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約款と契約の違いは? 【なぜ合意したことになるのか】

約款や利用規約も契約の一種であり、その意味で違いはありません。ただ約款や利用規約は、通常の契約書のように交渉や修正がありませんし、そもそもよく読まないで申し込むことがほとんどです。つまり約款や利用規約は、法的な意味は通常の契約書と同じでも、利用の実態は少し違っています。

約款の特徴は?

①多数の人と契約すること(利用者がとても多い)
②定式化されていること(最初から決まっていて変わらない)
③利用者はあまり読まないこと

約款の例としては、よく、電気・ガスの供給約款が挙げられます。銀行預金の規程とか、保険約款も、約款です。もちろん、クレジットカード利用規約や、ネットで買い物する際の利用規約、取引規約とかSNSの利用規約なども約款です。

必ずしも名前に「約款」とついてなくても良いわけです。ようするに、一律に多くの人と契約できるようにすることで、利用者も提供者も時間と手間の節約になるシステムが、約款だといえます。

通常の契約書との違いは?

何度もいうように、約款も契約である点で違いはありませんが、通常の契約は、お互いの合意(意志の合致)を根拠に、当事者双方に拘束力を発生させます。逆にいえば、お互いの意志の合致がなければ拘束力もないのです。契約においてはそもそも、申し込む人がよく知らないことや、理解できていないことについては、原理上成立できないはずです。

ところが約款の世界で、よく知らないからとか、理解していないから成立していないなんていわれたら大変です。あなたも、上記に挙げた約款の具体例(さまざまな利用規約)のうち、どれかひとつでも完全に理解してから申し込んだことがあるでしょうか。僕だって、ネット上の利用規約も、たいていは細かいところまで目を通さずに、「同意」ボタンを押していると思います。

つまり厳密には意志の合致があったとはいえなくても、約款を利用した取引は社会にすっかり浸透していて、今日もどこかで活用されています。いまさら約款には明確な法的根拠がないから無効(約款の拘束力を認めない)なんていえないわけです。よって、さまざまな解釈を駆使して約款の有効性は説明されてきました。

読んでいないのに有効?

とはいえ、そろそろこうした問題を整理しようではないかということで、改正民法では「定型約款」という概念が導入されました。定型約款とは「定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体、といわれます。

つまり、ある一定の約款には民法が「定型約款」という名前を付けて、ちゃんと法律で定義したわけです。たとえるなら、これまでも存在は知られていたのに地図にはのっていなかった街が、ようやく地図に描き足されて住所もつけられた、というような感じです。

これによって「定型約款」はれっきとした民法上の約款となったので、どのような場合に定型約款が成立するのか、表示手続はどうするべきか、変更したくなったらどう手続きすべきかなどのルールも規定されました。これで少しは、約款にも法的根拠が与えられ、堂々と提示できるようになるというものです。

じゃあ、一番問題だった「読んでない」のに有効っていう問題はどうなったのでしょう? もとはといえば、ここがちゃんと民法に書いてないから、なんとも歯切れの悪い説明になってしまっていたわけです。

合意とみなされるためには?

新しい民法による「定型約款」の規定には、一定の要件を満たすと定型約款の条項について当事者が合意したとみなされる、というルールがあります。つまりある要件をクリアしていれば、(あんまり読まれない)定型約款でも、合意成立ということにしよう、ということですね。これを「みなし合意」といいます。

じゃあどういう要件かというと、
①定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき、または
②定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき、
のいずれかという要件です。

合意するか、さもなくばあらかじめ表示していたか。

民法548条の2
1.定型取引(ある特定の物が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2.前項の規定にかかわらず、同項の上項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

①契約の内容とする旨の合意

①の合意により、個別の条項のことまでは知らなくても、当事者が定型約款を契約の内容とすると「合意」しているんだったら、もはやその定型約款について合意したとみなすことになります。

たとえば申し込みの段階で「契約内容の詳細は当社のエンドユーザ約款により定めることとし、申込者はそれに同意します。」などとした申込書を使うことで、この要件を満たす作戦が考えられますね。

②あらかじめの表示

②は「定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に表示していたとき」とありますから、ようするに約款が適用されるからね、と相手に「事前に表示」していれば、約款の内容についても合意したことになります。表示ですからその旨がわかるように相手に見せればよいわけです。ただし、あらかじめ見せることが必要です。

表示方法が重要で、さすがにたとえば直接対面で申し込む場合に「ホームページのどこかに書いてあります」などは「あらかじめ表示」の要件を満たさないでしょう。ウェブ上で申し込む場合も、あとで表示が「あった」とか「なかった」とかの争いにならないよう、できるだけはっきりと個別に表示すべきです。

ようするにどうやって合意取得するべきか

合意とか表示とか、約款が契約の内容になるための要件がいまいちイメージしにくいため、もうすこし具体的に考えましょう。あなたが約款(利用規約)などを表示する事業者ならば、あらかじめ定型約款をつくり、それがお客さんと自社との「契約内容」として有効でないと困ります。よって、みなし合意の要件を満たす手順にしましょう。

要件は、「合意」するか、または「あらかじめ表示」するかのどちらかです。これらがはっきりとわかるような(記録・証拠が残るような)申込手順にすべきですね。合意を取る方法でいくとしたら、たとえばサービスにオンライン申し込みをしていただく場合に、ウェブサイトの申込画面に、

(当社)の「お客様ご利用約款」が適用されることに合意した上申し込みます

のようなボタンや、チェックボックスを作成して押下やチェックをしていただく手順を挟みます。ログが残されれば、合意の記録になるでしょう。

また、「あらかじめの表示」の例としては、以下のような文章をウエブサイトの適切な位置に表示させることで要件を満たします。

本サイトの利用者には、(当社)の「ユーザ利用約款」が適用されます。契約内容の詳細は、当該約款をご覧ください。

具体的な約款のリンクなども、上記の文言のあるページと同一のページに掲載して、特定の約款が適用されることをあらかじめ明示します。

表示上の注意

そもそも見えにくい位置に表示があるとか、画面をいくつか切り替えないとリンクがみつけられないといった構造はのぞましくありません。厳密にいえば、約款の全文が読めるかどうかは、定型約款のみなし合意の要件には含まれていません。ただ常識的に考えて、「約款」が契約内容になることをあらかじめ表示する際にはやはり、その約款が開示されるのが自然だと思います。わかりやすい位置に約款へのリンクが表示されるべきでしょう。

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竹永 大 / 契約書のひな型と解説
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