事業再編自体は法律違反ではありませんし、必ずしも経済的な不安要素ともいえません。先ほど3つ挙げた解除事由の典型グループにもあてはまりにくいようにも思います。
ただ、契約の相手方が事業再編によって事実上変更してしまうことは、契約のリスクが増加することとも考えられます(仮に新会社の支払能力が乏しかったら? 債権回収リスクになるかも等)。よってこれは受託者の側から見ると解除事由に加えた方がよい事項だということになります。
こうして解除条項の役割と解除事由の意味を理解して加除修正を判断していくと、契約書のチェックがおもしろくなりますね。
まとめ
・契約解除条項は「解除手続」と「解除事由」を読んで検討しよう
・ 新民法で債務不履行による解除のルールが少し変わったので確認しておこう
・自社にとってのリスクを考え、解除したいときにできるようにしよう
最後に宣伝です
【忙しい事業者さまへ】
契約書作成には、手間と時間がかかるうえに、
自分だけで考えても、不足している部分がでてきたりします。
「自社でもつくれるけど、正直手が回らない!」
「第三者の客観的な視点で、ちゃんとしたものをつくりたい」
そのようなときは、平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士をご利用ください。ヒアリングの後、一般的な条文をつけ加えて下書きを作成し、ご確認いただいてから修正して完成します。
某公社さま、エージェンシー会社さま(複数)、IT関連企業さま(複数)からも、速さと丁寧さを絶賛いただいています。
企業でよく使われる業務委託契約、代理店契約、ライセンス契約、フランチャイズ契約が、およそ2週間で、できあがります。
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